宮城県石巻市の北上川河口には日本でも有数と言われるヨシ原がありますが、津波と塩害でその4割もが失われました。少しずつ回復に向かう中、新たな問題も深刻化しています。

宮城県蔵王町の国指定重要文化財、我妻家住宅。2021年・2022年と福島県沖地震で2度大きな被害を受けこのほど復旧しました。

1753年に建てられた当時の豪農の住宅で、大きなかやぶき屋根に使われているのが北上川のヨシです。

石巻市を流れる北上川。その下流に日本有数と言われるヨシの群生地・ヨシ原が点在しています。

風に揺られ音を奏でるヨシ原。環境省の選ぶ「日本の残したい音風景100選」にも選ばれています。ヨシ原は多様な生き物が生息する自然の宝庫でもあります。

国土交通省 北上川下流河川事務所 中村恭太さん
「北上川の象徴であるヨシ原は、ヒヌマイトトンボをはじめとする、汽水域の多様な生物が生息する環境となっています」

ヒヌマイトトンボは体長3センチほどの小さなトンボ。汽水域のヨシ原などに生息しますが、生息地が減り絶滅危惧種に指定されています。

渡り鳥のさえずりに耳を澄ませ、カニやシジミなどを観察する地元の小学生。豊かな生態系を支えるヨシ原は子供たちにとっても生きた自然の教科書です。

地元の小学生
「この自然がなくならないでほしい」

その北上川のヨシ原は、東日本大震災で大きな被害を受けました。

国土交通省 北上川下流河川事務所 中村恭太さん
「東日本大震災の影響としては津波の遡上によってヨシ原が流されて、156ヘクタールから95ヘクタールと約4割消失。その後の回復は消失した面積の約3割にとどまっています」

もともとこの水域は川の水と海の水が程よく混ざり合う汽水域で、ヨシ原の形成に適した環境でした。しかし、津波の遡上とそれに伴う塩害でヨシ原は一時、約4割も失われました。

震災発生から12年が経ったおととしの時点でも、回復したのは消失した面積の3割程度にとどまっています。

さらに、今、別の問題が深刻化しています。

堤勇高アナウンサー
「すぐ近くにヨシとは違うような植物が生えている。あれは外来種?」

国土交通省 北上川下流河川事務所 中村恭太さん
「そうですね。これはイタチハギや、セイタカアワダチソウという外来種になるんですが、もともと北上川にはヨシ原が広がっていたんですが、乾燥化の影響でイタチハギや、セイタカアワダチソウ(外来種)が入ってきているという状況になります」

原因の一つが地盤の乾燥化です。ヨシ原にとっては雨で一時的に川の水が増えることが必要ですが、近年はその回数が少ないこと、加えて震災による地盤の上昇も乾燥化が進む原因になっているといいます。

国土交通省 北上川下流河川事務所 中村恭太さん
「目標としては震災前のヨシ原の面積に戻していこうという目標がある中、今我々が手をかけないと、完全に消失してしまうという予測がありますので」

危機感をもった北上川下流河川事務所や市民団体などは水の通り道となる溝を掘るなどヨシが生育しやすい環境を守る活動を続けています。

国土交通省 北上川下流河川事務所 中村恭太さん
「震災前の植生の割合はヨシ原が4割ほど。震災前と同じ4割に戻していくというところになります」

また、ヨシ原の減少はさらにヨシ原が減ることにつながると専門家は指摘します。

東北工業大学工学部 山田一裕教授
「北上川の下流域のヨシは全国に出荷されるほど、非常に良質なカヤ材として利用されてきました。ヨシが減ると、出荷がなかなか増えない。増えないということは、その地域での経済活動が上昇しないということになりますので」

ヨシが生えなければ、それを生業としていた人たちが手をかけなくなる。そうすると、よりヨシが生えづらい環境になってしまうという悪循環に陥る可能性があると山田教授は指摘します。

毎年春に行われるヨシ原の火入れ。ヨシ原の大切な手入れの一つで、狩り残したヨシと雑草を焼きヨシの新芽の成長を促すものです。手をかけたヨシ原は、こうして再生を繰り返し生態のバランスを保っています。

東北工業大学工学部 山田一裕教授
「ヨシ原は自然の一つの場面、形態ではありますけど、大事な要素は自然環境、原生林を守ってきているわけではなくて、人間との関わりの深い生態系なんだと念頭に置いて、自然任せのまま放っておくというよりは、むしろ使っていくことによって守られていく自然なんだと」

そのため、ヨシを資源として使っていくことがヨシ原を守ることになると山田教授はいいます。

東北工業大学工学部 山田一裕教授
「ヨシ資源の商品やサービスを積極的に選択して使っていくということに尽きるのではないかと思います。価格では外国産のヨシに負けてしまう部分はあると思います。その中で国産のヨシの価値をもう一度見直してもらうことが大事かなと思います」

地元の小学校が毎年行っている紙すき体験。使っているのは、子供たちが刈り取った北上川のヨシです。

すいた和紙は、子供たちの卒業証書になります。こうした取り組みも地域にある豊かな自然の価値を知ることにつながっていくはず。

ヨシ原再生の道のりに時間の猶予はありませんが、様々な角度からのアプローチが続いています。

仙台放送
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