政治的な文脈で混同される2つの思想
保守思想と右翼思想は、特に政治的な文脈で混同されることが多いです。
その理由として、両者が伝統や愛国心を重視する点で重なる部分があるからでしょう。しかし、保守思想はその伝統を絶対視して他人に強要したり、そういった伝統を持たない外国人を差別したりすることはありません。

また、歴史的に、保守自由主義が反革命的な文脈で発展したことが右翼的傾向と結び付けられる場合もあります。
しかし、これも革命を批判する人々を右翼、反動勢力、反革命勢力、ファシスト、レイシストなどと決め付ける左派および共産主義者による政治的なレッテルに過ぎません。
最近、リベラル(本来の意味は自由主義者)を自称する日本の左翼勢力の一部に、自分たちを批判する人を片っ端から「ネトウヨ」認定する人がいますが、これもまったく同じです。
保守思想の核心とは?
歴史家の故伊藤隆氏(東京大学名誉教授)は日本近現代史研究の第一人者であり、現代における保守思想について数多く言及したことでも知られています。
伊藤氏は保守思想を「歴史的文脈と日本固有の伝統を重視しつつ普遍的な保守の原理を日本の現実に即して解釈する立場」と位置付けています。
その際に、最も重視されるのは歴史的連続性です。保守思想の核心とは「歴史的連続性の尊重」にあり、特に、長い歴史の中で培われた文化、慣習、制度を重んじることが重要だと考えます。
昔の人が悩みに悩み抜いて決めたことにはそれなりの意味がある、その意味をしっかりと汲み取ることが大切だということです。
日本においては神話の時代から続く万世一系の天皇と民の関係、神道などに代表される独特の死生観などの存在が、歴史を通じた国民統合の象徴として重要視されます。
保守思想においては、このような伝統が単なる過去の遺物としてではなく、現代社会の安定の基盤ととらえる点がとても重要なのです。

上念司
経済評論家。リフレ派の論客として、『経済で読み解く日本史 全6巻』(飛鳥新社)、『財務省と大新聞が隠す本当は世界一の日本経済』(講談社+α新書) など著書多数。テレビ、ラジオなどで活躍中。