戦後80年を迎える2025年、大学生たちが“明るいダークツーリズム”という新たな形で戦争遺構を巡っています。観光と歴史学習を組み合わせることで、戦争を“自分ごと”としてとらえるきっかけに。若い世代が見つめる戦争の記憶とは…。

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■戦争遺構を巡る「ダークツーリズム」を学ぶ大学生

愛知県安城市に残された大人の背丈ほどの穴倉。ここは、戦時中に戦闘機用の爆弾などを保管していた倉庫でした。80年前、このあたりは、戦闘機の音が、日常の一部でした。

1944年、旧日本軍は行き詰まる戦局の打開策として特攻作戦を始めました。その年に「明治航空基地」の運用は始まりました。約200万平方メートル、サッカーコート280面分に当たる敷地に6本の滑走路。全国から集まった志願兵がここから前線へ送られました。基地からは23人が特攻で戦死したとされています。

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安城市教育委員会の担当者:
「神風特攻隊、爆弾積んでアメリカ軍に突っ込んでいく無謀な作戦。20代の若い青年ですので皆さんの同級生くらい」

真剣な表情で遺構を見つめているのは、名古屋の椙山女学園大学の4年生・山田麗香さん(22)です。

山田さん:
「中に通気口が今も残っていて。こういうのを残していかないと、知らない人がどんどん増えてしまう」

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山田さんは、観光経済学のゼミの一環で、戦争遺構を巡る「ダークツーリズム」を学んでいます。「ダークツーリズム」とは、ヨーロッパで生まれた考え方で、戦争や天災に伴う悲しみや、痛みの歴史を持つ場所を巡る旅、教訓を後世に伝える効果が期待されています。

大学生になるまで、山田さんにとって戦争は、教科書の中の出来事でした。関心をもつようになったきっかけは、ゼミで訪れた各地の戦争遺構です。そこで触れた傷跡に心が揺れました。 

山田さん:
「最初戦争について“苦しいな”“可哀そうだな”で終わっていたけど、愛知県にも戦争の遺跡が残っていることを知って、かなり身近に感じました」

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山田さんたちは、愛知県内で独自の「ダークツーリズム」のルートを作る為、戦争遺構を調べています。

豊川市にある豊川海軍工廠は、今も一部が残されています。

豊川市ボランティア協議会の担当者:
「銃弾の火薬を置いてあったところ。85年前と何も変わっていない。GHQが来る前にここにあったものみんな出しちゃったという記録です」

昭和14年に完成した豊川海軍工廠は銃や弾丸などを作っていました。戦争が激化するにつれ、勤労動員された女学生や学徒などが集められ6万人近くが働く「東洋一の兵器工場」になりました。しかし、広島に原子爆弾が投下された翌日の1945年8月7日に、アメリカ軍の標的となり、2500人以上が亡くなりました。

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豊川市ボランティア協議会の担当者:
「防空壕へ入った女学生たちが、入り口がB29の爆弾で埋まっちゃって息ができなくてたくさん亡くなった」

山田さん:
「資料で見るより実物はかなり生々しい。倉庫も当時のまま残っていて、何も手を加えていない状態が見られたのはよかった」

今回のツアーのテーマの一つが、“自分事”としてとらえる戦争です。

■戦争遺構と観光地を巡る…暗くなりすぎない「明るいダークツーリズム」

若者を対象とするため、欠かせないポイントがありました。ツアーの対象エリアは、自然を活かした観光スポットが点在する三河地区。山田さんたちは、安城市にある「安城産業文化公園デンパーク」を訪れていました。

山田さん:
「『明るいダークツーリズム』という名前で、実際に楽しめるスポットを挟んでぜひ取り入れたいと思いました」

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「明るいダークツーリズム」とは、戦争遺構と観光地を互い違いに訪れ、悲惨な歴史に触れながらも暗くなりすぎないツアーです。

山田さん:
「戦争などの“ダークツーリズム”と普通に楽しめる観光地を組み合わせることで、戦争に興味がなかった世代が戦争に意識を向けてくれるのではないかと思いました」

■戦争を“自分事”としてとらえるきっかけに…学生が伝える平和のメッセージ

この日、山田さんたちゼミのメンバーは、「明るいダークツーリズム」について意見交換をしていました。

山田さん:
「強制的に戦地へ行かなければいけない。女性たちも働きに出なければいけない。その環境に置かれた時に、“自分だったらって”考える事が一番大事かな」

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形にした「明るいダークツーリズム」は、2025年8月に旅行会社などが集まるプロモーションイベントで発表される予定です。さらに、山田さんに与えられた役割がありました。ゼミを代表して、オープンキャンパスで発表する大役を任されたのです。

山田さん:
「『明るいダークツーリズム』の取り組みについて紹介したいと思います。戦争についての意識を直接的に高めていくのではなく、観光についての意識っていうところから自然と戦争の意識につながっていくような取り組みを考えています」

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真っすぐな眼差し…。

山田さん:
「心の中で考えて欲しいと思います。学徒動員として強制的に戦地に行くことになったら、皆さんはどう思いますか」

戦後80年、戦禍を知る生きた声がなくなりつつある中、記憶はどう受け継がれ、どう生かされたらいいのか…。

山田さん:
「戦争について学ぶことで平和を考える切り替えになるのかな。今回の活動を通して平和についての答えを見つけたわけじゃないけど、それを考え続けていくのが一番大事な事と思います」

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戦争を“自分事”としてとらえるきっかけとなれば…。山田さんは、その思いを次の世代へつなごうとしています。

東海テレビ
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