2025年度予算案は4日午後、自民・公明両党、日本維新の会などの賛成で衆院を通過し、参院に送られた。

衆院では自民・公明両党だけでは過半数に達しないため、野党である維新と高校授業料の無償化などをめぐって修正合意し可決にこぎ着けた。
さらに、国民民主党が求めてきた「年収103万円の壁」の引き上げによる所得税の減収や、立憲民主党の主張する基金の減額を反映するなど、野党側に一定の譲歩をする形で予算案が修正された。
当初予算案が国会で修正されるのは1996年以来29年ぶりのことで、野党にとって本来成果と言えるものなのだが、その過程は野党の深刻なバラバラ感を改めて浮き彫りにするものとなった。
国民民主・玉木代表が復帰 参院選で「21議席目指す」と表明
「多くの人にご迷惑とご心配をかけた。我が党所属の国会議員、自治体議員、仲間の皆さん、党員サポーター、支援いただいた皆さん、そして私の家族、相手方関係者に改めてお詫び申し上げたい」

予算案の衆院通過の数時間前、役職停止3カ月の処分期間を終えた国民民主党の玉木代表は復帰後初めての記者会見に臨み、冒頭にこう陳謝した。
そして、夏の参院選について、「手取りを増やす夏にしていきたい」として、非改選の議席と合わせて、予算を伴う法案が提出できる21議席の確保を目指す意向を表明した。
一方で、「103万円の壁」の178万円への引き上げが実現に至らなかったことを受け、記者から維新など他党の動きが実現を阻害したと考えるかと問われると、こう答えたのである。
国民民主・玉木代表:
阻害したというより力を貸してほしかった。我々の力だけではまだまだ自民党や公明党を動かす力はない。少なくとも今、我々より維新さんの方が数は多い。
与党と修正協議を進めた維新と国民民主 激しいさや当て
2024年10月の衆院選での躍進を受け、「103万円の壁」の引き上げを掲げた国民民主は、与党との協議を先行。

しかし、12月には178万円への引き上げを求める国民民主に対し、与党が123万円を譲らず協議は決裂。その後、約2カ月間にわたって協議は途絶えた。

こうした中、維新は12月1日、臨時党大会で吉村新代表を選出。石破首相と親しい前原共同代表ら新執行部のもとで、教育無償化と社会保険料引き下げについて与党との協議を重ねて距離を縮めてきた。
こうした状況について、維新の幹部は「自民党は着地点を示さない国民民主を信用していない。協議はなかなか進展しないだろう」との見方を示し、国民民主の幹部も「自民党はうちと維新をてんびんにかけてコストが安い方を選ぼうとしている」と警戒感を示していた。

維新と国民民主による競争とも言える状況で、両党のさや当ては激しさを増していった。
与党と維新が歩み寄る一方、協議が難航していた2月19日、国民民主の榛葉幹事長は記者会見で、維新が中途半端な案で自民党と合意して「103万円の壁」の引き上げが骨抜きになるなら維新にも責任があるとして、次のように維新執行部を強くけん制した。

国民民主・榛葉幹事長:
こんな中途半端な案で維新さんが自民党と握るようなことがあれば、手取りを増やして税金を国民の元に返していく、103万円の壁を178万に近づけて上げていく、そしてガソリン減税をする、これを骨抜きにして邪魔をしたのは維新さんもその責任があるということになる。

さらに、維新の前原共同代表に対し、「そもそも玉木と私が自民党に近いと言って党を出られた先輩だから、よもやそう簡単に自民党に丸め込まれるようなことはないと思うが」と皮肉を込めて語った。
これに対し、その夜、維新の青柳政調会長はSNSでの投稿で、国民民主に対して共闘を呼びかけた。

維新・青柳政調会長SNSより:
維新は社会保険料を下げて手取りを上げる。国民民主は税額控除を上げて手取りを上げる。両方やったら国民にとって一番良いのではないか。以前からずっと言い続けてきた通り、お互いに実現を目指す政策について一緒になって政府与党に求めようという申し出があれば、いつでもお受けする。
前原共同代表も翌20日の会見で、「私は昭和の人間なので、記者会見とか、Xでの発信ではなく、面談を申し入れていただいたら喜んでお会いする。共闘も確認できるのではないか」と返した。
しかし、その後も両党の幹部による応酬は続いた。
国民民主・玉木代表SNSより:
結局、『医療費4兆円削減』の根拠を交渉相手の与党にすら示せず合意したのか。これで本当に社会保険料の年6万円もの引き下げができるのか。甚だ疑問だ。維新の看板政策だった後期高齢者医療制度の窓口負担の原則3割の記述もなし。こんな内容で予算に賛成していいのか。
2月21日深夜、玉木氏はSNSでの投稿で、維新が与党と取りまとめた合意文書案について厳しく批判。これに維新の青柳氏も黙っておらず、役職停止中の玉木氏をチクリと刺した。
維新・青柳政調会長SNSより:
御党と自公との交渉がうまくいかないのは、維新のせいではない。むしろ、この最も重要な局面で、御党の最強戦力である玉木さんご自身が役職を離れられていることが最大の原因なのではないか。
その上で、「維新としては何度も国民民主に共闘を呼びかけたが、振り向いていただけなかったので、単独でやらせていただいた次第だ。『お互いがんばりましょう』とおっしゃった以上、お互い恨みっこなしだ」とつづったのである。
国民民主に共闘を呼びかけた維新 前原氏「二者択一ではない」
維新は元々、国民民主に共闘を呼びかけていた。2024年12月18日夜、維新の前原共同代表は、BSフジの「プライムニュース」に出演。番組の中で、党として求める教育無償化の実現に向けて、「103万円の壁」の引き上げを求める国民民主に対し、共闘を呼びかける可能性に言及した。

