「緑黄色野菜」と言われたとき、オレンジ色のニンジンが入っていることに疑問を持ったことはあるだろうか。

普段あまり接することがない「科学論文」。

脳科学者の池谷裕二さんは、年間5万本の論文に接し、目を通すことが日課だという。

魅力あふれる論文の中から厳選し、独自の解説をする著書『すごい科学論文』(新潮新書)から、「ニンジンはなぜ『緑黄色』なのか」について一部抜粋・再編集して紹介する。

かつてオレンジ色ではなかった

野菜が不足していると感じたとき、私はよく野菜ジュースで補給します。パッケージにたくさんの緑黄色野菜が描かれていることも手伝い、なんとなくバランスよく野菜を摂取した気分になるものです。

そんなある日、パッケージを眺めていたら、ふと疑問が湧いてきました。どのブランドの緑黄色野菜ジュースにも必ずニンジンが使われているのです。ニンジンは表皮も内部も鮮やかなオレンジ色。緑色でも黄色でもないのに、なぜ「緑黄色」野菜なのでしょう。

かつてのニンジンはオレンジ色ではなかった(画像:イメージ)
かつてのニンジンはオレンジ色ではなかった(画像:イメージ)
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ノースカロライナ州立大学のロリッツォ博士らが2023年9月、「ネイチャー植物」誌に発表した論文によれば、人類がニンジンを栽培するようになった約1200年前、ニンジンはオレンジ色ではなかったそうです(※)。

博士らは古今東西のニンジン全630種のゲノムを解析しました。うち野生種はわずか15パーセントです。

それほど多種多様なニンジンが品種改良されて広まっていることにまずもって驚きますが、こうした大規模なゲノム調査を行うことで、人類が何を重視してニンジンを改良してきたのかもわかります。

オレンジ色の正体は

改良点の1つ目は「色」です。ニンジンは9~10世紀ごろに中央アジア地域で栽培が始まりました。

その後、西ヨーロッパへと広がり、そこで初めてオレンジ色が選ばれました。それ以前のニンジンは黄色(もしくは紫色)だったようです。