新緑まぶしい季節におすすめのトレッキング。福井県大野市の九頭竜湖近くにそびえる標高約1000メートルの鷲鞍岳は、ブナ林に囲まれ森林浴を楽しめるだけでなく、残雪をまとう山々も展望できる。
殿様が馬に乗り鷲で狩りをしたという言い伝えが由来の、鷲鞍岳。大野市中心部から車で約20分、九頭竜スキー場にある登山口からガイドの脇本浩嗣さんと一緒に出発する。

残雪の百名山も展望
スギ林を登り始めてから少しすると、ニリンソウが出迎えてくれた。さらに歩くと、脇本さんが足を止める。「これはオウレン。花が終わって種になるところかな」。青々とし葉のオウレンが辺り一面に広がっていた。
標高が上がるにつれてブナやナラの木が増え、芽吹いたばかりの柔らかな葉が登山者を優しく迎え入れてくれる。

新緑の隙間からは、福井県内唯一の日本百名山「荒島岳」の姿を見ることもできる。急な坂を超えると、山頂までの道のりは残り半分。

「足跡ある!カモシカ」脇本さんが声を上げた。残雪に、真新しいカモシカの足跡が残されていた。
稜線からは、大野市和泉地区の後方にたっぷり雪をまとった白山連峰を臨むことができる。

細い枝をかき分けて進むとー
「風が変わった。涼しい」
ブナが涼しい風を運んでくれる。
出発して約2時間半。「着きました、山頂です」
木々に囲まれ、残念ながら展望は良くなかったが…山頂に取り付けられた赤い鈴を鳴らして気分を盛り上げる。

ブナの峰走り
下山はルートを変えて、九頭竜湖側へ。どこまでも広がるブナ林が太陽を受け、若葉が一層鮮やかに輝き出す。
山用語に「ブナの峰走り」という言葉がある。明るい緑色のブナが、他の木に先駆けて芽吹き、鮮やかな新緑が麓から山頂へ上がっていく様子を表している。その速度は1日に10メートルともいわれ、まさに山頂へと駆け上がっていくような速さ。春の息吹を味わえるとっておきの季節だ。

新緑を全身で味わいながら下っていくと、徐々に九頭竜湖が見えてきた。登山開始から4時間程で九頭竜湖へと戻ってきた。
九頭竜湖周辺では、長野県を結ぶ中部縦貫道の工事が着々と進められていた。

大野市と岐阜県を結ぶ国道158号は、3月に発生した斜面崩壊により一部通行止めとなっているが、福井県内から九頭竜湖周辺までは通行することができる。
熱中症対策など、十分な配慮をしたうえでこの時期ならではのトレッキングを楽しんでみてはいかがだろうか。

<鷲鞍岳へのアクセス>
JR越美北線の終着駅「九頭竜湖駅」から徒歩10分、九頭竜スキー場近くに登山口