そのルーツを福岡・糸島市に持ち、秋の夜長にぴったりの柔らかな音色を奏でる楽器が、地元でお披露目された。日本国内の木材だけで作られた弦楽器「和胡」。その秘密とは…。

楽器の材料に使われているのは

2025年9月23日、糸島市の雉琴神社。日本の神話に登場する日本武尊(やまとたけるのみこと)を祀っている神社だ。

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「きょう、氏子の皆さんが、どんな思いで聴いて頂けるか。それが一番じゃないですか」と話すのは、雉琴神社宮司の武内純夫さん。

武内宮司の足元には、一抱えもある木の切り株が残っている。その切り株が、武内宮司が特別な思いでこの日の秋季大祭を迎えていた理由なのだ。

雉琴神社境内に残る切り株
雉琴神社境内に残る切り株

5年前の2020年9月。福岡県を襲った台風10号。糸島市内で風速 31.0 メートルを観測した。

雉琴神社では、樹齢300年の御神木のケヤキが根元から折れ、本殿が倒壊する大きな被害を受けた。

当時のニュース映像には「もう愕然としています」と肩を落とす武内宮司の姿が残されている。

被害を受けた当時、インタビューに応える武内宮司(2020年9月)
被害を受けた当時、インタビューに応える武内宮司(2020年9月)

このニュースを見て、心を動かされたのが、福岡を拠点に活動するシンガーソングライターの里地帰さんだった。

里地帰さんは「ケヤキが、この場所からなくなってしまうのは、少し寂しい。1本から2本くらいの楽器を作れる素材を提供して頂けないか」と武内宮司に提案し、ケヤキの一部を譲り受けたという。

倒木したケヤキの一部を譲り受けた里地帰さん
倒木したケヤキの一部を譲り受けた里地帰さん

そのケヤキの一部で製作したのが、オリジナルの弦楽器、和胡なのだ。

300年の“時”を守ってきた物語

和胡は、中国の楽器、二胡をベースに日本の素材を使用、御神木のケヤキは、胴や棹、糸巻きなどに使用されている。

5年の歳月をかけ、ようやく完成した和胡。雉琴神社の秋季大祭のあと、初めての奉納演奏が行われた。

「ケヤキが地域の方をずっと300年の間、守ってきたという物語を、音楽を通して皆さんに伝えられたら」と里地帰さんは、弦を弾き始めた。

秋の夜の静謐な闇のなかに和胡の奏でる柔らかな音色が、静かに沁み込んでいく。

演奏を聴いた聴衆は「心が和らいだ感じがしました。優しい音色でとてもよかった」(女性)、「こうやって活用してもらって、素敵な音色を聴かせてもらって、台風も捨てたもんじゃないなって」(女性)など、それぞれ心が和んだようすだった。

武内宮司は「素晴らしい音でしたね。聴いている皆さんも集中して聴いていましたから、素晴らしかったと思います。ケヤキを目に留めて頂いて、和胡を作って頂いて、ありがたく思います」と感慨深げだった。

御神木が繋いだ300年の歴史は、新たな音色となって未来へと受け継がれていく。

(テレビ西日本)

テレビ西日本
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