埼玉から長崎・東彼杵町に移住した元地域おこし協力隊の女性が「まちに恩返しをしたい」と、この春、食堂を開いた。地元の古民家を改修し、人がつながる日が当たるような温かい場したいと話す3児の母だ。
ランチは800円
東彼・東彼杵町の「hinata(ひなた)食堂」。長崎街道の宿場町として栄えた一角に、この春オープンした。

店主は斎藤節子さん。一人で店を切り盛りしているため、現時点ではランチメニューは1種類のみ。

この日のメインは「チキン南蛮」だ。キュウリをたっぷり使った自家製のタルタルソースが自慢で、大家からもらった野菜をふんだんに使った。斎藤さんは「地元の人たちが応援してくれているのがすごく伝わる」と話す。

店には地元の人たちがやってくる。客は「心から温まる感じ」「味噌汁にも具がたくさん入っていて、お米もおいしくて幸せ」「新しいつながりができたり、まさに町の食堂という感じで、とても嬉しい」と話す。

ランチは800円。斎藤さんは価格にこだわる。1000円札で支払って「おつり」がくる。「自分もランチをしたときにおつりがきたら嬉しい。その200円を握ってコーヒーを飲んでもらえたら」。今どき1000円以下のランチはめずらしくなっってきた。東彼杵町はお茶どころで一次産業が盛んな町。野菜などが安く手に入るので実現できると斎藤さんは話す。
地域おこし協力隊で東彼杵へ移住
斎藤さんは小学生と高校生の3人の子どもを育てるお母さん。以前は埼玉県に住んでいた。

当時から「自然豊かな場所で子育てしたい」と考えていたため、離婚を機に憧れを実現させた。東彼杵町で地域おこし協力隊に採用され、条件に合う家も見つかったことから、長男が受験生になる3年前に移住したのだ。斎藤さんは「都会すぎず田舎すぎず、贅沢な悩みだが、それがぴったり合致した」と振り返る。

地域おこし協力隊時代には、母親の視点を生かし、移住コーディネートや子育て環境についての情報発信などに取り組んだ。活動を通じて地域の人々と交流する中で、「気軽に立ち寄れる場所がほしい」という声を耳にした。
かつて飲食店で調理やホールの仕事を長年経験していた斎藤さん。その経験を生かし、恩返しのために食堂をオープンすることを決意した。

斎藤さんは「引っ越してきてからの地域の温かさ。みんながサポートしてくれたからこそ、家族もこの町に留まることができた。それへの恩返し」と語る。
築100年の畳工場をリフォーム つながりの場へ
食堂の場所に選んだのは、長年空き家となっていた築100年を超える畳工場だ。

改修は容易ではなかったが、地域の人々の協力を得て、空間デザイナーや大工などを紹介してもらうことができた。重視したのは、積み重ねてきた歴史の風合いを残すことだった。

斎藤さんは「壊すのは簡単だが、つくることはもう二度とできない。古いものは絶対に残したい」とこだわりを語る。古い階段やタンスを見たくて来る人もいて「残していてよかった」と話す。

ランチ営業を始めて約1カ月。地元の食材をふんだんに使った斎藤さんの料理は好評で、常連客も徐々に増えている。地域おこし協力隊時代にお世話になった人々も店に立ち寄っている。「子ども3人を連れてきて、ここまで形にするのはすごいパワー。苦労を口にせず、いつも明るくやっているのが尊敬できる」と語る。

交流を育む拠点として生まれ変わった古民家には、「東彼杵がこのまま、また盛り上がってもらわないといけない」と、地域からの期待の声も寄せられている。東彼杵町の担当者は、「何もなければ、何もないままだった。今後はこうした場所で移住者の案内や相談を受けてもらいたい」と、交流の場として、移住者同士のサポートにつながればと期待を寄せている。
日が当たる温かい場所になれば
東彼杵町はかつて捕鯨で栄えた町でもある。店先で焼かれているのは、町の魅力が詰まった「くじら焼」だ。

学校帰りの子どもたちにも人気の商品となっている。
地域の人々が気軽に集まれる場所を作りたかった斎藤さん。その思いを店名に込めて「hinata(ひなた)食堂」とした。

「地域の方でも観光客でも集まってもらい、温かく会話し、笑顔になれる場所になってほしい。日向、日が当たるような温かい場所になれば」と話す。

東彼杵に住んで3年。「第二のふるさと」と呼べるほど、人も風景も馴染んだ。好きな場所は大村湾が一望できるところだと話し、案内してくれた。

県外から移り住んだからこそ分かる地域の魅力を、より多くの人に伝えたいと斎藤さんは考えている。「また一からのスタートになるが、応援してくれる人が本当に多い。ここに私も住み続けたい。みんな、自分、町のためにも頑張っていきたい」と、笑顔で話す。

今後は、食堂で鯨を使った郷土料理など長崎、九州らしい食べ物も提供していきたいと考えている。また、2階も手を加え、コワーキングスペースとして活用の幅を広げていく予定だ。
(テレビ長崎)