「だるまちゃんとてんぐちゃん」や「からすのパンやさん」など数多くの名作を手掛けた福井・越前市出身の絵本作家・かこさとしさん。7年前に亡くなったが、自宅からは未発表の原稿が見つかった。このほど、孫が絵を描いて新作の絵本として発表された。かこさんが、これまで決して扱うことがなかった「戦争」が題材となっている。
未発表原稿の題材は「戦争」
2025年2月、かこさんの最新作「くらげのパポちゃん」が刊行された。
<絵本の一節>
「ふーん、えらいなあ。これから遠いところまでひとりで働きにいくのか。えらいなあ。それに、お父さんが死んでしまったのか。かわいそうだなあ」
「パポちゃん、いったいなにを感心しているんだい」
岩のあいだからでてきた、ヤドカリくんでした。
「うん、あの男の子のお父さん、いないんだってさ」
「そうだよ、お父さんの甚吉さんは戦争にいって、死んじゃったんだよ」

かこさんは2018年に92歳で亡くなり、神奈川県藤沢市の自宅で未発表の原稿が発見された。それに孫の中島加名(かめい)さんが絵を描いて作品化した。

軍人を志したことを恥じていた
かこさんは大正15年(1926年)に生まれ、7歳までを福井・越前市で過ごした。
その後、東京へ移り住み、太平洋戦争のさなか学生生活を送った。戦時中は軍人を志して心身を鍛え、勉学に励んでいたという。

かこさんは2015年に福井テレビの取材に応じた際、絵本作家を志した理由をこう話していた。「世の中のことを知らずに狭いところで判断したから、間違いが生じた。こういうことにならないような子供に育ってほしいし、外から導くのではなく応援団になりたい」
自らの戦争体験から、軍人を志した自分を恥じていたかこさん。子供たちには自分のように誤った判断をしないよう手助けしたいという願いから、数々の著書を生み出した。

「自分で判断できる子供に」が創作活動のベースに
越前市の「かこさとしふるさと絵本館らく」の福田紀美絵さんは「かこさんは戦争を体験し、大人の言いなりになったことを後悔していた。これからを生きる子供たちには、自分で考え判断できる子供にと、その思いが絵本を作るベースになっていた」と話す。

生涯を通して、戦争を題材にした絵本は作らなかったかこさん。戦後80年、かこさんの残した原稿から家族が思いをくみ取り、作品作りに関わったことで、初めて戦争を題材にした絵本が刊行された。

かこさんは未来を担う子供たちへ「世の中の動きや歴史なども身につけて、これからの人類がどう進むといいか、未来を開く人になってほしい。それが僕の願いです」とメッセージを残していた。

絵本には、かこさんが未来を託す子供たちへの思いが詰まっている。