全国的な賃上げの動きが加速する中、公の施設の管理運営を担う「指定管理者」が厳しい状況に直面している。岩手県内では約1700の施設が指定管理者によって運営されているが、最低賃金の急激な上昇により、限られた指定管理料の中での運営が困難になっている。
こうした状況を受け、岩手県は2025年度から東北で初めて「賃金スライド制度」を導入。一方、市町村レベルではまだ対応が追いついていない現状が浮き彫りになっている。
最低賃金上昇で「想定超える」苦境
全国的に賃上げの動きが加速している中、岩手県内では「指定管理者制度」の下で公共施設を運営する団体が厳しい状況に置かれている。
この制度は、県や市町村から委託を受けた企業や団体が「指定管理者」として公の施設を管理するもので、民間のノウハウを活用し効率化などを図ることが目的とされている。

県内では約1700の施設がこの制度によって運営されており、盛岡市内では県立図書館などが入る「アイーナ」や「トーサイクラシックホール岩手」「県公会堂」などがそれにあたる。また「盛岡市動物公園ZOOMO」は盛岡市が民間企業に委託する施設だ。

しかし現在、社会情勢の変化によって厳しい運営を強いられている施設が少なくない。特に急激な人件費の上昇が施設運営を圧迫している状況だ。

NPO法人いわてアートサポートセンターの坂田裕一理事長は「ここ数年のコロナ禍からの物価上昇、国の方針による最低賃金の上昇は指定管理者の想定をはるかに超えている」と窮状を訴える。

同団体は盛岡市の委託を受け、2014年度から「もりおか町家物語館」、2024年度から「もりおか啄木・賢治青春館」を指定管理で運営している。
指定された期間中は年ごとの指定管理料が大きく変わらないため、人件費の上昇に対応することが難しく、2023年度から役員報酬を減額せざるを得なくなった。

坂田理事長は「対応できない(賃金の)上昇分があると指定管理者自らが身銭を切ることになる。十分で安定的な財源確保を獲得しなければ、そういうことをせざるを得ない」と苦しい胸の内を明かす。
東北初「賃金スライド制度」県が導入
一方、矢巾町にある県立総合防災センターも同様の課題を抱えていた。
県消防協会が県の委託を受けて運営している入館無料の防災学習施設で、60代の職員4人が業務を担っている。

同センターの佐藤恒彦センター長は「ここは5年単位の指定管理施設だが、最初の年に契約を結んで指定管理料の上限額が決められる。その運用経費の中で(賃上げを)実施する形になっているが、なかなか予算は増えるものではない」と説明する。

こうした状況を受け、岩手県では2025年度に新たな制度を導入した。民間の賃金水準の変動に応じて指定管理料を見直す「賃金スライド制度」だ。
県管財課の岩間吉広総括課長は「指定管理者が安定的に公務の担い手として運営していくためには、制度的に何かを担保する仕組みが必要だと考えた」と導入の背景を語る。

県はこれまで光熱費などの上昇分については補正予算を組むなどして指定管理料に上乗せしていたが、人件費の上昇分は考慮していなかった。
しかし県内の最低賃金は年々上昇傾向にあり、2024年の10月には前の年を59円上回る952円に定められた。

「人件費がかさんで苦しい」との声が多く寄せられたことから、東北6県で初めて制度の導入に踏み切ったという。
この制度では最低賃金に加え、毎年秋ごろに公表される県の人事委員会勧告を踏まえて、指定管理を請け負う2年目以降、人件費の上昇分が指定管理料に上乗せされる。
市町村にも制度導入を求める声
県立総合防災センターも賃金スライド制度の対象となり、2025年度は約50万円が人件費上昇分として支給されることになった。
佐藤恒彦センター長は「『賃金上昇分はこのくらい』と、きちんと示してくれた。それにのっとり給料のベースアップを合わせたので大変助かっている」と制度の効果を評価する。

県管財課の岩間総括課長は「指定管理の現場で働く人たちは800人くらいいる。そうした人たちの賃上げが一定程度進む効果はある」と期待を寄せる。
賃金スライド制度は2025年度はアイーナなど32の施設が利用するという。

しかし、盛岡市など県内の各市町村にはこうした制度がまだない。
盛岡市の施設を運営するいわてアートサポートセンターの坂田理事長は「岩手県のいろんな自治体も県に合わせて賃金スライド制度を導入してほしい」と訴える。

ただ、盛岡市も対策を講じていないわけではない。
2024年度からはエネルギー価格の高騰や最低賃金の上昇を踏まえ、人件費を含む運営費全体の2%から4%ほどを指定管理料に上乗せするなどの対応を始めている。
しかし、それでも苦しいという声があり、市では今後効果を検証していく方針だ。

安定した運営で市民サービスの向上を図っていくためにも、各自治体には柔軟な対応が求められている。
(岩手めんこいテレビ)