維新・前原共同代表:
(自民党が)国民民主とうちをてんびんにかけるというのは一つの考え方かもしれないが、我々が(国民民主に)『年収の壁と教育無償化を一緒にやろうよ』と言ったら、違う次元になる。
そして、前原氏は、「我々も年収の壁の引き上げは大賛成だ」とした上で、「我々(の教育無償化)を取って年収の壁を頓挫させるのだったら、我々は国民民主と共闘すべきだ」との考えを示した。
維新の関係者は前原氏の提案の真意について、「103万円の壁の引き上げがうまくいかなかった時に維新のせいにされるのは困る。リスクマネジメントの観点から共闘を呼びかけた」との見方を示す。その後も前原氏の国民民主への配慮は続いた。

2月13日、FNNのカメラは国会近くで、自民党の森山幹事長と水面下での会談を終えた前原氏らの姿をとらえた。その3日後の16日、前原氏はフジテレビの「日曜報道 THE PRIME」に出演し、森山氏に対して、国民民主との協議も進めてほしいと呼びかけたことを明らかにした。

前原氏によると、この時の森山氏との会談では、「(協議の)日程感をどういう形で考えているか」と質すと共に、「国民民主との協議も進めてほしい。しっかり話をして、まとめてもらうことを期待している」と伝えたという。
番組の中で、前原氏は、「年収の壁」について「国民の関心も高いし、理屈も納得できるものもある」と指摘し、高校無償化と「二者択一ではない」との考えを強調した。
こうした維新の動きがありながら国民民主が維新の呼びかけに当時応じなかった理由について、玉木氏は先述の復帰会見の中で、年収の壁について国民民主が主張する178万円を目指して2025年から引き上げることなどを幹事長間で合意した自民・公明両党との協議を優先させたと説明し、次のように述べた。
国民民主・玉木代表:
3党で合意した時はまだ維新さんの体制が決まった直後だったので、我々は公党間の約束をした以上はそこを最優先に進めていくのはまず第一だ。
ガソリン暫定税率で改めて鮮明に 維新と国民民主の根深い対立
さらに今回、維新と国民民主の根深い対立を鮮明にしたのはガソリン税の暫定税率をめぐる対応だった。
予算案が衆院を通過する前日、立憲・国民民主両党はガソリン税の暫定税率を4月に廃止する法案を国会に共同提出した。当初、立憲の幹部は「暫定税率の廃止は維新を含む3党とも主張している。3党での共同提出を検討している。維新には党内調整を進めてもらっている」と話していた。

しかしその後、維新は、廃止実施の時期を理由にこの法案に反対する方針を決め、立憲・国民民主案より1年遅い2026年4月の廃止を目指す法案を単独で提出した。
維新の青柳氏は暫定税率を廃止すると地方の税収が約5千億円減るため、「今から地方自治体に調整しろとは言えない。できないことが分かっていて出すのは、野党のパフォーマンスでしかない」と批判。
これに対し、立憲・国民民主両党は反発し、幹部がそれぞれ反論した。

立憲・小川幹事長:
それは当たらない。衆院を通過させて、参院で真剣に与党側にも考えてもらいたいという真摯な取り組みの一環だった。
立憲の小川幹事長は4日の記者会見でこう強調した上で、「私はこの呼びかけをする段階からなかなか維新さんは応じ難いのではないかと予測していた」と明かした。その理由について、予算案をめぐる維新と自民・公明両党との修正合意に言及した上で、「歳出合意したのに歳入で異なる判断をすることは矛盾を抱えることになるので難しいだろうと思っていた」と説明した。
そして、「歳出に関して合意をした立場上、歳入に関しても異なる判断はできないということを率直に言うのが本来あるべきコメントではなかったか」と青柳氏の発言への違和感を強調した。
さらに、国民民主の榛葉幹事長も7日の記者会見で、当初は維新も共同提出に賛成だったと主張した。

