「黒くて、でっかくて、人じゃなかった」
そんな証言が、再び耳に届くようになったのはここ1年のこと。
かつて全国的な騒動を巻き起こした未確認生物「ヒバゴン」。
あれから半世紀――広島・西城町で静かに語り継がれてきた伝説が再び、うごめきだした。
「類人猿相談係」 55年目の再始動
「辞令、類人猿相談係・相談役に任命します」
2025年6月7日、JR芸備線・備後西城駅に新しく設置された「類人猿相談係」の看板。その相談役に任命されたのは、町で“ヒバゴン騒動”が起こった当時の職員だった恵木剋行さん(81)だ。

さかのぼること、半世紀あまり。
西城町(現在の庄原市西城町)で、未確認生物の目撃情報が相次いだ。情報収集と報道関係の窓口の一本化を図るため、1970年、町役場に「類人猿相談係」という前代未聞の部署が誕生。
恵木さんはその初代職員である。
「私が聞いた限りでは、いたと思います。今もたぶん生きているような気がしますね」
山に現れた“毛むくじゃらの怪物”
テレビ新広島のアーカイブ映像に当時の証言記録が残っている。
「サルは見たことあるんじゃが、あんな化け物は見たことがない」
比婆山のふもと、トウモロコシ畑に突如として現れた“全身毛むくじゃら”の二足歩行の生き物。人間ほどの大きさで、毛は真っ黒だったという。

未確認生物の名は「ヒバゴン」。
目撃者は、畑でトウモロコシを抱えるヒバゴンに遭遇した。
「口がうわぁっと膨れるけえな。それで、ぐうううという音がする。近寄ると牙をむくが、人に害はない」
不思議なことに、誰ひとり被害にあっていない。人畜無害のヒバゴンは瞬く間に全国に知れ渡り、町には観光客と報道陣が殺到。目撃した人に負担が集中するため、町は迷惑料を支払うなど、異例の対応を取った。

恵木さんは、一連の騒動を通じて“役場の本質”に気づかされたという。
「『あなたの言うことはみんな本気で信じるけえ、聞かせてください』と話をうかがう。町の職員として、住民の話をいかに信じるかが大事なんだと、教えてもらいました」
新たな目撃証言! 令和のヒバゴンか?
最初の目撃から50年以上、消息が途絶えたかに思えたヒバゴン。しかし、2024年夏から数十年ぶりに事態が動く。
「黒かったんよ。ゴリラくらい」
「人じゃない。人だったら声をかけている」

新たな目撃者の証言が出てきたのだ。しかも、見た目の特徴がヒバゴンと一致。西城町観光協会には、この1年ほどの間に少なくとも5件の目撃情報が寄せられている。

「私はいると思っています」
そう話すのは、復活した「類人猿相談係」で係員を務める岡崎優子さん。
2018年に移住してきた岡崎さんは、西城町観光協会の一員として「ヒバゴンお姉さん」を名乗り、SNSなどで町の魅力を発信してきた。
「人畜無害と言われているので、もし会えたら話しかけてみたいですね」
相談係の復活には、「ヒバゴンを見た」と言っても信じてもらえないのでは…という住民の不安の受け皿になるねらいもある。
「まだ終わっていない」
ヒバゴンの実態をつかむため、「類人猿相談係」は目撃情報があった場所にセンサーカメラを設置して調査を続けている。カメラの近くにはトウモロコシ畑が…。
岡崎さんは「何かヒバゴンのようなものが撮れるんじゃないかなと思って」と期待を寄せる。
テレビ新広島も別の目撃箇所にカメラを設置。約2週間後、回収して映像を確認した。

映っていたのは、シカなど他の野生動物たち…。あわせて3台のカメラに「ヒバゴン」の姿はなかった。
それでも町の人々は山の奥に“まだ何か”いる気がしてならない。
恵木さんは言う。

「まだ終わっていないと思います。ヒバゴンを語り継ぐことも大事になってくる。僕も会いたいですね。会ったことがないだけに、会いたいです」
半世紀の時を超え、再び注目される“令和のヒバゴン伝説”。多くの謎とともに人々の心の中で生き続けている。
(テレビ新広島)