7月の参院選で石破政権は大敗し、衆院に続き、参院でも与党過半数割れに追い込まれた。野党各党は公約として、消費税の減税やガソリン税の暫定税率廃止などを掲げて戦い、一部の野党は躍進を遂げた。選挙から約1カ月半が経過した今、自民党内の総裁選挙をめぐる混迷、そして与野党間の意見の隔たりなどで、その公約は実現には至っていない。野党から出ている危機感について、取材を通じて迫った。

立憲・野田代表「政治空白は日本に大きなマイナス」

「党内抗争が続いていて、いつまでたっても決着がつかないことによる政治空白は日本にとって大きなマイナスを生み出している」

立憲・野田代表の記者会見(5日)
立憲・野田代表の記者会見(5日)
この記事の画像(5枚)

総裁選の前倒しをめぐる自民党内の動きについて、こう指摘したのは立憲民主党の野田代表だ。野田氏は5日の記者会見で、「物価高対策は急務だ。食料品インフレが起こっている」と指摘した。その上で、「食卓の危機にきちっと対応していないことなどは間違いなく政治空白の弊害だ。党内での結論を早く出してほしい」と求めた。

参院選後の8月に召集された臨時国会で開かれた衆院予算委員会で、野田氏は質問に立った。そして、石破首相に対し、与野党で意見の隔たりが大きい企業・団体献金の扱いについて、「実務者だけに任せるのではなく、私と首相で膝を突き合わせて協議して合意していく作業をしていく気はないか」と提案した。

これに対し、石破首相は、「そのようにさせていただきたい。第1党、第2党が党首同士で真摯な議論をすることに大きな意味がある」と応じた。

また、野田氏が消費税の減税やガソリン税の暫定税率廃止などについて、与党の対応を迫ったのに対し、石破首相は「問題点を共有したい」との考えも示した。

こうした石破首相とのやりとりを踏まえ、会見の中で野田氏は、「物価高対策だけではなく、企業・団体献金の廃止の協議も進んでいないということは極めて遺憾だ」と強調した。そして、「8月4日に協議は約束をした。1カ月たって事実上、なしのつぶてだ」と指摘した上で、石破首相や自民党に対し、次のように猛省を促した。

「約束した当事者の自覚も求めたいし、自分たちが担いだトップが約束したことなので、党としても猛省をしてもらいたい」

こうした「決められない政治」が続く中、野党内で浮上しているのが憲法53条に基づく臨時国会の召集要求だ。

国民・玉木代表「長い政治の夏休み」臨時国会の召集要求 

「国民は自民党内の党内抗争を見たいために1票を入れたわけではない。あまりモタモタしていると、国民の皆さんもしびれを切らしてくる。物価高騰に何もしていないのではないかとなり、与野党を超えて、国会議員全体が批判されるような状況になっていく」

国民・玉木代表の記者会見(8月26日)
国民・玉木代表の記者会見(8月26日)

国民民主党の玉木代表は8月26日の記者会見でこう述べた上で、臨時国会の召集について規定する憲法53条に言及した。

憲法53条では、臨時国会については、衆院、参院のいずれかで、議員の4分の1以上の要求があれば、内閣はその召集を決定しなければならないと規定している。ただ、その召集の時期については規定がなく、内閣の判断に委ねられている。

玉木氏は「臨時国会の開会要請を含めて、速やかに国民が求める物価高騰対策が実現できるような国会対応を求めていきたい」との考えを示した。

さらに2日後、東京都内で記者団の取材に応じた玉木氏は、国会召集の時期はいつ頃を念頭に置いているかと問われると、次のような考えを示した。

「例えば、ガソリンの暫定税率の廃止は11月1日からやろうと我々は提案している。11月に間に合わせるということであれば、来月(9月)中には国会を開かないと間に合わないのではないか。早く開いて法律上、予算上の対応をすべきだ」

そして、玉木氏は自民党の総裁選について、「するならする、やらないならやらないということで、明確にしてもらいたい」と述べた上で、次のように強調した。

「もうこれ以上、長い政治の夏休みを続けても、国民の困窮を救うことはできない。政治が動き始める時だと思うので、国会の早期開会を求めていきたい」

こうした状況に対し、国民民主党の幹部は「参院選では政策実現の期待を受けて躍進させてもらった。何もせずに今の状況が続けば、逆に批判が集まる」と苦しい胸の内を吐露する。

また、立憲民主党の幹部も「一番の要因は政府与党がグラグラしていることだ」と指摘した上で、「『決められない政治』が続けば、与党だけではなく、野党も国民から見放される」と危機感を漏らす。

過去に国会召集要求も衆院解散「個利個略という批判浴びる」

2017年6月、当時の民進党など野党は、憲法53条の規定に基づき、臨時国会の召集を要求した。当時、民進党は蓮舫代表の下で、野田氏は幹事長を務めていた。

衆院が解散された本会議(2017年9月28日)
衆院が解散された本会議(2017年9月28日)

しかし、野党側の要求に対し、当時の安倍内閣はすぐには応じず、約3カ月後の9月に召集し、冒頭で衆院の解散に踏み切った。

今、永田町では、自民党総裁選の前倒しとなった場合、石破首相が衆院の解散に踏み切る可能性があるとの見方も出ている。

これに関し、先述の会見で問われた野田氏は、「ここでそんな政治空白を作っていいのか」と疑問を呈し、「何をもって争点とするのか。大義がない」と強調した。さらに、次のように続けた。

「党内抗争の決着のために税金を使うなんてありえない話ではないか。党利党略よりも個利個略という批判を浴びることになるのではないか」

自民党は8日に総裁選の前倒しを求める書面の提出を受け付ける。国会議員と都道府県連の代表者の過半数を超えれば、総裁選の前倒しが決定される。

仮に自民党内の対立がさらに激化し、衆院の解散総選挙となった場合、参院選で掲げられた政策実現は遠のく可能性がある。

国会が召集され政策実現が進むのか、あるいは政局で解散総選挙となるのか。1票を投じた国民が政局よりも政策の実現を望んでいることだけは間違いない。

(フジテレビ政治部 野党担当キャップ 木村大久)

木村 大久
木村 大久

フジテレビ政治部(野党担当キャップ・防衛省担当)、元FNN北京支局