気象と防災に関する情報をお伝えするシリーズ「知っておきたい!気象・防災のキホン」。今回のテーマは、津波。津波情報の用語など津波の基本知識を改めて整理する。
知っておきたい津波のキホン「遠地津波」
7月30日、ロシアのカムチャツカ半島付近を震源とする地震が発生。宮城県内では最大で震度1と、大きな揺れはなかったが、仙台港で最大90センチ、岩手県久慈港では最大1.3メートルの津波が到達し、養殖施設などに被害が出た。このように、震源が遠く、揺れを感じなくても津波が到達するのが「遠地津波」だ。

遠地津波には特有の性質があると、仙台管区気象台の草野さんは話す。
仙台管区気象台気象防災部 草野利夫さん:
海外で発生した地震で起こる津波は長引く傾向がある。なぜかというと、発生して日本に直接到達する津波もあれば、海底火山列や南米の沿岸、あるいはフィリピンなど、様々なところから反射して来る津波もある。
こうして複数の波が重なることで津波が長期化する。

また、時間が経ってからより高い波になり「最大波が遅れる」という特徴もあるという。
遠地津波として代表的なのが、1960年の「チリ地震津波」。東北地方を中心に死者・行方不明者が142人にのぼる大きな被害があった。このとき、東北に津波の第一波が到達したのは地震発生から約22時間後。最も波が高くなったのは第一波ではなく後続の波で、東北地方では5mを超えたところもあった。
7月のカムチャツカ沖地震による津波では、地震発生のおよそ2時間半後に宮城県内に第一波が到達。また、最大波の観測は約15時間後だった。気象庁は、気象庁や自治体の呼びかけに従って行動してほしいとしている。

仙台管区気象台気象防災部 草野利夫さん:
遠地津波の場合、避難行動に多少時間の猶予がある。十分落ち着いて避難対策をとれば命の危険は少ないと思う。気象庁から発表された、自治体から呼びかけられたというものがあれば、それにしたがって速やかな避難をお願いしたい。

一方、長時間続く「遠地津波」で新たな課題となったのが、暑さの中での避難だ。
7月30日の最高気温は、仙台で32℃、塩釜で30.3℃、気仙沼で30.1℃、石巻で29℃。若林区荒浜の避難の丘では避難した人が熱中症の疑いで救急搬送された。

猛暑の中での避難行動について、東北大学災害科学国際研究所の佐藤翔輔准教授は。
東北大学災害科学国際研究所 佐藤翔輔准教授:
津波警報、大津波警報が出たら最も早く避難できる場所に避難するのは遠地津波でも近地津波でも同じ。
その上で、避難が長期化した場合に備え、避難先の選択肢を複数持っておくことが大切だという。
東北大学災害科学国際研究所 佐藤翔輔准教授:
普段津波からの避難場所を決めている方がいるが、それが1カ所だけだと、今回のように高台を選択した場合、非常に暑い中その場所に居続けられない。その時に2つ目、3つ目の避難先があることによって、様々な臨機応変な対応をすることができる。
知っておきたい津波のキホン「高さ・速さ・強さ」

気象庁が発表する注意報・警報の基準は、それぞれ、予想される最大波の高さが基準になっている。
津波注意報は最大波の予想が1m以下。津波警報は最大波の予想が3m以下。大津波警報は最大波が3mを超える予想の時。東日本大震災で宮城県などに出たのはこの大津波警報だ。

この「津波の高さ」も理解しておく必要がある。「津波の高さ」というのは、津波がない場合の潮位「平常潮位」からの高さのこと。平常潮位は潮の満ち引きによって変わるので、津波の高さが同じでも、満潮時と干潮時では実際の海面の高さは大きく違う。
そして、津波の速さと強さ。津波は陸地では秒速10mというかなりのスピードで、しかも、水が塊のようになって押し寄せる。

30cmの津波が秒速4mで押し寄せることを想定した実験を見てみると、大人の男性がすぐに足をとられて流されてしまった。
知っておきたい津波のキホン「津波情報の用語」

津波情報で出てくる用語を正しく理解できている人はあまり多くないのではないだろうか。
例えば「巨大」と「高い」。地震の発生直後は、正確な地震の規模がすぐに分からないことがある。そのような時、第一報では予想される津波の高さが「巨大」、「高い」という大まかな表現で発表される。「高い」は津波警報レベル、「巨大」は大津波警報レベルの場合だ。「巨大」と出たら東日本大震災クラスの非常事態であると考えて差支えない。

続いて「欠測」。2025年7月から使われるようになった用語だ。7月の津波の観測情報を見ると、三宅島阿古が「欠測」と表示されている。これは、何らかの理由で津波の観測ができない場合を意味している。つまり、「欠測」は津波が来ていないという意味ではなく、観測データはないが津波が来ている可能性はあるということだ。
津波に関する3つのキホン

1.遠地津波は長時間継続避難先の選択肢を複数持つ
2.高さ・速さ・強さを理解する 数10センチでも危険
3.巨大=東日本大震災レベル 欠測=「津波なし」ではない
基本的な知識を理解しておくことが、津波などの災害から命を守ることにつながる。
仙台放送