特集は思い出の地への恩返しです。子どもの頃、長野市大岡地区で山村留学していた男性が、このほど地区に戻り日帰り入浴施設の店長として働き始めました。過疎化が進む「心のふるさと」を盛り上げたいと奮闘しています。

長野市の南西部にある大岡地区。

その標高800メートルの山あいに日帰り入浴施設「大岡温泉」があります。


売りは露天風呂からの眺望と手作りの料理。

天ぷらや手打ちそば、そして、地元産の米で作る郷土料理「こねつけ」が人気です。

そばを注文した客:
「おいしいです、麺細目で喉越しは良い」

施設は料理メニューを充実させて、4月10日にリニューアルオープンしました。


「店長」を務めるのが神奈川県出身の飯島悠太さん(36)です。

「大岡に恩返し」したいと、このほど移住してきたのです。

大岡温泉 店長・飯島悠太さん:
「使い古された言い方だと心のふるさと。改めて大岡っていうのは、私にとってそういう地域だと感じています。私のできる範囲で力を尽くしていきたいと思っています」


飯島さんは小学校4年から中学2年までの5年間、大岡で山村留学をしていました。

飯島さん:
「大岡の温かさに触れて、よりこの土地が好きになった」

神奈川に戻り、都内の大学院を卒業して会社員をしていましたが、2014年、長野市の地域おこし協力隊員に就任。遊休農地の活用などに取り組みました。

飯島さん(2014年5月):
「お世話になった大岡に恩返しできる機会がなかったので、こういった機会を与えてもらい(募集に)飛びついた」

また、店主が高齢となり閉店した地元で人気だった「豆腐店」の復活などにも携わりました。

3年間の任期を終えた後もしばらく住んでいましたが―

飯島さん(2014年7月):
「私自身、精いっぱいやらせていただきましたし、地域の方も迎え入れていただいたけど、明確な形に成果としてつなげるところまでいかなかったのが正直なところ」

悩みながらも2019年、再び大岡を離れました。


高齢化と過疎化が進む地区。

人口は飯島さんが地域おこし協力隊員として赴任した2014年は1100人ほどでしたが、今は750人余りにまで減っています。


「大岡温泉」も地元住民、観光客ともに利用者が減少し、赤字続きに。2024年度まで市の指定管理者だった業者が撤退しました。存続させるため山村留学を受け入れる「大岡ひじり学園」の青木高志学園長が2024年9月に運営会社を設立。「地域を盛り上げ憩いの場にしたい」と引き継ぎました。

そして、青木さんは飯島さんに「店長」になってほしいと声をかけました。

運営会社O-CREW・青木高志代表:
「大岡に彼自身が恩返しをしたいという気持ちが非常に強いので、その熱意を感じて、私からも声掛けさせていただいて」


飯島さん:
「地域の方とのつながりとか山村留学のOBとして私にできることは多くあるのではないかと思って」

4月10日、飯島店長のもとリニューアルオープン。

6年ぶりに大岡に移り住んだ飯島さん。忙しい日々を送っています。


午前11時開店ー。

この日は、開店後すぐに地元の常連客がやってきました。山村留学時代からの顔見知りです。

大岡温泉 店長・飯島悠太さん:
「360円、そちらの券売機で」

常連客:
「よく知ってて、この子いい子でね。こっちに帰ってきてくれて、うれしいです」

飯島さんが目指すのは「大岡の魅力の発信地」です。

露天風呂からの眺望はそのまま。北アルプスを一望できます。


客:
「温まった、温まった。さて、ご飯お願いするか」

料理メニューは一新しました。これまではカレーと牛丼しかありませんでしたが、地元産にこだわった7品に充実させました。

地元産の米でネギみそを包んで焼いた郷土料理「こねつけ」(2個、200円)。

地元野菜の天ぷらとそばのセット(1300円)。

そばを注文した客:
「おいしいです、喉越しが良い。来れば、おそばって決めているの」

腕を振るうのは、給食センターで働いた経験などもある地元の女性3人。

この日、日替わりメニューとして提供したのは「ぎょうじゃにんにくの天ぷら」です。

厨房スタッフ:
「地元の方が山菜なんかも手に入るとこちらに持ってきていただけるので」

食材の多くは地元農家から仕入れています。

大岡温泉 店長・飯島悠太さん:
「地場で手に入るものも多いので、それを使って大岡の魅力を食事としてご提供して、発信していきたいという思いはあります」


地元住民:
「お父さんに本当に似てきたね」

もう一つの狙いが地元住民の憩いの場にすること。今後、イベントを開いたり、お茶のみサロンの会場として貸し出したりすることも検討しています。

飯島さんの山村留学時代の同級生:
「実家に寄ったので寄ろうかなと。山奥なので、なかなかそういう(人の集まる)場がないと思うので、憩いの場になってみんな来てくれればなと思う」


北アルプスを望める眺め、地元産の食材にこだわった料理。大岡の魅力の発信地として生まれ変わった日帰り入浴施設。

飯島さんはかつて世話になった「心のふるさと」を盛り上げようと「恩返し」を続けます。

大岡温泉 店長・飯島悠太さん:
「大岡の中にいろいろなプレーヤーの方がいるので、そういった方と結びつきながら地域全体が元気になる、盛り上がるような活動に踏み込んでいけたら」

長野放送
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