「家じまい」という言葉をご存じでしょうか。
人生の最期に向けて行う事前準備、“終活”の一環として住み慣れた家を整理することです。この「家じまい」の現場に密着すると、深刻な社会問題が見えてきました。

齋藤アルケン工業・齋藤憲嗣社長:
(この家は)もう2年ぐらい住んでいないはずなんですよ。土足で上がらないと作業できない感じです。

島根県浜田市の空き家。
玄関の照明にはクモの巣が張っています。
ここを訪れたのは、浜田市で「家じまい」の事業を手掛ける「齋藤アルケン工業」の齋藤憲嗣社長です。

齋藤アルケン工業・齋藤憲嗣社長:
福祉用具のレンタルでベッドや車椅子の貸し出しをしているんですが、ベッドを置くのにタンスが邪魔で処分してくれないかとか、そういったのがきっかけ。

本業は高齢者福祉施設の運営など介護事業を手掛けていますが、施設の入所者やその家族から“終活”に関する相談を受ける機会が増えたことをきっかけに、2024年春から「家じまい」の事業を始めました。

齋藤アルケン工業・齋藤憲嗣社長:
(ハチが)入るとしたら軒が開いていたから。

この日訪れた空き家の持ち主は70代の男性で、ひとり暮らしをしていた2年前に病気になり、現在は近くの福祉施設で暮らしています。

後見人・中谷雅晴行政書士:
後見が付いていなければこのようなことをすることは不可能でして、最後は行政が肩代わりしますが、そこまでするには多大な労力が必要です。

「家じまい」を依頼した行政書士の中谷雅晴さん。
身寄りがなく病気で言葉を発することができない家の持ち主に代わり、不動産や預貯金などを管理する成年後見人を務めています。
今回の依頼内容は、家の中の荷物を整理し不必要なものを処分すること。

齋藤アルケン工業・齋藤憲嗣社長:
この携帯電話はいらないの?

後見人・中谷雅晴行政書士:
迷わず捨ててしまいたいと思います。

齋藤アルケン工業・齋藤憲嗣社長:
現金が出てきました。貴重品や現金が出てきたら依頼主さん(後見人)へお返しすることになっています。本業は介護なので、信用信頼をもとに仕事させてもらっていますから。

現金の管理以上に厄介な問題も…。

齋藤アルケン工業・齋藤憲嗣社長:
どこと契約していたかわからないって言われて…僕らに聞かれても困るんですけど。極力、領収書は残すようにしています。後見人さんも分からない部分もあったりするので、保険とかも。

電気や水道、ネット回線など本人でないと解約ができない契約に関するトラブルが多いと言います。

家の中のほとんどの荷物を整理することができました。
処分費用など合わせると約40万円かかりました。
家の中は片付きましたが、建物自体を放置し続けるわけにもいかず、今後も空き家の管理の問題は続くことになります。

こうした空き家の数は全国で900万2000戸で、この30年で約2倍に増加。
島根県でも5万4600戸あり、住宅全体の17%が空き家という現状で、その数は今後も増え続けると考えられています。

空き家の放置が続けば景観や治安の悪化、老朽化による倒壊などの危険が生じる恐れがあります。
今回片づけた空き家も、窓の隙間からツタが部屋の中に伸びていて随所に腐食が進んでいる様子が確認できました。
斎藤さんは、空き家放置のリスクが顕在化する前に早めに準備しておくことが重要だと指摘します。

齋藤アルケン工業・齋藤憲嗣社長:
財産もですけど何がどこにあるのか伝えておいた方が良いと思います。この仕事をするようになって、急遽その様な物を書いて残しました。

後見人・中谷雅晴行政書士:
本人が意思表示をできるうちに自分はどうしたいのか、残された家と土地はどうなるのか、不安だったらすぐに周囲に叫ぶように相談してほしい。

社会問題化している空き家の増加。
「自分の家の終わらせ方」を周りと話し合っておくことが、将来の負担やトラブルを減らすことにつながります。

空き家の増加を裏付けるように、齋藤さんのもとには「家じまい」の依頼が毎月4、5件あり、数か月先まで予約が埋まっているといいます。
住み慣れて愛着のある家をどうするのか、元気なうちに将来設計を立てておいたほうがよさそうです。

TSKさんいん中央テレビ
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