誰もが必ず通る「教科書」。被爆80年の2025年、中学の国語の教科書に変化があった。実際に体験を語れる被爆者が少なくなる中、「次世代への継承」をテーマにした作品が教材に選ばれている。

被爆体験だけでなく継承活動も掲載

広島・廿日市市の七尾中学校。4月7日、新年度の授業開始に向けて、教師たちが新しい教科書の準備に追われていた。4年ぶりに全教科、新しい教科書に変わったという。

廿日市市立七尾中学校で新年度の教科書を準備する教師
廿日市市立七尾中学校で新年度の教科書を準備する教師
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中学の教科書は改訂が行われ、紙とデジタルの融合が進んでいる。廿日市市立の中学校では東京書籍の教科書を中心に採択してきた。

注目は「国語」の教科書。戦争や平和体験について実に12ページが使われている。今回の改訂で東京書籍は、広島市立基町高校の生徒による被爆の継承の取り組みや、被爆者・小倉桂子さんの被爆体験と継承活動を新たに掲載した。これは、2019年に出版された『平和のバトン』(弓狩匡純著・くもん出版)を教科書用に大幅に加筆・修正したものだ。

「一番わかりやすいのは教科書」

『平和のバトン』は、2007年度から続けられている基町高校の「原爆の絵」を通した生徒と被爆者の継承活動を取り上げた作品。

小倉桂子さんの被爆体験をもとに高校生が描いた「黒い雨」
小倉桂子さんの被爆体験をもとに高校生が描いた「黒い雨」

教科書で若い世代の継承活動を伝えるとともに、これまでに完成した200点を超える原爆の絵の中から、被爆者・小倉桂子さん(87)の「黒い雨」の体験を描いた絵を掲載した。8歳で被爆した小倉さんは英語で被爆証言を続け、80代でアメリカへ証言をしに行くなど今も平和の大切さを伝えている。

今回、東京書籍の教科書では初めて「継承」をテーマに掲げた。東京書籍・国語編集部の岡尚人さんは「80年という長い年月がたっていますので、後世に伝え続けることで二度と過ちを繰り返さない、平和の思いを絶やさないといった観点でより新しい教材がないか検討しました。小倉さんは当時の状況をただ伝えるだけじゃなく、今につなげている。特に中学生に伝える教材として非常に重要だと考えました」と話す。

教科書への掲載を知った小倉さんは「びっくりしました。夢にも思わなかったです。世界各国の若い方たち、日本の小学生にもお話をさせていただきますが、彼らが一番わかりやすいのは教科書。一番身近ですしね。戦争、核兵器というものをさらに深く自分たちで考えて理解してほしい。そして自分がやるべきことを見つけてほしい」とメッセージを寄せた。

全国約10%の中学1年生が使用

七尾中学校では授業開始を前に教師たちの教材研究が始まっていた。

国語教諭の平田恵子さんは「これまでの教材は、被爆体験を読み取って苦しみや痛みを表現するのにとどまっていました。新しい教材はそれを受けて自分たちがどう未来につないでいくかがテーマになっています。指導者の私も、どう受け止めてつないでいくかを考えないといけない」と思案している。

岡本浩子教務主任は「これが全国版の教科書であるというのが大きい。原爆が投下された日を知らない中学生も多くいると聞くので、これを機会に、どういうことがあったのか、平和に向けて私たち次世代が何をすべきかを学んでくれたらいい」と新たな教科書に期待を込めた。

この教科書は全国の約10%の中学1年生が使用する予定で、広島では廿日市市、東広島市、三次市など8地区が採択。被爆80年の節目の年に、教育現場も継承の新たな形を模索している。

(テレビ新広島)

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