例年、様々なドラマが巻き起こる「荒れる春場所」。
記憶に新しいのは、新入幕力士として110年ぶり、さらに当時の最速記録となる初土俵から所要10場所で初優勝という2つの大記録を打ち立てた、2024年の尊富士。ケガを押しての快挙達成は、強く相撲ファンの記憶に焼き付いている。
そして2025年も、「荒れる春場所」に違わぬ激戦が繰り広げられた。
新横綱・豊昇龍のまさかの途中休場、美ノ海・安青錦・時疾風ら平幕下位力士たちの躍進、ベテラン35歳の髙安と新鋭・大の里による優勝決定戦。
中でも我々が注目したのは、大の里が制した優勝決定戦。千秋楽後に行った大の里と二所ノ関親方のインタビューから、この一番に張られていた5日前のある「伏線」が浮かび上がってきた。
大関の重圧に苦しんだ半年間
2024年の夏場所で、上記の尊富士の記録を抜く所要7場所で初優勝を果たした大の里。秋場所では早くも2度目の優勝を果たし、こちらも昭和以降では最速記録となる所要9場所で大関昇進を果たした。
数々の記録を打ち立てていく大の里だったが、大関昇進後はその勢いにかげりが出始める。九州場所では9勝と2桁に届かない成績を収めると、2025年の初場所でも5日目で3敗を喫するなど、10勝止まり。豊昇龍にも先場所で敗れ、横綱昇進で先を越された。
本人に不調の原因を聞くと…

大の里:
やっぱり稽古不足だったと思う。親方からも「もう(稽古の)貯金はなくなったから稽古しろ」と言われました。
「大関昇進後2場所の不調が自分を見つめ直すきっかけになった」と本人は語った。
同じ一門の大先輩との優勝決定戦
稽古不足に原因があったことを反省し、足腰を鍛え直した大の里。部屋の稽古での番数を増やしたほか、二所ノ関一門の連合稽古だけでなく、時津風一門の連合稽古にも出向くなど、精力的に稽古して春場所に臨んでいた。
大の里:
やってきたことが発揮できたと思いますし、土俵際の厳しさとか磨いてきたことができたんじゃないか。
(会心の一番は?)
初日じゃないですかね。腰のぶつけ方が自分で映像を見ても凄いなと思いました。
本人が語るように初日から稽古の充実ぶりを見せ、勝ち星を重ねていく大の里。そして、共に優勝を争ったのが、同じ一門で師匠の弟弟子であったベテランの髙安。
実は、大の里の入門前に2人は出会っており、二所ノ関部屋に体験入門に来た大の里に出稽古で訪れた髙安が胸を合わせていた。稽古後、髙安に「この部屋なら間違いない」と後押しされたのが、二所ノ関部屋入門を決める大きな要因となったとも言われている。
共に2敗で迎えた13日目。大の里は王鵬との一番に敗れ、髙安を星の差一つで追う形になった。痛恨の敗戦だったが、この王鵬戦の黒星が気持ちを切り替えるきっかけになったと大の里は語る。
大の里:
あの負けが自分を強くしてくれた。自分の気持ちをもう一度リセットさせてくれた。おかげで14日目と千秋楽で完璧な相撲を取れた。あの負けがなかったら「もしかしたら…」と、自分でも思うところがある。

二所ノ関親方:
王鵬戦をあまりに不甲斐ない相撲で負けてしまったので、崩れるかなと内心思っていたのですが、14日目から立て直して本来の相撲を思い出して取り直せた。雑になっているので、「自分の相撲をもう一度見直せ」と言った。本人も納得していた感じだった。
14日目と千秋楽を完璧な相撲で勝利すると、髙安が14日目に敗れたことで賜杯の行方は優勝決定戦にもつれ込む。
この重要な一番を前にした心境を聞いてみると…
大の里:
結びが終わって気持ちが高ぶっていましたし、良い汗をかいていたので早く相撲を取りたいという気持ちでした。
その気持ちの余裕が大の里を3度目の賜杯へ導く。
結果は、立ち合いから一気に前に出た大の里が土俵際で粘る髙安の投げを耐えきり、「送り出し」で勝利した。
5日前の直接対決にある「伏線」が…
手に汗握る好取組となったが、この一番にある「伏線」が隠されていたと語るのは、二所ノ関親方だ。

二所ノ関親方:
左脇は硬いんですよね。髙安の左脇は硬いんで。そこで喧嘩をしたらおそらく大の里は右差しは勝てないとあの本割の一番で思ったんでしょう。
優勝決定戦の5日前、10日目に本割で対戦していた両者。右差し得意の大の里と左差し得意の髙安の差し合いとなったが、そこを制した髙安が一気に前に出て「押し出し」で勝った一番だった。
そして、優勝決定戦。立ち合い強く当たると、大の里は差し合いにはいかず右上手を取って一気に前に出る相撲で勝負に出た。これが命運を分けたというのだ。
二所ノ関親方:
大の里は、自分の相撲の右差しというのを捨てて、もう休まずに走るというような。
髙安は成功体験があったので、また左固めて左を差せば自分の中でいけるというところがあった。そこは、大の里が思い切っていけたということが、1つの勝因かなと思います。
大の里:
本割での負けが自分自身考えさせられる部分があったので、あの負けを逆にプラスに考えて戦うことができた。
5日前の敗戦の反省を活かした見事な「伏線回収」。思えば、13日目の王鵬戦の負けでも「気持ちを切り替えることができた」と話していた大の里。負けるたびに強くなる。この男は一体どこまで強くなるのだろうか。
前人未到の「最速横綱」誕生へ
改めて今場所を振り返ってもらった。
大の里:
大関になって初めての優勝。今までの2回は勢いのまま優勝したけど、今回は2場所苦しい思いもして、しっかり稽古を積んで場所を迎えた。結果が優勝で嬉しい。
今回初めて地元で巡業があるので、優勝した姿で帰れるのはすごく大きなことだと思います。また次に向けて頑張る活力になる。

今場所での優勝により、来場所は綱取りに挑む大の里。実現すれば史上最速、所要13場所での横綱が誕生する。
幕内初優勝、大関昇進と最速記録を塗り替えてきた大器が、またも相撲界の歴史を塗り替えるのか。来場所もこの男の活躍から目が離せない。
『すぽると!』
毎週(土)24時35分~
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