備蓄米が店頭に並んでも高値が続くコメ。そこで政府が打ち出したのが「5キロ2000円台」を目指すという“格安備蓄米”だ。JAなどの卸業者を介さず小売へ直接販売することで安定供給を目指すというが、これに対しJA福井県はそもそも「JAが価格調整なんてできない」と主張。さらに「適正価格は3600円程度」とし、価格の下落で生産者に影響が出ることへの懸念を示した。
◆備蓄米「ほぼ当日に売り切れる」
福井市内のスーパー「ハーツ志比口店」を取材すると、福井県産ハナエチゼンの備蓄米が5キロあたり3000円台と、全国平均よりも2割ほど安く販売されていた。畑中洋一店長は「入荷は週1回している。大体1週間で20袋入荷し、ほぼ当日のうちに売り切れる」と話す。
売れ行きは好調な一方で、2024年夏に全国的に問題となった“令和のコメ騒動”のような事態は避けたいところだという。「去年みたいに、夏前にコメが売り場に全く無くなるという状況は防ぎたい。しっかりと売り場を維持しながら、組合員の期待に応えていきたい」。小売店が目指すのは、継続的で安定した供給だ。

◆農水相が打ち出した“格安備蓄米”
コメの価格高騰を受けて農水相に着任した小泉氏が打ち出したのが、備蓄米を5キロあたり2000円程度で店頭に並べるという方針。そのために変えたのが入札制度だ。
これまで2回放出された備蓄米は競争入札方式だったため、一部の業者しか購入できなかった。そこで今回は、政府が定めた条件を満たす大手スーパーなどに直接売る随意契約で安定供給を目指すというのだ。
対象は、2022年産や2021年産のコメが中心となる。これに対し国民からは「品質がどうでしょうね。今までと同じ品質でその値段だったらすごいと思う」「安い方が助かるので、やっぱりそちらの方を選んでしまうかもしれない」と歓迎する声がある一方で、「2000円はちょっと安すぎる。一時的な価格では続かない気がする。農家さんのことも考えないといけない」と生産者への影響を懸念する声も聞かれた。

◆JA福井県「生産者米価への影響が心配」
1回目と2回目の入札で備蓄米、合わせて約4200トンを入札したJA福井県。5月26日時点で約6割の2480トンが卸業者に販売されていて、これは全国に比べて早いスピードだという。
「いろいろと世間を騒がしている備蓄米ですが、しっかり生産者の価格を見ながら備蓄米を放出するようにしていただきたい」
会見でこう切り出したJA福井県五連の宮田幸一会長。政府が目指す5キロ2000円台での販売について「「高く買い付けた在庫もあるので…それが生産者米価にどう関わってくるのか、大変危惧される。政府の方針として消費者米価を下げるのはいいと思うが、その影響が生産者米価にどう絡むのか心配」とした。

◆「JAは価格調整なんでできない」
コメの適正価格については「5キロで3500円~3600円が適正価格じゃないか」とする。「これまでコメ代はすごく安かった。それが一気に高くなった。徐々に上がればこんなに大騒ぎはしなかったと思うが…」
さらに「今までの農業政策、生産調整にも問題はあったと思う。農水大臣が2000円台というと、生産者米価も元に戻るんじゃないかと不安になってしまう」と続ける。

小泉農水相が打ち出した備蓄米の随意契約では、政府から直接、小売業者に売り渡されるため、JAのような集荷業者は“飛ばされた”という側面もあるのでは、という問いに対しては「飛ばされたと思う」と率直に語った。
そのうえで「コメの集荷でいうと、JAは全国で30%程度。JAを通すとコメの価格が上がるなどという話があるが、JAで価格調整なんてできない」と昨今の農協への批判を一蹴。「JAは集荷業者。農家のコメを集荷し、卸に販売するのが主な業務。卸の方で価格については考えているのではないか」

◆備蓄米“本来の目的”を懸念
「備蓄米の定義は、何かあった時のためのものではないのか」
コメの安定した需給と価格の低下という点で期待されている備蓄米だが、JA福井県中央会の永井候専務理事は、その本来の目的について言及した。「これだけ放出すると、去年夏のように南海トラフが危ないという話になったらどうするのか。本当に起きたらどうするのか。(備蓄米は)もうない、となる」
“格安備蓄米”について、JA福井県は消費者目線では一定の理解は示しつつも、守るべき生産者への影響や、緊急時への備えについて不安を漏らした。

いずれにせよ、今回の“格安備蓄米”の登場により、店頭には3つの価格帯のコメが並ぶことになる。消費者は一体、どのコメを選ぶのだろうか。
