盲導犬などを活用する人が飲食店に“受け入れ拒否”される問題。法律が改正され「補助犬の同伴を拒んではいけない」となった今も理解は進んでいない。
全盲の当事者と、彼を支える盲導犬の姿を見つめた。

なくてはならないパートナー

広島市東区に住む国弘武さん(66)。盲導犬を活用するユーザーだ。
そして、盲導犬のフジくん。
一緒に外を歩くことが毎日の楽しみ。この日は近所のケーキ屋にお出かけした。

盲導犬のフジくんとケーキ屋に入る国弘さん
盲導犬のフジくんとケーキ屋に入る国弘さん
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店の入り口を確認する国弘さん。
「レフトドア。こっち?あった。グッド!」
フジくんのサポートで店内に入る。
「おはようございます!おねがいします」
礼儀正しく大きな声であいさつをし、無事、ケーキを購入することができた。

国弘さんは視覚障がい者。指定難病の網膜色素変性症を患っている。45歳のころから目が見えにくくなり、60歳を迎えたとき全盲になった。
「車を運転できなくなったことが一番残念ですね。車が大好きでしたから。運転するのも大好きだった」

盲導犬のユーザーになって8年。
フジくんは2頭目のパートナーだ。自宅では国弘さんにべったりと甘え、ひざの上で寝そべったり、歯を磨いてもらったり。

国弘さんに甘える盲導犬のフジくん
国弘さんに甘える盲導犬のフジくん

「1頭目はショーくんだったんですが、ショーくんは絶対こんなことやらんかった」
2024年9月から2頭目のフジくんが国弘さんの日々の歩みを支えている。一見、仲の良い飼い主と飼い犬のように見えるが、彼らは深い信頼関係で結ばれている。
「いなくてはいけない。なくてはならない。『フジ』と呼んだらそばに来てくれないといけないという存在です」

盲導犬が理由で7軒の店に断られ…

ハーネスをつけると盲導犬としての仕事が始まる。

「よし、じゃあ行こうか。レフト、グッド。ストレート、グッド」
ユーザーが困らないよう、曲がり角や段差、障害物を事前に知らせてくれる。
「コーナー、はいストレート」
盲導犬の役割をしっかりと果たすフジくん。国弘さんに「グッド!」とほめられるたび、うれしそうにしっぽを振る。

ユーザーにとって盲導犬は欠かせない存在だ。
しかし…

盲導犬ユーザー・国弘武さん
盲導犬ユーザー・国弘武さん

「私の元部下が『国弘さん、忘年会やろうよ』といろいろ店を探してくれたんですが、『盲導犬もいる』と言ったらダメと言われて7軒くらい断られたと言っていました。そんなもんですよ」
飲食店などから受け入れを拒否され、悩むユーザーも少なくないという。

2人に1人が“受け入れ拒否”を経験

その実態はどうなっているのか?
記者が無作為に店を選んで電話をかけてみた。
「盲導犬は…店内がそういう仕様になっていないので入ることはできないんです」
「盲導犬は入れないですか」
「はい」

2025年、全国盲導犬施設連合会が行った調査では48%のユーザーが盲導犬同伴で受け入れ拒否にあったと回答している。最も多いのはダントツで飲食店。そのほかタクシーや病院など様々な場所で受け入れ拒否の実態が明らかになった。

この現状について日本盲導犬協会広島事務所・普及推進担当の角谷南さんは「盲導犬という言葉は全国的に広まって多くの人が知っていると思いますが、盲導犬というものを正しく理解されていないがゆえに店の人も心配や不安があって断るケースが多いと感じています」と話す。

盲導犬のほか聴導犬・介助犬といった障がい者を支える犬のことを総称して「補助犬」と呼ぶ。ユーザーが施設や公共交通機関などを利用する際、補助犬の同伴を拒んではいけないという「身体障害者補助犬法」と「障害者差別解消法」の2つの法律が存在する。
さらに2024年4月に改正された「障害者差別解消法」は、行政機関に加えて民間の事業者も障がい者に対して筆談や読み上げなど合理的な配慮を行うことが義務付けられた。それでも入店を拒否をされたユーザーは自分で店に説明するなどして理解を得るしかない現実がある。
日本盲導犬協会の角谷さんは「必ず受け入れるという法律ももちろんご理解いただきたいのですが、目の前の盲導犬ユーザーとしっかりコミュニケーションをとってほしい」と呼びかけている。

「マナーも訓練され、断る理由がない」

一方で、盲導犬とそのユーザーの生活に寄り添う飲食店もある。
「おじゃまします」
「はい、どうぞ」
国弘さんが訪れたのは広島市西区にある洋食レストラン「み乃家」。盲導犬同伴での入店を容認している。
窓際のテーブル席へ案内され、フジくんもそのとなりに。
「シット、ダウン。グッド~」

店の人が料理を運んできた。
「はい、ここに置きますね。今日の日替わりランチは豚バラとソーセージの盛り合わせです」
「ありがとうございます」
目が見えない国弘さんはお皿に盛られた食べ物を取るのにひと苦労。それでもレストランでの食事は楽しい。

国弘さんが食べている間もフジくんは静かに落ち着いている。
「いいにおいがするはずなんですけどね。15分も20分もじーっと待っていますよ」

受け入れ拒否が少なくない現状を、国弘さんはどう感じているのか。
「受け入れてくれないところだったらそれはしょうがない。絶対にここじゃないといけないというのはないようにしています。いや、しました。私たちユーザー側も、盲導犬じゃけえといって大手を振って歩くのではなく『すみません、よろしいでしょうか』と言って入らんといけんと思います」

飲食店が盲導犬などの入店を断る理由の中には「衛生面が心配」という声があり、中には「保健所の指導で店内に入れない」と断る店もあるそう。しかし保健所の指導対象は「厨房」だけ。盲導犬を連れたユーザーが客席で食事を楽しむ分には問題ないとされている。

「み乃屋」の高谷良佑オーナーシェフは「盲目の人と盲導犬というのはふたつでひとつですので。しっかりマナーも訓練されていますし、本当に断る理由がないですよね。盲導犬の存在感、気配も消しているような感じで、いつもと変わらないサービスや店の雰囲気が保てるのでぜひ挑戦してみてほしいですね」と話す。
目を閉じて静かに待つフジくん。その姿は「法律が及ぼす力」以上のものを伝えてくれるようだ。

どうすれば盲導犬とユーザーが安心して暮らせる社会が実現できるのか?
お互いを正しく理解し合うことから始まるのかもしれない。

(テレビ新広島)

テレビ新広島
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