2025年、宮城の海でこれまで確認されてこなかった生き物が相次いで見つかっている。イセエビやサザエなど、本来は暖かい海に生息するとされる生物が、三陸の海に姿を現したのだ。
真冬の三陸沿岸に現れたイセエビ

1月、南三陸町の海で撮影された映像には、生きたイセエビが映っていた。
イセエビは暖水性の生物であり、真冬の南三陸町で越冬している事実は、関係者に大きな驚きをもって受け止められた。
背景にあるとみられているのが、暖流・黒潮の蛇行である。
平年に比べて紀伊半島沖で大きく蛇行した黒潮の流れの一部が、一時的に岩手沖まで達したとされている。その影響を受け、南三陸町ではイセエビの水揚げが急増した。
宮城県漁協・志津川支所によると、2025年度のイセエビの水揚げ量は、11月末時点までの7カ月間だけで2800キロを超え、2024年度1年間の14倍以上に達した。
県漁協志津川支所 高橋義明課長:
8月から水揚げが増えて、毎日100キロ前後に。
町はにわかにイセエビブーム 初となる生息調査も
南三陸町内の飲食店では、こうした動きを受けてイセエビ料理の提供が始まった。
イセエビを丸ごと使った天丼などが登場し、町の観光協会もホームページで飲食店のメニューを紹介するなど後押しを行った。
その結果、南三陸町ではこの夏、イセエビブームともいえる盛り上がりを見せた。

こうした状況を受け、南三陸町は9月、イセエビの生息調査を初めて実施した。
調査にあたった研究員は、現地での手応えをこう語る。
南三陸町自然環境活用センター 阿部拓三研究員:
5匹ですね。100メートルのライン上に5匹なので、それなりに数はいる。
きょう見たイセエビでも2~3年くらい経っていると思われるので、ここ2~3年の海水温の暖かさによって加入してきた個体だと思う。
イセエビだけにとどまらない海の変化

志津川湾で確認された異変は、イセエビだけではない。
10月中旬、巻き貝の一種であるサザエが見つかった。太平洋側では千葉県が北限とされてきたサザエが、宮城県内で確認されたのは初めてのことだった。
サザエを採取した漁師は、「イセエビ漁をしていた。なんか変なのが来たなと思って。いつもツブ貝は放流してた。見たらポコポコと突起物があって、もしかしたらサザエかなと。」と、当時の状況を振り返る。
町は11月と12月の2回にわたり、サザエの生息調査を行ったが、いずれの調査でも新たな個体は確認されなかった。
南三陸町自然環境活用センター 阿部拓三研究員:
サザエはみつからなかったですね。相当密度は薄いんだと思います。
2人で1時間ぐらい、サザエがとれた場所を探したんですけど、それでも見つからなかったので、少ないのか、寒くなって隠れているのかもしれない。
さかのぼって2月には、暖水性生物の確認を主な目的とした潜水調査が行われている。
その結果、冬の志津川湾に本来生息しているエゾバフンウニやメンコガニといった冷水性生物が確認された一方で、新たな暖水性生物の存在も明らかになった。
南三陸町自然環境活用センター 阿部拓三研究員:
今回初めて見つかったのが、「サラサエビ」の仲間で「ヤイトサラサエビ」です。これも暖かい海の生き物、エビの仲間で、「サラサエビ」とちょっと模様が違う。これも房総半島より南にしかいないとされていた。
あと、「アカシマモエビ」というエビで、これも今回私たち初めて見つけたものです。これも生息は房総半島以南。
さらに、これまで東北では記録のなかった可能性のあるカニも確認されたという。
南三陸町自然環境活用センター 阿部拓三研究員:
「ベニイシガニ」だと思います。だとしたらこれも初めての確認。これも生息域は房総半島~九州までって書いてあるので、東北にはまだ記録のないカニかもしれないですね。もうそんなのばっかりですね。
南三陸の海を見続けてきた研究員が語る“今”と“未来”
毎年、南三陸の海で調査を続けてきた阿部研究員は、2025年は特に海水温の変動が激しい年だったと指摘する。
南三陸町自然環境活用センター 阿部拓三研究員:
2023年、2024年が異常な高水温だったので、それが続くかと思ったんですけれど、2025年の年明けから春にかけては、例年と同じくらい水温がしっかりと下がって、水温としては通常の三陸の冬の海に戻った。
ただ夏場は、やはり高めの水温になって、またこの水温が続くのかなと思ったら、秋からまた順調に水温が下がって、この冬は例年の三陸の水温に近づいている。

2025年は、2017年から7年以上続いていた黒潮の大蛇行が終息した年でもある。今後の海の行方を左右するのは、冷たい海流である親潮が三陸沿岸に入ってくるかどうかだと、阿部研究員は話す。
南三陸町自然環境活用センター 阿部拓三研究員:
親潮が来ると水温が一気に下がりますので、そうすると南から来た生き物は冬を越せずにいなくなるのが通常です。親潮が来ればイセエビなどは、冬を越しづらくなるのは明らかだと思います。
ただ親潮が来れば栄養分を運んできてくれますので、プランクトンが湧いて、カキやホヤやホタテの成育はよくなりますし、もしかしたらサケなども戻ってきてくれるかもしれない。
そういった親潮の海流の影響が今後、春先どうなるかがカギになると思います。
親潮と黒潮がせめぎ合う三陸の海。そこに現れた“異変”は、一過性の出来事なのか、それとも…。
南三陸の海は今、大きな転換点に立っているのかもしれない。
