ペットは、かけがえのない家族。しかし彼らは体の不調を言葉で訴えることができない。声なき声に耳を傾け、小さな命を救うため奮闘する動物病院の現場は、常に緊張と隣り合わせだ。日々の診察から緊急手術まで、獣医師たちはどのようにして病の原因を探り当てていくのか。福井市にある動物病院の、多忙な一日に密着した。

診察時間外でも…命を救うため奮闘

福井市にある桜「さくら通り動物病院」。その一日は、午前9時の朝のミーティングから始まる。

午前9時のミーティング
午前9時のミーティング
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「昨日お昼に子宮蓄膿症の手術をして、しばらく入院予定です」

スタッフ間で前日からの引き継ぎ事項や、その日やるべき仕事を共有していく。

さくら通り動物病院のスケジュール
さくら通り動物病院のスケジュール

診療時間は午前9時半から午後0時半、そして夕方4時半から夜8時まで。その間には手術や検査が組み込まれ、スタッフは交代で休憩を取る。しかし、急患の対応などで時間は伸びることも少なくない。

ペットホテルが併設
ペットホテルが併設

診療開始まで30分。準備が慌ただしく進む中、すでに治療を受けているイヌの姿が。この病院には宿泊施設、通称「ペットホテル」が併設されており、手術後や症状が重いペットを預かることがある。

この日も、前日に手術を受け入院しているイヌに、血液が正常に作られているかを確認するための処置が行われていた。小さな命を救うための処置が、病院の扉が開く前から始まっている。

「喋れない」患者との向き合い方

午前9時半、診療が始まった。開院と同時に、車で待っていた飼い主とペットたちが次々と入ってくる。

“患者”の8割はイヌとネコ
“患者”の8割はイヌとネコ

患者の8割はイヌとネコだが、ウサギやハムスターといった小動物から、鳥、は虫類まで幅広く診察する。

北岡大輔院長
北岡大輔院長

診察にあたる北岡大輔院長は、獣医師歴26年のベテラン。小さい頃から動物が好きで、この道に進んだ。

体重が極端に低下
体重が極端に低下

この日訪れたのは、1週間前から食欲が低下しているという小型犬。体重を測ると、1週間で1.78キロから1.68キロにまで落ちていた。

動物の診察における最大の障壁は、彼らが「喋れない」こと。北岡さんは、病気の原因を特定するためのプロセスをこう語る。

診察のプロセス
診察のプロセス

「飼い主さんの話がまず入り口で、そこからある程度は頭の中でリストアップしていきながら、それ以上どうにもならない部分は身体検査ですね、触って。それでも分からない部分は検査することになりますね」

まず、飼い主から症状を詳しく聞く。次に、聴診器を当てたり、体に触れたりして異常を探る。それでも原因が特定できない場合は、エコーやレントゲンで体の内部を調べる。この3つのステップを組み合わせ、病巣を探り当てていく。

先ほどの小型犬は13~14歳。人間でいえば70歳前後になる。腎臓が悪く、食事量が減っていた。北岡さんは数分の診察で、注射による治療が最善だと判断した。「飲み薬を出すことも多いんですけど、この子は食欲もなくて薬が飲めないので注射にします」

治療方針は、飼い主と話し合いながら決めていく。

命を救うため…日々求めらる判断

この病院は、獣医師3人と動物看護師7人を中心に、受付やトリマーなど総勢16人のスタッフで運営。1日の診療数は70件から100件にのぼる。

続いて診察室に入ってきたのは、皮膚に炎症を抱える保護犬。2年ほど前に現在の飼い主の元へ来たという。飼い主は「以前、別のペットが病気にかかった時、治療ですごく良くなって。信頼しています」と話す。

急患の柴犬
急患の柴犬

話を聞いていたその時、ぐったりとした高齢のイヌが運び込まれた。数日前から体調を崩しているという。

「あまりにもぐったりしてるね…」北岡さんの表情が曇る。

診察の様子
診察の様子

急いで血液検査を行うと、深刻な結果が明らかになった。

「肝臓も腎臓もやな。あと、低血糖やな。これはちょっとまずいね」

敗血症の可能性が…
敗血症の可能性が…

感染が全身に広がって血糖値が下がる「敗血症」の可能性が浮上。状態が悪いため、すぐに手術はできず、まずは炎症を抑える応急処置をして様子を見ることになった。

平均寿命の推移
平均寿命の推移

近年、医療の発達によりイヌやネコの平均寿命は延びている。しかし、高齢化により内臓疾患や癌、認知症といった病気のリスクが高まる。

「最近は飼い主さんとペットの距離が近い分、小さな変化に気づきやすくなっていると思う。いつもと様子が違う場合は、とりあえず受診される方がいいんじゃないかな。手遅れになるよりは」と北岡さんは呼びかける。

手術、そして緊急事態

午前の診療が終了すると、息つく間もなく手術室へ。動物病院では内科だけでなく、外科治療も行う。この日は避妊や腫瘍の切除など、1日に1件から3件の手術が予定されていた。

運び込まれたフェレット
運び込まれたフェレット

手術が無事に終わったのは午後2時半過ぎ。ようやく昼休憩かと思われたその時、急患を知らせる声が院内に響いた。

運ばれてきたのは、ぐったりした様子のフェレット。過去にも低血糖による発作で来院したことがあった。検査の結果、今回も低血糖の可能性が高いことが判明。急いで血糖値を上げる薬を投与する。

薬を投与
薬を投与

このフェレットは、血糖値を下げるホルモン「インスリン」を過剰に分泌する腫瘍を抱えている可能性があるという。処置を終え、ケージを覗くと、無事に元気を取り戻したフェレットの姿があった。

元気を取り戻した
元気を取り戻した

「やっぱり嬉しいですよね、ここまで、はっきり元気になってくれると。自分が見た子たちが元気になる瞬間が、一番の仕事の醍醐味ですね」北岡さんの顔に安堵の笑みが浮かぶ。

昼ご飯を5分で“かき込み”診察へ

朝9時からノンストップで診察や手術をし、ようやく昼休憩に入ったのは午後2時半過ぎ。コンビニのそばと稲荷寿司を5分ほどでかき込む。

ゆっくり昼食をとる時間はない
ゆっくり昼食をとる時間はない

休憩時間は平均1時間前後だが、急患が重なれば30分もない時もあるという。

なぜこの過酷な仕事を選んだのか。この病院で獣医師として働く女性は、小学生の時に飼っていたハムスターが立て続けに死んでしまった経験を語る。「何でそうなったのか分からないのが悔しかった」。

獣医師を志した理由
獣医師を志した理由

また看護師の女性は、中学生の時に保護した子猫を救えなかった経験から「何かやってあげられることはないんかな」と思ったのがきっかけだった。誰もが、動物への強い想いを胸にこの場に立っているのだ。

夜8時過ぎまで診察
夜8時過ぎまで診察

夕方4時半、午後の診療が再開する。仕事帰りの人でも通えるよう、夜8時過ぎまで病院の明かりは灯り続ける。

北岡さんは病院のあり方についてこう語る。

北岡院長
北岡院長

「最後まで健康面のサポートをし続けていけるような病院でありたいと思いますね。飼い主さんにとっても動物にとっても、安心して来てもらえる場所を目指していきたい」

ペットはかけがえのない家族の一員。その大切な命と健康を守るために、なくてはならない動物病院では、日々命と向き合い奮闘するスタッフたちの姿があった。

福井テレビ
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