『自動運転タクシー』の試験走行が始まった。日本交通とタクシーアプリGO、アメリカのウェイモ(Waymo)の3社によるもので、当面は、港区や新宿区、江東区など都内7つの区でドライバーが乗り込んでの手動運転。道路事情のデータ収集などを行い、ウェイモの自動運転技術を日本向けに適応させていくという。
自動運転の実用化は、利用者にとっての便利さだけでなく、全国の多くの自治体が抱える“地域の足”問題の解決手段として期待されている。

免許を返納した高齢者をはじめ、移動手段の確保に不安を感じている人は多いが、公共交通の減便や廃止が進んでいるのが現状だ。日常生活にかかせない“地域の足”は今後どうなるのか?
地域公共交通の問題に取り組む、高知工科大学・地域イノベーション共創機構の重山陽一郎教授に話を聞いた。
自動運転の未来が見えている
【高知工科大学地域イノベーション共創機構 重山陽一郎教授】
電話一本で無人タクシーが迎えにきてくれて、好きな時に好きな場所まで連れて行ってくれる。そんな未来がもうそこまで来ています。
急速な技術の進歩のおかげで、例えば、高齢者が苦手とされているスマホの操作などもほとんど必要なくなります。予約アプリか何かに「何時にどこへ行きたい」と話しかければ、「何時にここへ来て下さい(何時に迎えに行きます)」などと返事が返ってくる。AIとの会話が人間相手と同じようにスムーズにできることは、すでにチャットGPTの音声アプリなどで実現されています。
迎えにきた自動運転の車に乗り込むと、目的地まで連れて行ってくれて、支払いも自動で決済される。非常に簡単な仕組みになると期待しています。
今、地域公共交通が抱える最も大きな課題は『運転手不足』です。運転手は免許が必要ですし、健康でなければいけません。年齢制限もあります。人の力での解決は厳しい状況です。
そんな中、『自動運転』は問題の解決手段の1つとして、実現化に向け着々と進んでいます。10年後か20年後かは分かりませんが、決して遠い夢の話ではないのです。
過渡期の今、目の前の問題をどう解決するか
現在、地域公共交通は過渡期にあります。近い将来、『自動運転』によってガラッと変わる可能性があるとはいえ、それまでの期間をどうするか、我々は目の前の問題を考えなければいけません。
人口減少が進む高知県土佐清水市では、利用者が電話予約する乗り合いタクシー「デマンド交通『おでかけ号』」を平成25年に導入しました。およそのルートと時刻表が設定された上でのデマンド運行で、現在、2方面3路線が運行しています。
利用者はあらかじめ電話で予約を行い、自宅(付近)から指定場所まで乗車します。帰りも同様に、電話で予約をして指定場所で乗車、自宅(付近)で降車します。
利用者のニーズに合わせて運行するシステムなのですが、交通事業者(地元のタクシー会社)も利用者もデジタルを苦手とする高齢者。予約情報や運行記録をFAXで送るなど、手間とコストがかかり、人的ミスによる不具合も発生していました。

そこで我々は、電話予約できる利便性は維持したまま、情報伝達をオンライン化。クラウドでの一元管理により、運転手、運行事業者、市役所の間で簡単便利かつ間違いのない情報共有を即時に行えるようにしました。
開発にあたり意識したのは“デジタルが苦手な人でも使いやすいシステム作り”。誰もが簡単に操作できる、“間違いが少なく使いやすいシステム”を開発し、2021年4月から本格運用を開始しました。
それまでの紙による作業をデジタル化することで、運転手や市役所の作業はぐっと減り、過疎地における貴重な人材の事務処理を減らすことが出来ました。
そして何より、ヒューマンエラーが減ったことで、利用者が確実に利用できるようになりました。急なキャンセルなどへの対応もスムーズに行えるので、利用者、運転手双方とも負担が大幅に減り、安心して利用できます
電話予約というアナログな部分も大切にして残したことで、すんなりと受け入れられたのだと思います。
高齢化や過疎化の進む地域では、高齢者等の生活交通手段確保の問題が深刻化していると同時に、公共交通の担い手の高齢化も進んでいます。このままでは、今以上に深刻な事態に陥る可能性があるため、ITを利用した解決の道筋を考えなければいけません。
過疎地域における生活交通手段の確保を目指して、今後も研究開発を続けていきたいと思います。
(高知工科大学地域イノベーション共創機構 重山陽一郎教授)
取材:高知さんさんテレビ