「iPhone契約されています」報道フロアを襲った詐欺電話

自動音声から始まる特殊詐欺の予兆電話が、全国で相次いでいる。仙台放送の報道フロアにも、ついに不審な電話がかかってきた。
応対したのは日々取材にあたる報道デスク。録音したやり取りはおよそ10分。振り返れば、その手口は「誰でも引っかかり得る」ほど巧妙であった。

この記事は、実際の通話を再現しつつ、同じ被害に遭わないための注意喚起としてまとめたものである。

仙台放送報道フロアにかかってきた1本の電話 自動音声によるガイダンスが流れた
仙台放送報道フロアにかかってきた1本の電話 自動音声によるガイダンスが流れた
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「利用停止します」自動音声から始まった詐欺電話

「お客様の電話の利用を停止します。オペレーターにつなぐ場合は番号を押してください」

9月の土曜日午後2時すぎ。報道フロアに突然かかってきた電話は、「NTT」を名乗る自動音声だった。指示に従って番号を押すと、女性のオペレーターにつながった。

「大阪でiPhone契約されています」不安をあおる常套句

女性オペレーターは淡々と切り出した。

「本人確認のため、氏名と生年月日をお願いします」

架空の情報を伝えると、即座に「本人確認が取れました」と告げられた。続いて畳みかける。

「ソフトバンク大阪○○店でiPhoneを契約されていますね? 不正利用の可能性があります」

NTTを名乗りながらソフトバンクの契約を持ち出すという矛盾。だが、そんな違和感を考える隙を与えないまま、相手は人気機種の名を挟み信憑性を演出した。

「iPhone16を契約された記録があります」

もちろん契約などしていない。そう答えると、今度は具体的な番号を突きつけてきた。

「こちらのiPhoneの番号が『070-***-****』なのですが、こちらも全く知らない番号ですか?」

「知らない」と答えると、オペレーターは「第三者が…」と説明を始めたが、その直後に通話はぷつりと途切れた。

自動音声の後は女性オペレーターにつながった マニュアルでもあるのだろうか?相手は慣れた様子で応対した
自動音声の後は女性オペレーターにつながった マニュアルでもあるのだろうか?相手は慣れた様子で応対した

今度は「青森で契約されています」別の声が仕掛ける罠

同様の電話は1週間前にもかかっていた。

「電話の利用を停止します。オペレーターにつなぐ場合は番号を…」

指示に従うと、今度は男性の声が聞こえた。

「LINEアプリで迷惑メールを発信していることが確認されました。従いまして、すべての通信端末を2時間以内に強制停止します」

「身に覚えがない」と答えると、さらに畳みかける。

「090-***-****はあなたの携帯番号でお間違いないでしょうか?」

違うと答えると、今度は契約日や店舗名を持ち出した。

「2025年2月22日にドコモショップ青森〇〇支店で契約されています」

もちろん無関係だが、「契約には身分証明書が必要なので間違いない」と断言する。最後は「第三者が不正に利用した可能性がある」と言い残し、通話は唐突に切れた。

通話音声は手持ちのスマホで録音した ちなみにiPhoneではない
通話音声は手持ちのスマホで録音した ちなみにiPhoneではない

典型的な「偽警察詐欺」の入り口

県警生活安全企画課は、これらの電話を典型的な特殊詐欺の前段階と分析している。
「勝手に口座や携帯を作られた」と不安を煽り、「警察につなぐ」と称して別の人物に転送。そこで「あなたは詐欺事件に加担している」と脅し、資金調査の名目で金銭を振り込ませたり、貴金属を送らせたりする。狙いは一貫して“金”である。

通話の内容は宮城県警に情報提供した
通話の内容は宮城県警に情報提供した

不審電話に遭遇したときの対処法

実在する店舗名や日付を持ち出すのは、真実味を演出するためだ。だが、警察や通信会社が自動音声で利用停止を告げたり、LINEで逮捕状や警察手帳を送ったりすることはあり得ない。

警察や通信事業者は次の点を呼びかけている。

・自動音声で番号入力を求められても押さない
・氏名・生年月日・住所など個人情報は伝えない
・「自分で確認するので大丈夫です」と突き放し、すぐに警察へ相談する

通話の相手は不安を煽る言葉を次々と投げかけ冷静さを奪おうとしてきた
通話の相手は不安を煽る言葉を次々と投げかけ冷静さを奪おうとしてきた

その直後に発覚した「カード不正利用」

立て続けにかかってきた不審電話を体験し、「詐欺にはだまされない」と思っていた矢先のことだった。報道フロアでの出来事の直後、今度はデスク自身のスマホに電話が入った。

「お客様のクレジットカードが不正に利用されている可能性があります」

またか、と疑いながら「これ詐欺電話ですよね?」と切り返すと、相手は冷静に答えた。

「不審に思われる場合は、カード裏面の相談ダイヤルにおかけください」

確認すると、本当に約1万円分の不正利用が発覚。幸いにも自己負担はなくカードは再発行されたが、思い込みで「詐欺だ」と決めつけてしまったことをカード会社に詫びると、担当者はこう返してくれた。

「慣れていますので大丈夫です。むしろ、不審に思って対応することが大事です」

クレジットカードの不正利用被害が発覚したデスク 原因は不明のままである
クレジットカードの不正利用被害が発覚したデスク 原因は不明のままである

何を信じ、何を疑うべきか

「利用停止」「不正契約」「迷惑メール」「カード不正利用」。次々に突きつけられる“不安ワード”は、誰しも冷静さを奪われやすい。

報道フロアでの体験と、実際に起きたカード不正利用は、「何を信じ、何を疑うか」が極めて難しい時代にあることを突きつけている。

だからこそ重要なのは、慌てて指示に従わず、一度電話を切って自分で確認すること。そして少しでも疑わしければ、ためらわず警察や公式窓口に相談することだ。

それが被害を防ぐ最も確実な方法である。

仙台放送
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