韓国の大統領選の裏で、ある動画の存在が問題に。その脅威を取材した。

■「ディープフェイク」が選挙の影で問題に
今回の韓国大統領選挙の影で問題となっていたのが、李在明氏と尹錫悦前大統領が刑務所に入っているかのような動画。
実はAI=人工知能の技術で作られたニセ動画、「ディープフェイク」とみられる。
候補者同士が殴りあう映像もあった。
今回の大統領選ではこうした動画がSNSに数多く投稿された。

■削除要請がされた後も残るディープフェイク動画
政府もこの状況を問題視。
前回の大統領選では400件程度だったディープフェイク映像などへの削除申請件数は、1万件以上に急増。(6月2日時点で10448件)
また、動画などを投稿した人物を告発するなど、対応を進めたが…。
記者リポート:SNS見ると削除要請がされた後もこのようにフェイク動画が残っています。
いたちごっこの状態になっている、ディープフェイク。一体いま、政治とAIの間で、何が起きているのか。

■誰でも簡単に作ることができるようになったことが動画の急増理由の1つ
10年ほど前からこの問題を研究している福井工業大学の馬場口教授を訪ねた。
まずは、韓国で拡散されている動画を見てもらうと…。
福井工業大学 経営情報学部 馬場口登教授:このあたりですね。だいたいディープフェイクの場合はこういうところに違和感が出てくることが多い。
ディープフェイク動画は、首と顔の境目あたりに違和感が出やすいと指摘。しかし、じっくり見ても気付きにくいように感じる。
馬場口教授は、誰でも簡単に作ることができるようになったことが、選挙戦でのディープフェイク動画の急増理由の1つと指摘する。
福井工業大学 経営情報学部 馬場口登教授:2023年に画像生成のAIが出てきたんですよ。コンピューター研究者じゃなくても(フェイク動画作成)できるようになってきた。前のアメリカの選挙のときに画像レベルにはたくさんありました。例えばトランプ候補が黒人の支持者の間に囲まれて写真を撮ってるとかはフェイクだと言われています。
急速に拡大する「ディープフェイク」、もちろん日本も無関係ではない。私たちは「正しい情報」を見抜けるのか。

■「『これが嘘の情報ですよ』って選挙期間中に流すべき」と安藤優子さん
4日、「newsランナー」に出演したジャーナリストの安藤優子さんは、大手メディアが今こそファクトチェックする機能を担うべきだと指摘した。
安藤優子さん:今見た感じでは、良く考えればこれはありえないって思うんですけど、絵面だけ見ちゃうと、『もしかしたらこんなことがあるのかしら』って思っちゃうぐらい非常に巧妙。
安藤優子さん:そこで提案なんですけど、こういうフェイク映像を追跡していって、告発するのって人手がいるわけですよね。ずっとパトロールもしなくてはいけない。韓国は選挙管理委員会がちゃんと動画の抹消要請などするらしいです。
安藤優子さん:日本の場合は各陣営がやらなくちゃいけないとなれば、受け取る側とすれば、どれがファクトかわからない。ファクトチェックをする機能を大手メディアが今こそ担うべき。人手もあるでしょう。 『これが嘘の情報ですよ』って選挙期間中に流すべきじゃないですか。
吉原功兼キャスター:次の参院選に向けて、私たちもしっかり考えています。
安藤優子さん:選挙が終わってからじゃ遅い。

実際に拡散されたフェイク動画を見ていく。
カメラに向かって話す岸田前首相だが、驚きの言葉が。
フェイク動画の岸田前首相:こんな”変態”内閣総理大臣と。
これは2年前、実際にSNSで拡散された岸田前首相のフェイク動画。実際の会見動画が使用されたとみられていて、よく見ると口元だけしか動いておらず、不自然な点が見てとれる。

■「AI新法」が成立も直接的な規制は盛り込まれず
参院選も控える中で、現在日本ではこのような状況になっている。
5月終わりに国会で「AI新法」が成立した。しかし直接的な規制は盛り込まれず、国はディープフェイクなどがあった場合は調査や指導はできるが、 AIの発展のため、罰則は設けられないというもの。
福井工業大学の馬場口教授は、「このままだとディープフェイクなどが思考誘導に使われる可能性があるとして、非常に危険」と述べている。
真偽不明の情報が出回り、それを信じて投票行動につながってしまう恐れも。

■「地上波や新聞も、もう力を発揮してもらわないと」
また、弁護士で元大阪府知事の橋下徹さんは、選挙期間中も報道を継続するべきだと指摘した。
橋下徹さん:表現活動については、規制は必要最小限にしなきゃいけないっていう思いがあります。だから直接的な規制がないというのは、僕はそれは賛成なんですけど。
橋下徹さん:ただプラットフォーム事業者がまず責任果たしてくれないと。莫大な利益をあげているんですから、そこに対して人員を割いてちゃんとチェックをするっていうこと。問題のあるものは削除していく。絶対にやってもらわなきゃいけない。

橋下徹さん:あとはこういう状況だからこそ、地上波や新聞も、力を発揮してもらわないと。人員を増やすとかじゃなくて、選挙期間中に報道を継続するだけで十分だと思います。選挙期間中に報道をなくしてしまうから、SNSで玉石混交の情報が出回るわけで。
橋下徹さん:今のこの体制で選挙期間中もしっかり報道するっていうことだけを、僕らもメディアに出ているから責任の一端担っているんですが、やらなきゃいけないんじゃないでしょうか。
安藤優子さん:あまりにも報道を抑制しちゃって、何も隠しているわけじゃないのに、隠しているかのように言われてしまうことが大変残念なので。
吉原功兼キャスター:質的・量的公平というのは一体なんなのか、私たちもしっかり落とし込んで、次の参院選に向けて準備してまいります。実効性の高い対策が私たちテレビの報道も含めて求められている状況です。

(関西テレビ「newsランナー」2025年6月4日放送)