確かに相続財産を分割する際、介護などの貢献や支援をした相続人には、「寄与分」として法定相続分以上の遺産をもらえることがある。また2019年からは、子の配偶者など本来は相続人ではない親族も寄与に応じた金銭の支払いを相続人に請求できるようになった(特別の寄与)。

「ただし、寄与分の額は、介護を担った人にとっては、“思ったよりも多く貰えない”ことのほうが多いです。調停などではある程度の目安はありますが、遺産分割の中で話し合いをするときのルールは特にありません。
介護を担った人と介護を担わず遠くから見ていた人では、介護に費やした時間や労力の評価に差が出てしまうのです。寄与分の額は、介護を担った人にとっては、自分のやってきた介護への評価ととらえますから、額が少ないと今までの自分の努力を否定されたみたいで、愕然としてしまう人は多いのです。
だからこそ、介護は誰が担当するか。相続のときには、介護を担当した人にどのくらい多く遺産を渡すのか、これらを親が元気なうちにきちんと話し合い、家族の合意を得ておくことが大事なのです」
“争族”の原因はお金より気持ち
「『うちは大した財産もないから相続でもめることはない』と思っているかもしれませんが、そんなことはありません」
遺産分割で揉めた場合、家庭裁判所による「調停」が行われる。遺産分割の調停が成立したケースの金額を見ると、全体の約34%が「1000万円以下」。「1000万円超から5000万円以下」で約44%となっている(令和5年司法統計年報 家事編)。この数字からみても、揉める・揉めないに金額の大小は関係なさそうだ。
「1000万円の遺産を3人で争った場合、弁護士を雇って成功報酬を払ったら、一人当たりの取り分は等分しても200万円程度。このくらいの金額でも争いになってしまうのは、“もらえる権利があるのなら、少しでも多く欲しい”という気持ちのうえに、“きょうだいの間で差があるのは不平等だ”という感情が元にあるからです」
その“平等”の感覚は、過去までさかのぼるという。

「“お姉ちゃんが昔から贔屓されてきた。進学も都会の大学に行かせてもらっていた” “妹だけ、海外への短期留学もさせてもらっている”“兄はマイホームを購入するとき頭金出してもらっているじゃない”など。さらに金銭的なものだけでなく“妹は要領よく家のことを何もしなくても可愛がられていた”“姉は、同じことをしてもすぐ親が褒めていた”など、きょうだい間の感情的なわだかまりが噴出するのも介護や相続のタイミングが多いんです」