先週は、世界の金融市場が衝撃的な揺れ動きを見せた。日経平均株価は、7日に2600円を超えて下落し歴代3位の値下がり幅を記録したあと乱高下し、ダウ平均も10日に一時2100ドル余り値下がりするなど、大幅な下落と急上昇を繰り返し、不安定な値動きが続いた。
市場を驚かせた「相互関税一時停止」
トランプ政権が高関税への動きを強め、アメリカが景気後退に陥ることへの警戒感が急速に広がるなか、ドル建て資産から全面的に資金が流出して、「アメリカ売り」が一気に強まる1週間となった。米国株、米ドル、米国債がトリプル安となる異常事態が続き、円買いの動きが急加速した。
大きく動揺する市場を驚かせたのは、9日のトランプ政権の「相互関税一時停止」の発表だった。相互関税の積み増し分の発動から13時間あまりで、アメリカに交渉を持ちかけた国や地域を対象に90日間の停止期間を設けると表明したのだ。

この日のダウ平均は2900ドルを超える急反発を見せ、1日の上げ幅としては過去最大を記録し、翌10日の日経平均株価も2800円を超えて値上がりし、過去2番目の上昇を見せた。
米国債リスクが“半日での再考”迫る
トランプ政権の突然の翻意は、米国債の急落が引き金になったとの見方が強い。

米国債は、アメリカ政府が発行する債券で、“安全資産”として世界で最も流動性が高い金融商品の一つと位置づけられ、その利回りは、国際金融市場での投資の物差しとなっている。
現金確保の売りが、株式などのリスク資産の受け皿となっていた米国債にまで広がるなか、アメリカ東部時間9日午前0時1分に相互関税が全面適用される直前から、米国債が投げ売りされる様相が強まり、利回りは急騰、長期金利の指標となる10年債利回りは一時4.5%を超え、前週末に比べた上昇幅が0.6%にも達した。
海外勢で、日本に次いで、米国債を世界で2番目に保有しているのは中国だ。米中両国による関税引き上げ競争が激しくなるなか、中国が米国債売りに出ることが可能ではとの不安が広がり、実際に中国が売っているのではとの憶測も飛び交った。

米国債の急落には、さらにもうひとつ背景があるとの観測が出ている。ホワイトハウスが公表したスティーブン・ミランCEA(大統領経済諮問委員会)委員長の7日の講演内容だ。ミラン氏は、トランプ政権の政策決定に大きな影響を与えているとされているが、各国による5つの負担分担案を掲げ、5番目に 「アメリカ財務省に小切手を送付するなら、グローバルな公共財の資金調達が可能になる」とする考えを示した。この文言が、米国債などへの課税につながるとの連想を抱かせ、米国債売りが加速したとの見方がある。

米国債価格が下がり金利が上昇すれば、消費の減退につながり、企業の設備投資などにも悪影響が出て、アメリカ景気は本格的に冷え込むリスクに直面するほか、大量の債券を保有している銀行で含み損が膨らめば、大きな信用リスクにさらされることになる。今回の事態に、ヘッジファンドの創業者で債券市場を知り尽くしていると評されるベッセント財務長官が危機感を抱き、「相互関税一部停止」につながったとされている。
2大経済大国での景気冷え込み懸念
相互関税の上乗せ分が一時停止される一方で、米中の関税引き上げをめぐる応酬は激しさを増している。中国政府は、アメリカのトランプ政権によるあわせて145%の追加関税に対抗し、12日からアメリカからの輸入品に合計125%の追加関税を発動した。
輸入コストが膨らむなか、アメリカで物価高と景気後退がともに到来する「スタグフレーション」が現実化し、中国が内需低迷に陥れば、世界が同時に景気停滞局面入りするリスクが増大することになる。
景気悪化への懸念は高まり、今週も「アメリカ売り」の圧力は続くとの見方は強い。金融市場は、トランプ大統領の発言や米中対立の行方をめぐって、不安定な展開が続く。
(フジテレビ解説副委員長 智田裕一)