国民民主党を「山尾ショック」が襲っている。参院選での擁立を決めた山尾志桜里元衆院議員について、過去の不倫疑惑などが問題視され、強い反発を招いた。そして、党の支持率は下落し、玉木代表ら執行部は公認の見送りに追い込まれたが、その判断に対しても批判の声が広がり、党内からも「誰のことも幸せにしない決断だった。沢山の人を傷つけた」との声が出ている。

東京都議選や参院選を控え、勢いに陰りが出ていると指摘される中、さらなる支持率下落を招く可能性も出ている。なぜ、山尾氏の擁立が迷走を招いたのか、そして今後の党の不安材料について、取材を通じて迫った。

山尾志桜里氏が公認見送りで決別宣言「統治能力に深刻な疑問」と痛烈批判

「国政への固い意思を引き出してくれた国民民主党には感謝しつつ、その統治能力には深刻な疑問を抱いている。今後は一線を画させて頂ければと思っている。さきほど、国民民主党には離党届を提出した」

国民民主党に離党届を提出して決別を宣言したのは、山尾志桜里元衆院議員だ。参院選比例代表の公認見送りが決まった翌日の12日、山尾氏は自らのコメントを発表した。この中では、玉木代表と榛葉幹事長から直接、出馬要請を受けて、「悩み抜いた末、この大事なタイミングで党と国家に貢献できるなら微力を尽くしたいと考えるに至り、様々な環境を整えた上で、要請を受ける決断をした」と、その経緯を明かし、「今回の両院議員総会での決定は大変残念だ」とつづった。

そして、自身が10日に行った約2時間半の記者会見を受けて、「少なからず理解と励ましの広がりに感謝をしていたところ、24時間も経たないうちに性急な結論を頂戴したことには正直驚いた」として、次のように疑念を示した。

「明らかに執行部主導で要請を受け擁立頂いたにも関わらず、執行部の責任において判断せずに、両院議員総会での決定という形をとる点にもかなり違和感があった。『有権者、全国の仲間、支援者からの十分な理解と信頼が得られない』とのことだが、公党の判断理由として有権者に説得力を持つものなのか疑問もある」

山尾氏の出馬会見(6月10日)
山尾氏の出馬会見(6月10日)
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山尾氏は、「今回問題とされた事柄は、全て公認時に周知されていたことだ」と指摘した上で、「党から正式な公認内定を受けても、党の都合で排除されてしまう政党では、志ある方も今後立候補の決断に躊躇してしまうのではないか」と疑問を呈した。

国民民主党は5月14日の両院議員総会で、山尾氏のほか、須藤元気元参院議員、足立康史元衆院議員らを参院選比例代表の候補として公認することを内定した。山尾氏の立候補をめぐっては、過去の既婚男性との不倫疑惑や政治資金問題などについて問題視し、批判する声が噴出していた。玉木代表ら執行部は、政策などについて党の方針に従う旨を記す確認書の提出を条件に、公認内定に踏み切った。しかし、その後も反発は収まらず、山尾氏は10日、先送りになっていた出馬会見の形で、一連の過去の問題について説明を行った。

一連の過去の問題について説明したが…
一連の過去の問題について説明したが…

「8年前の自分の行動と対応の未熟さを心からお詫びを申し上げる。本当に申し訳なかった」

山尾氏は会見の中で、衆院議員だった当時のガソリン代の不正計上や議員パスの私的な使用、さらに不倫疑惑について陳謝した。そして、「もう一度議席をいただいた際には、しっかりと自分を律し、国民の皆様の信頼をゼロから築き上げて、国のため、国民のために全力で働ける政治家になることを心に誓っている」と語った。また、自らの立候補で党の支持率が下落したとの見方に対しては、「申し訳なく思っている」と述べた。

一方で、会見では、不倫疑惑の報道が事実だったかどうかを確認する質問が相次いだが、山尾氏は関係者に迷惑をかけるとして、「当時お話しした以上のことを、どうしてもこの場で新しく言葉を紡ぐことをどうかご容赦いただけたらと思う」などと繰り返した。

山尾氏の会見後、ある幹部は、「質問を切らずに答えたのは評価するが、疑惑について明確には答えていなかった。これで国民の理解が得られるのか。なかなか厳しいのではないか」との見方を示した。

榛葉氏「全ての都道府県連から公認見送り求める声」山尾氏は“内幕”を暴露

翌11日、国民民主党は両院議員総会を開き、山尾氏の公認見送りを決定した。榛葉幹事長は記者団に対し、その理由について次のように説明した。

榛葉幹事長は山尾氏の公認見送りについて説明(6月11日)
榛葉幹事長は山尾氏の公認見送りについて説明(6月11日)

「山尾さんについては、法律家としての能力を見込んでの擁立ということだったが、全国の国民民主党を支えている都道府県連、そして全国の地方自治体議員から、山尾さんの公認は見送ってほしいという声があった」

榛葉氏は2日前の9日に全国幹事長会議を開いた際、全ての都道府県連から山尾氏に関しては公認を見送ってほしいという声があったと明らかにし、次のように続けた。

「ただ、山尾さんにも弁明のチャンスを与えるべきだという声もあり、昨日会見を行っていただいたが、多くの皆さんから疑問を払拭する会見ではなかったという声があり、本日の両院議員懇談会においても、党が一丸となって、来たる参院選を戦う環境を整えるためには、山尾さんの公認は今回見送ってほしい、内定を公認に切り替える作業は控えてほしいという議員の声があった」

玉木代表も山尾氏の公認見送りについて説明(6月11日)
玉木代表も山尾氏の公認見送りについて説明(6月11日)

