頭やしっぽなど、マグロの捨てられる部分を「もったいないから」と利用して作った肥料。いま、農産物の美味しさを引き出す話題の肥料になっています。
静岡県静岡市清水区にある大多和農園。
雄大な駿河湾を一望できるこの場所で7年前からミカンや甘夏、ポンカンなどを育てています。
大多和農園・大多和建詞さん:
いまは摘果といって風や病気で汚くなったもの、余分に大きくなった実を落として、一番良いおいしい大きさになるよう調整する作業をしている
心がけているのは、なるべく農薬を使わないこと。
虫や病気による被害を防ぐよう手間暇かけて作られたミカンは、甘みと酸味のバランスが取れたジューシーな味わいに仕上がっています。
大多和農園・大多和建詞さん:
自分の子供たちの口に入るものだから、たくさん農薬をかけることは嫌かなと考えている
また、こだわりは肥料にも…
大多和農園・大多和建詞さん:
マグロをいっぱい使っている肥料。最初の2年は特に何かが変わったということはなかったけれども、3年目にお客さんから「ミカン畑が変わったの?味が急に変わったけれど」と言われ出して、おいしくなったのかなと
ポンカンはこの肥料を使い始めてから、売り上げがなんと4割近くアップ。
さらにミカンの品質が向上したことで、ゼリーやジュースといった商品の開発にも乗り出すことができました。
お茶や柑橘類など、農業用の肥料や家畜用の飼料を製造している静岡市清水区の伊豆川飼料。
伊豆川飼料・伊豆川剛史 取締役:
これは清水のツナ缶工場で出る加工残渣と呼ばれる、マグロの人間が食べなかった部分
魚を缶詰に加工したり刺身にしたりする際に廃棄される頭や骨。
伊豆川資料ではこうした残渣を細かく砕いて50種類以上の原料を混ぜ合わせることで、作物やその土地に合ったオーダーメイドの肥料を作っています。
伊豆川飼料・伊豆川剛史 取締役:
オーダーメイドの肥料が置いてある。例えば袋にブドウと書いてある。これはブドウ農家向けに特別に配合した肥料。こっちはお茶向け。奥にあるのもお茶向け
カツオの水揚げ量は日本一、マグロは全国2位を誇る静岡県。
伊豆川飼料が創業した1949年頃は当時の清水市を中心にツナ缶の加工業者が爆発的に増えたタイミングでした。
伊豆川飼料・伊豆川剛史 取締役:
約75年くらい前に元々親戚が缶詰工場を経営していた。そこで祖父が「もったいないから商売にしよう」と始めたのがスタートだと聞いている。魚を加工する環境とマグロを調達する環境が清水はすごく恵まれているので、それを無駄にしないで有効に地域と共に利用していこうというのが昔からある地域だと思っている
魚の残渣を使った肥料は通常の肥料と比べてたんぱく質が多く含まれ、農作物に良い影響を与えると言われていて、静岡大学農学部の研究では伊豆川飼料の肥料を使用したお茶はストレス緩和や免疫機能を上げるアミノ酸の数値が高いという結果も出ています。
伊豆川飼料・伊豆川剛史 取締役:
農家から、伊豆川さんの肥料をあげたら「ミカンがおいしくなった」とか「お茶が良くなった」とかすごくよく聞くので、大学の先生などと一緒にいま科学的に解明できるように頑張っている。地域の水産業・農業と一緒に発展してきているので、それをこの先も守り続けなければいけないし、静岡ならではの産業であるので、これをずっと後の世代にも引き継いでいきたいと思っている
元々は“もったいない”から始まった循環型の肥料づくりですが、今では静岡の特産品をより引き立てる大きな武器となっています。