大相撲の“新時代”が到来した瞬間だった。

令和7年夏場所13日目、大関・大の里が同じく大関の琴櫻に勝利し、2場所連続の幕内最高優勝を達成。第75代横綱の誕生が確実となった。

驚くべきことに、初の綱取り場所を14勝1敗という好成績であっさりとクリア。
数多の猛者たちが挑み、跳ね返されてきた綱取りの壁に、大の里はどのように挑み、乗り越えたのか。本人と師匠の二所ノ関親方のインタビューをもとに紐解いていく。

調整不足の大の里を救った親方の助言

春場所で大関の地位で初優勝を飾ったことで、夏場所は綱取りがかかることになった大の里。しかし、4月末に体調を崩したことで満足に稽古ができず、体重も増加。調整不足が懸念されていた。
5月2日に行われた横綱審議委員会の稽古総見では、6勝10敗と負け越し。横綱・豊昇龍には1勝8敗と大きく負け越した。不安を感じた大の里は、師匠に出稽古の申し出をしたという。

二所ノ関親方:
境川部屋の出稽古に行かせた。「どこどこの部屋に行きたい」と言ってきたが、「境川部屋に行った方がいい」と。やっぱり、あそこの部屋は本当に力を抜かない稽古、昔ながらの気合が入った稽古をやっている。そういう稽古がある中で、ピリピリした雰囲気でやった方がためになると思った。あそこから体がすごく変わって。部屋の稽古でもキレが出始めた。本当に受け入れてくれた境川親方には感謝しています。

インタビューに答える二所ノ関親方
インタビューに答える二所ノ関親方
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5月3日に境川部屋で幕内・平戸海と20番、5月5日には佐渡ケ嶽部屋で大関・琴櫻と16番取るなど、精力的に出稽古をし、急ピッチで体を仕上げていった。

大の里:
調整不足で少し不安もありました。出遅れた感もすごくあったので、それを取り戻すためにも出稽古に行った。本当に緊張感のあるいい環境でしたし、また行きたいなと思います。

5月6日には師匠と三番稽古を行い、10番取って8勝2敗。これまでの三番稽古は勝敗が拮抗していたが、今回は大きく勝ち越し。親方はこの三番稽古で、今場所の躍進を予感したと言う。

二所ノ関親方:
去年11月の九州場所以来だったんですけど、確実に良くなっているのがわかって、「今場所はちょっと違うぞ」と。体の芯から「ガツン」といかれる感じ。肌合わすと「強くなっているな」と思いました。

今場所好調の要因はまさかの…

親方の予感は現実のものとなる。

二所ノ関親方:
先場所負けた3つに勝ったのが大きかった。初日・若元春、2日目・髙安、4日目・王鵬。「すごい割を組むな」と思いました(笑)。
でも、そこを難なくクリアできたところが良かった。特に、初日の若元春戦。先場所は相手のペースになって負けてしまったが、自分のペースで今場所は取れましたから。

大の里:
本当に初日の入りが完璧でしたし、それでいい流れが作れたんじゃないかなと思います。最初の5日間は本当に大事だなと思っていて、全勝で5日間を終えて「ちょっといけるんじゃないか」「体が動いているな」という気持ちもありました。

インタビューに答える大の里
インタビューに答える大の里

4日目までに先場所敗れた3力士との対戦が組まれた大の里。序盤の難敵を破ったことで自信がつき、勢いに乗れたことが、優勝に繋がったのだ。

さらに、好調を維持できた要因が他にもあるようで…

大の里:
毎日通ったとかではないですけど、15日間でよく行ったのは、ラーメンショップ牛久結束店。「日本一うまい」と言われているラーメンショップによく行っていました。
(並ばないと入れないですよね?)そうです、並びますね。

連日行列ができるほど地元で人気のラーメン店で力をつけていた大の里。優勝を決めた13日目にも訪れたという…

大の里が連日通った「日本一うまい」と言われるラーメン
大の里が連日通った「日本一うまい」と言われるラーメン

大の里:
(並んでいる時に「優勝おめでとうございます」とか言われました?)それが全くなかったんです。店員さんも気付くことなく、お客様もラーメンを食べに来ているだけなので。声をかけられないことが逆によかった。おいしいラーメンを食べて、余計なことを考えることなく相撲に集中できました。

綱取り場所で支えとなったのは、まさかのラーメン!?
すでに大人気のお店だが、今後は相撲ファンのお客さんが増えることは間違いないだろう。

唯一無二の横綱へ、大の里時代到来

千秋楽で横綱・豊昇龍に敗れたものの、14勝1敗で大関の地位で2場所連続優勝を達成した大の里。所要13場所での横綱昇進は同郷・石川県生まれの大横綱・輪島が記録した21場所を大きく更新し、大相撲史上最速記録となった。さらに、大卒力士の横綱昇進は輪島以来であり、52年ぶり2人目の快挙。同郷の横綱が持つ最速記録の更新、さらに大卒横綱という共通点もあるなど、大の里も輪島との運命的な縁を感じている。

大の里優勝パレード
大の里優勝パレード

大の里:
最速記録1位が輪島さんだったということで、横綱に上がったのも同じ夏場所後で、すごく偶然を感じます。能登に「キリコ会館」というところがありまして、そこに小さな輪島さんの博物館みたいなところがある。
小さい頃、そこを見に行って、「横綱だ」ということを親から聞いて、「大学出身で横綱になったのはその人しかいない」という話を常々聞かされていた。こうやってまさか肩を並べることができるとは、夢にも思ってなかったですね。

5月28日の伝達式の際には、「横綱の地位を汚さぬよう稽古に精進し、唯一無二の横綱を目指します」と、決意を述べた大の里。これまで数々の大相撲界の常識を打ち破ってきた大の里は、この先で私たちにどんな“唯一無二”を見せてくれるのだろうか。

横綱伝達昇進式
横綱伝達昇進式

二所ノ関親方:
まだまだ進化途中ですから。これに甘んじず、さらなる上を目指していってもらいたいと思いますね。僕は道半ばで引退してしまいましたし、なかなか横綱生活が思い通りにいかなかったので、そういう苦い経験を色々と伝えながら、大の里も勉強してくれればと思います。
あとは、自分でそこから築き上げていってほしい、自分の時代を築き上げていくしかないと思います。

大の里:
しっかりとまだまだ勉強することがたくさんあります。横綱らしい姿で、堂々と頑張りたいです。

第75代横綱が築く大相撲新時代。その道の先に、大の里が目指す“唯一無二の横綱”が待っている。

『すぽると!』
毎週(土)24時35分~
毎週(日)23時45分~
フジテレビ系列で放送中

山嵜哲矢
山嵜哲矢

株式会社ビーフィット チーフディレクター
東京学芸大学卒業後「ジャンクSPORTS」や格闘技中継などを担当
2012年から「日本大相撲トーナメント」中継に携わり
2016年からスポーツ局の相撲担当として場所中や場所後の取材を行う