石川県内で2025年発生した交通事故は5月26日時点で653件。前年同時期に比べて32件減少した一方、死亡者数は2人増の10人となっている。ドライバーの不注意だけでなく、事故が起きやすい場所も存在する。今回は過去に複数の死亡事故が発生している内灘町の現場を取材し、その危険性や対策について考えた。

過去に3件死亡事故が起きた現場

2025年3月29日の午後7時ごろ石川県内灘町向粟崎4丁目の町道で歩いて横断していた81歳の女性が乗用車にはねられ死亡した。警察は事故の原因について現在も捜査中としている。女性は高齢ながら1人暮らしだったという。

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向粟崎地区の民生委員として事故で亡くなった女性の見守りを担当していた室谷俊光さんに話を聞いた。「91歳のうちの母にはここの横断歩道渡るなって。怖いから渡り切れないから渡るなって言ってる」この横断歩道では2年前にも歩行者がはねられ死亡しており、近所の住民によるとこれまでに少なくとも3件の死亡事故が発生しているという。

ドライバーが見落としやすい構造的問題

中央分離帯がある片側2車線の道路。西側にはのと里山海道があり、多くの車が往来している。道路の制限速度は時速50kmだが、道に勾配があるため金沢方面に向かう下り側ではスピードを上げて走る車が多いという。「これスピードすごいと思わん?ほら。あんなスピードで横断歩道で手を挙げても止まってくれんよ」

さらにドライバーから見て横断中の歩行者に気づきにくい特徴もある。「車が止まってくれればいいんです。でもこっち側止まっても反対側が来るんですよ。横の車がびゃーっとくる。追い越し車線から来るから怖い」

緑台2丁目と旭ケ丘という2つの信号交差点の中間地点にあるこの横断歩道。ドライバーは前方の信号に意識を向けてしまうため、横断している人に気づきにくい。「この横断歩道忘れる。あっちの青信号が見えるから、あの青信号を渡ろうというスピードで車が入って来るから下り坂で。だからこの横断歩道は怖い」

約20年「押しボタン式信号を」要望

午後8時ごろの現場。事故が発生した時間と同じ日没の状況では、横断歩道に近い車線の両脇には街灯があるものの暗さが目立つ。向粟崎公民館の北川利一区長によると、町会では横断歩道の事故防止策について意見をまとめ、内灘町に要望している。「向粟崎区としては2005年度から内灘町に道路が危ないため、押しボタン信号をつけてと要望している」

内灘町への要望事項
内灘町への要望事項

長年継続して「押しボタン式信号の設置」を要望しているが、まだ実現していない。町会から要望を受けた内灘町は県警の公安委員に対して設置の要望を続けていくとしている。一般的に信号や横断歩道など交通規制の設置は、住民や自治体からの要望を受けた警察が現場の調査や設置に向けた検討を行う。向粟崎の要望については、信号機を設置する条件や費用などが課題になっていると、区長の北川さんは警察から聞いているという。「先日も亡くなった人がいるので、内灘町にも少し真剣に考えていただきたいということで、また強くいうつもりです」

信号機設置のハードルとなる間隔の問題

現場の調査などを行う県警交通規制課の西村泉次席は、個別の事案には答えられないとしながらも、信号機や横断歩道の設置についてどのように検討しているか説明した。「信号機が欲しい、横断歩道が欲しいという要望はたくさんいただいております。いただいた要望に関しては現地を見ながら、本当に必要性があるか、設置ができるか、設置することによって危険が起きないかも総合的に判断して設置を行っているという状況です」

西村次席
西村次席

信号機の設置に関して警察は指針に基づき、信号が必要な交通量があるかや歩行者が安全に待機できる場所が確保できるかなどを検討する。また信号機を設置するためには隣接する信号交差点との距離が原則150m以上なければ設置は難しいという。津幡警察署によると、向粟崎の事故現場となった横断歩道を挟む2つの信号交差点の間の距離はおよそ290m。したがってこの横断歩道に信号機を設置する場合、150mの間隔を取ることができない。「信号機同士が近いとやはり違う信号機を見て判断するという誤った判断が起きると事故のもとになる危険な状況になりますので、一定の距離が離れていることが条件」

早稲田大学の安全人間工学が専門の加藤麻樹教授は、この現場について次のような対策を提案する。「直線で見通しはいいものの夜は暗くて視認性が悪い。少し引っ込んだ位置にある照明の位置を前に持ってきたり、中央分離帯の構造を変えるなど構造自体の見直しを求められます」いっそ横断歩道が通る中央分離帯を閉じてしまって別の横断歩道に歩行者を誘導し、安全を確保することなども効果的だということだ。

(石川テレビ)

石川テレビ
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