その後、玉木氏も記者団の取材に応じ、「有権者、全国の仲間、支援者から十分な理解と信頼が得られないと判断した」と述べた上で、次のように語った。

「擁立した代表の私にも責任がある。擁立の経緯、公認候補予定者から公認に移行しない理由については、有権者、自治体議員も含めた仲間や支援者にも、しっかりと説明していきたい」

玉木氏は、一連の判断については、「遅かった、あるいはもっと別の対応があったのではないかという批判は真摯に受け止めたい」と強調した。

一方で、山尾氏に決定を伝えたのか、そして反応はどうだったのかを問われると、「事前に伝えている。反応は相手のあることなので控えたい」と述べるにとどめた。

その日の夜、ある関係者は、「今回の結果について、山尾氏は納得していないと思う。どう出てくるか注視している」と懸念を示した。そして翌12日、山尾氏は先述の決別宣言のコメントを発表し、自らの記者会見などをめぐる内幕を暴露した。

コメントの中で、山尾氏は、4月23日に党から公認内定が決まったと連絡を受けたが、発表や玉木代表、榛葉幹事長同席での記者会見は先送りさせてほしいと要請され、その後、公認内定は5月14日に発表されたものの、記者会見が宙に浮く形になっていたと明かした。

これに対し、玉木氏は記者団の取材に応じ、山尾氏に対して、「こちらからその能力を買ってお誘いをしたにもかかわらず、率直にお詫びを申し上げたい」と語った。そして、山尾氏の記者会見については、「止めていたという認識はない」と強調し、次のように説明した。

「都議選も近いので、会見のやり方、内容によってはプラスにもマイナスにも働くことがある。どのような形がベストなのか、ずっと模索し続けてきたというのが実態だ」

さらに、山尾氏の暴露は続く。10日の会見では、公認見送りとなった場合の対応について問われると、「あまりそういうことを想定していない」と述べていたが、実際には、事前に会見への玉木代表、榛葉幹事長の同席を求めたものの、「辞退会見であれば同席する」との返答があったとし、「大変残念だった」と当時の心境を明かした。

これに関して、玉木氏は、「我々としても選んだ責任もある。撤退することについては、本人だけではなくて、我々からも丁寧にしっかりと説明しようという話はしていた」と述べた。そして、次のように明らかにした。

「相当厳しいという感触は、全国からも党内の議員からも聞いていた。このまま行くとなかなか難しいという感触は(山尾氏)本人にも伝え、対立する関係ではないので、円満に、公認を見送るのではない形を模索していたが、本人としては自ら引くという選択肢はない、方針は変わらないということだった」

党内から玉木代表責任論も 幹部「反省踏まえ反転攻勢、一丸となって政策実現を」

党内からは、「反対論が出ていたのに、山尾氏の擁立を決めたのは玉木代表だ」として、責任論もくすぶっている。党の広報委員長を務める伊藤孝恵参院議員も12日、自身のSNSに投稿し、苦しい胸の内を次のように吐露した。

「誰のことも幸せにしない決断だった。全ての歯車がかみ合わず、沢山の人を傷つけた。代表の責任を問う声が私の元にも届いている。確かに、玉木代表の度々の決断がこの事態を招いた。しかし、その引責は辞任ではない。党ガバナンスの再考であり、売れない地下アイドルからのやり直しだ。一度失った信頼は戻らないことを身に刻みながら執行部全員で全国を回る」

その上で、伊藤氏は、「昨日の両院議員総会では誰一人、他者批判をしなかった。理不尽を抱えていたはずの衆院1期生に発言してもらおうと、自然とマイクを譲り合った」と明かした上で、「党を大きくしたい、強くしたいと願う中で、代表が抱いた焦りや驕り、孤独もちゃんと、所属議員たちは感じている。そしてそれ以上に、自分が政策的にも精神的にも党を支えられる人間に早くならねばと自戒している」とつづった。

5月に山尾氏の公認内定を発表した数日後に実施されたFNNの世論調査では、国民民主党の支持率は8.4%で、4月の前回調査よりも3ポイント下落した。今回の公認見送りをめぐる騒動を受けて、さらなる下落の可能性も指摘されている。4月に地方選挙で擁立した候補者が落選した際に、玉木氏は自身のSNSに投稿し、次のような見方を示している。

「地道な活動と有権者からの評価が伴わなければ、議席を得ることはできない。我が党の支持率が高くなっているが、急に伸びた支持率は急に低下する。簡単に当選した候補者は簡単に落ちる。今こそ、改めて結党の原点に立ち返り、地道な活動を強化していく」

ある幹部は、山尾氏の擁立について、「執行部として決めたものであり、責任は執行部全体にある。その反省を踏まえ、反転攻勢のために、党が一丸となって、年収の壁の178万円への引き上げやガソリン税の暫定税率廃止など、党が掲げている政策の実現に全力を尽くす。そして国民の信頼を取り戻していかなければならない」と話す。

玉木氏は10日の会見で、原発やワクチン政策をめぐる過去の発言を問題視されている須藤氏の記者会見についても、「色々な皆さんからも、またネットでも疑問、質問をいただいているのでやってもらおうと思う。きちんと答える責任がある」との考えを示した。その会見で国民の理解を得られる説明がなく、山尾氏に続く公認見送りという事態に追い込まれれば、さらなる党の支持率下落は避けられない。

都議選や参院選に向けて、国民民主党が反転攻勢できるかどうか、その行方に注目が集まっている。
(フジテレビ政治部 野党担当キャップ 木村大久)

木村 大久
木村 大久

フジテレビ政治部(野党担当キャップ・防衛省担当)、元FNN北京支局