「今日は私から時効の直前ということもあり、長官銃撃事件についての捜査方針を申し上げておきます。これは言わずもがな犯人検挙を目指して全力を尽くしていきます。それを最後の1日、1秒までやり遂げるつもりです。
途中で諦めることはあり得ません。ゆるぎない信念を持って全力で尽くすということです」
「ところが、そうは言っても3月30日は必ず来ます。力及ばず、力至らなかった場合にどうするかという問題もあるわけです。しかしこのことについて語るのはまだ早いと思います」

「捜査の目標は犯人を裁判にかけ処罰してもらうこと。公判で真相を明らかにすること。その過程で警視庁の捜査を明らかにすることです。至らない場合というのは、これらのことが起きないということになりますが、処罰されなくても捜査結果を何らかの形で国民に説明したいと考えています。どういう形で出来るかは思案中です。
そういうことを考えているということを申し上げておきます。
しかしこの場合はあくまでプランB。最初の方針であるプランAの下、懸命の努力を続けていきますので、宜しくお願いします」

当時、公安部担当記者が気にしていたのは、時効を迎えた際に「敗軍の将、兵を語らず」で終わってしまうことだった。
警視庁が15年の歳月と48万人の捜査員を投入して行った捜査について、何らかの説明がなされるべきだと再三にわたって警視庁側に要請してきた。公安部長のこの日の方針表明は、時効を迎えた場合の対応について予告するアナウンスだったのである。
栢木の焦り
3月13日、夜討ち取材で公舎前で待っていた記者に、帰ってきた栢木公安一課長が珍しくイライラをぶちまけた。
栢木:「Xへの聴取はもう打ち切る!」
記者:「えー!どうしてですか?まだ半月以上残っていますよ」
栢木:「Xにヤメ検(※検察OB)の弁護士がついて、この弁護士にXが『自分は起訴されるんですか?』と聞いたそうだ。逮捕されるのか?ではなく起訴されるのか?と聞いているのは、自分はこのままなら罪に問われないと知っていて確認したんだろう。もうこの状態になったら見込みはない!あいつは蜘蛛の巣をいくつも張って、捜査員の目を封じた様なもんだ」
記者:「もう手詰まりということですか?」
栢木:「今試みていることがある」
記者:「科学捜査の何かですか?」
栢木:「違う!麻原に対する任意聴取だ!」
記者:「他の関係者への聴取はどうなっていますか?」
栢木:「芳しくない。例のウォン硬貨のDNAに関連した来島(仮名・教団信者 *第43話参照)は『自分は知りません』と完全否定。あいつは警戒しているのか突然引っ越しやがった!」

栢木のイライラは特捜本部そのものの焦燥感と記者は理解した。
「敗軍の将」国松元長官インタビュー
3月19日、筆者は先輩記者と一緒に千代田区内の貸会議室で、ある人物の到着を待っていた。暫くして待ち人がやってきた。
「どうも宜しくお願いします!」力強く屈託のない笑顔で現れたのは15年前、奇跡の生還を果たした国松元警察庁長官その人である。

「何から話せばいいのかな」――事件のご記憶からお願いいたします。