長野県上田市の「昭和レトロ」な喫茶店。2代目として店に立つのは元々「常連客」だった夫婦です。店を受け継いで35年、豊富なメニュー、居心地の良さ、そして懐かしい雰囲気にひかれ幅広い世代が訪れています。


上田駅から徒歩5分ほど。海野町商店街の裏道の一角に喫茶店「ニュービーナス」があります。少し急な階段を上り、扉を開けると懐かしい雰囲気が。

売りは豊富なメニュー。喫茶店ならではのナポリタンにオムライス、ボリュームたっぷりの焼き肉丼も。昼時は常連客などでにぎわいます。

客(市内から):
「きょうは野菜炒め定食を。おいしいです。この春から通って、今、週1回くらい来ています」

2人組の客(市内から):
「居やすいよね」
「いつの間にか時間がたっていたりとか、結構来ちゃっている」

店を営むのは山口強さん(81)と美砂子さん(65)夫婦です。

ニュービーナス・山口強さん:
「お客さんといろいろ話せるし、やりとりが楽しいです、いろんな人とね」

ニュービーナス・山口美砂子さん:
「気軽な気持ちで、いつやめてもいいやみたいな感じで始めて、35年たった」

実は2人は「2代目」。元々はこの店の「常連客」でした。

高度経済成長期の1960年代にスナック兼喫茶店としてオープンした「ニュービーナス」。山口さん夫婦は居心地の良さにひかれ、それぞれ店に通い詰めます。

美砂子さん:
「学生時代から(通っていた)」

強さん:
「毎日来ていましたからね」

美砂子さん:
「(強さんは店で)ずっと寝ていた。ごろごろしていた。変なおじさんがいるなって」

店で知り合い仲を深めた2人。ある日、家族の具合が悪くなったという当時のマスターが2人に驚きの依頼をします。

強さん:
「急に来られなくなったから後、続けてやってもらいたいって言われたときは、おれも自分の仕事持っているし、それはちょっと無理だねって言ったら(美砂子さんが)やるっていうから、手伝いながら少しやるかって」

強さんは部品加工の会社で働きながら、美砂子さんは衣料品販売の会社を退職し、1990年に2代目として2人で店に立ちました。

強さん:
「『やれ!やれ!』なんて(常連客が)みんな言ってくれてね。毎日毎日、仕事に追いまくられているから、あまり考える時間がなかった」

その後、2人は結婚―。

店は午前11時オープン。早速、常連客が来ました。通い始めて30年以上という3人組です。

常連客:
「強さん、鉄板ナポリタンね、もう1人」

店の定番メニュー「鉄板ナポリタン」。鉄板に卵を敷きピーマンやニンジン、イカやエビなど8種類の具をふんだんに使っています。

常連客:
「(味は?)最高です、うちではできないね」

3人は毎日のように通う。

常連客:
「2人とも優しいし、長くいられるし、料理はみんなおいしいし、だからつい来ちゃう」
「家族のように、気楽に来ていられるからね」

こちらは10年以上通うタクシー運転手の男性(78)。

10年以上の常連客:
「(何頼んだ?)うどんとライス。私、歯が悪いもんだから、ちょっとやわらかめにお願いって言うとちゃんとやってくれる」

客からの「お願い」に柔軟に対応するのも店の特徴です。引き継いだ当初、メニューはコーヒーやトーストなど、軽食のみでしたが要望に応える度に増え今では約50種類にまで増えました。

強さん:
「2人であっちの店、こっちの店行っては勉強しながら、いろいろ作ったね」

美砂子さん:
「いろいろ作ったから今のメニュー(の種類)になっちゃった。どうすんだよ(笑)」

昼時はほぼ満席にー。

強さん:
「(昼時は忙しいですね?)でも楽しいんです。お客さんと楽しくやれるからね、長生きしているのは、それのせいかもしれない」

厨房担当の美砂子さんも大忙し。

美砂子さん:
「とにかく待たせたくないの(ランチで)1時間のお休みを、1時間以内で食べて、休んで帰ってもらいたいから、とにかく速く作りたい。お昼休みがなくなるような作り方はしたくない」

学生も―。

客(大学3年):
「ちょーうまいっす。(何頼んだ?)焼肉丼です、めちゃくちゃおいしい。このセットで750円は安すぎだなって、もう腹パンです」

安さとボリュームの他にも店に通う理由があります。

客(大学3年):
「マスターの人柄で来ているみたいな部分もあるので、実家みたいな」

午後1時前、大きな荷物をもった女性が入ってきました。

国内を旅行中の兵庫の女性。「ニュービーナス」を訪れるために上田に寄りました。

国内を旅行中の女性(兵庫):
「上田はこのために!昔、来たことがあって、そのときのパフェとみんなの雰囲気があまりにも印象的で」

次の新幹線までの約30分でパフェを堪能しました。

国内を旅行中の女性(兵庫):
「おいしいかったです」

強さん:
「旅行中?」

国内を旅行中の女性(兵庫):
「旅行中です」

強さん:
「(あめ)いっぱい持って行って。山行ってきたの?」

国内を旅行中の女性(兵庫):
「山も行きましたけど、あしたからも山行きます」

常連客:
「つよしちゃん、忙しいって。31分の電車」

30年以上通う3人組は2時間半ほどくつろいで―。

強さん:
「ありがと、気をつけてね」
「よくだねえ、みんな足悪いのに」

店の壁にかけてある「思い出ノート」。

美砂子さん:
「昔、喫茶店とかこういうの置いていましたよね。だから『レトロ』って言われるのか」

客が思い思いの言葉をつづり、美砂子さんが全てに「返事」を書いています。

(客が書いた言葉)
「いままで食べたオムライスでいっちばんおいちかったです、次は大盛りで食べるって決めちゃったよー」

(美砂子さんの返事):
「一日の疲れがすっとびます!これからもよろしくお願いしまーす」

(客が書いた言葉)
「今日は朝まで飲んだ。何も考えずにフラっと入ったこの店。疲れた肝臓に染みわたるあたたかい空間、料理にとても感動」

(美砂子さんの返事)
「飲みすぎには注意してネ!まってまーす」

美砂子さん:
「宝物ですね。本当にうれしいですよ。うれしいし、手抜けないなって思います。頑張ろうって」

「常連客」の夫婦が受け継いだ昭和レトロな喫茶店。35年たった今も居心地の良さと懐かしい雰囲気で多くの客の憩いの場となっています。

ニュービーナス・山口美砂子さん:
「幸せだね」

ニュービーナス・山口強さん:
「帰るとき『おいしかった』って言って帰ってもらうと、それが最高、疲れが飛んじゃうね。みんな喜んでくれるし、みんなの笑顔を眺めながら仕事をやるかって」

美砂子さん:
「階段上れなくなるまでやろうかなって」

長野放送
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