国民民主・榛葉幹事長:
そもそも維新の政調会長もこの議員立法に賛成だというから、立憲、国民が提出しようという話だった。賛成で維新の中に持って行ったら、よく事の分かっているベテラン議員さんたちがそれは筋が通らないのではないかと。ガソリン減税や103万円の壁をやらない予算に維新が賛成しておいて、後からまた別にガソリン減税の議員立法に賛成をするというのは自民党、公明党を後ろから鉄砲を撃つことではないかと、それで慌てて反対に回った。
そして、榛葉氏は「後から立憲民主党さんとうちがパフォーマンスだと言ったって、言っているご自身がパフォーマンスだ」と不快感を示した。
維新と国民民主の確執、立憲の指導力 参院選に向けた課題
本来、こうした野党をまとめる立場である野党第一党の立憲民主党もその指導力を発揮したとは必ずしも言えない。
立憲は2月14日、衆院予算委員会の「省庁別審査」での議論も踏まえ、予備費や積み過ぎている基金などを減額し、約3兆8千億円の財源を確保し、物価高対策などに充てるとした予算案の修正案を発表した。

その3日後の17日、野田代表は自らのホームページにコメントを掲載。予算案について、「年度内成立による切れ目ない予算執行は、国民生活を守るために不可欠だ」と指摘した上で、「衆院通過を遅らせ年度内成立を阻もうとは全く思っていない」との考えを示した。
そして、「その代わり、物価高の中で国民の負担を減らし収入を増やすため、政府提出の当初予算の修正を求める」と訴えた。
立憲はその後も与党側に修正要求を受け入れるよう迫ったが、維新との協議を進め、合意を見込めるようになった与党から色よい返事は得られなかった。
党内からは「財源を示した修正案は政権交代を目指す野党第一党としての矜持であり、その責任を果たすことができた」と評価する声の一方、「与党との修正協議では相手にされず、蚊帳の外になっている」との厳しい意見も上がった。
そして、1週間後の24日、野田氏は立憲の定期党大会で挨拶に立ち、「高額療養費制度」の負担上限額を引き上げる政府の方針を批判し、こう宣言した。
「命に関わることは我々も命がけで実現しなければいけない。いつまでも決断しないのであれば、私は一度、武装解除すると言ったが戦闘モードに入る」
そして、28日の衆院予算委員会では、野田氏が自ら質問に立ち、石破首相に1年間延期するよう求めた。これに対し、石破首相は8月からの引き上げは予定通り行い、2026年度以降の制度のあり方は改めて検討する考えを示した。
立憲の幹部は「必ずしも満足のいく内容ではなかった。しかし野党がまとまっていない状況で、これ以上の回答を引き出すことは難しかったのではないか」と苦しい胸の内を漏らした。
予算案の衆院通過を受けた記者団の取材に対し、野田氏は次のように強調し、高額療養費制度をめぐる負担上限額の引き上げ凍結を引き続き訴えていく考えを示した。
立憲・野田代表:
予算の修正をもっと勝ち取りたかったという意味では悔しさは残っている。ただ、まだ勝負は終わってないので、委員会での法案審議の中でも戦っていきたい。
それから3日後の7日、参院での審議が続く中、世論や与党内で高まる引き上げ反対論を受け、石破首相も方針転換に追い込まれた。引き上げに反対するがんや難病の患者の団体と面会した後、8月からの引き上げを見送る方針を表明したのである。
「患者の皆様にご不安を与えたまま見直しを実施することは望ましいことではない」
石破首相は記者団に対し、「検討プロセスに丁寧さを欠いたとの指摘を政府として重く受け止めねばならない」とした上で、「秋までに改めて方針を検討し、決定する」との考えを示した。
これに関し、引き上げ凍結を訴えていた立憲の幹部からは、「うちが粘り強く主張し続けたことで、与党もこのままでは参院選を戦えないと観念したのではないか」といった見方や、「結果的に主張していた引き上げ凍結を実現できた。クリーンヒットではないがポテンヒットは打てた」と安堵する声が上がった。
筆者は先述の党大会での野田氏の訴えが今でも印象に残っている。
立憲・野田代表:
自民党の思惑は3党の巴戦だ。巴戦に我々は参加しているのではない。野党をまとめて様々な政策を実現していくのが我々の役割ではないか。
しかし、実際には、野田氏が懸念した通り、巴戦の構図となったことは間違いない。衆院では少数与党の中、事実上の政権選択選挙になると指摘されている参院選まで4カ月あまり。維新と国民民主の深い確執、そして野党をまとめる立場である立憲の指導力、それぞれの野党に突きつけられた課題は大きい。
(フジテレビ政治部 野党担当キャップ 木村大久)