全国的に流行している「ポケットモンスター」のスマホゲーム、通称「ポケポケ」。ポケモンのカードを気軽にコレクションできるゲームとして、絶大な人気を集めている。実は今、福岡・筑豊地方の或る町で、そのポケポケを凌ぐ勢いで大流行しているユニークなカードゲームがある。その秘密とは?
なぜ?「おじさんトレカ」が大流行
福岡・香春町。「香春岳は異様な山である」で始まる五木寛之氏の小説『青春の門』にも登場する香春町は、かつて炭鉱の町でもあったが、現在は、長閑な田園が一帯に広がっている。そんな町の子供たちが、熱狂している“町オリジナル”のカード、それが「おじさんトレカ」なのだ。
トレカとは、トレーディングカードの略称で、人気キャラクターなどが描かれたカードのこと。

希少性の高い現物のレアカードは、100万円単位で取引されることもあり、日本国内のトレカ市場の規模は、なんと2700億円にものぼるとされている。

しかし、香春町のおじさんトレカに描かれているのは、人気キャラクターでも有名人でもない一般の町民。子供たちからすれば、町の“知らないおじさん”なのだ。

一体、どこに子供たちは夢中になっているのか?放課後、おじさんトレカで遊んでいる男子中学生に魅力を聞くと、「見た目だけだったら『何このカード?』って思うけど、やってみたら結構はまるんです」とのこと。中には、おじさんトレカを70枚以上も持っているという女子中学生もいるという。

狙いは地域コミュニティ活性化
そば打ち名人の「SOBA師匠」や元消防団長で地域の安心・安全を守り続けている「ファイヤーウォール」など、おじさんトレカは、合わせて約40種類。町独自のトレカの名前は、「サイdo男カード」。読み方は「サイドメンカード」。

実在する人物の得意分野を紹介し、人となりも分かる珍しいトレカだ。カードは、町の公共施設内の「駄菓子屋」で販売されていて、値段は3枚入りで100円。6枚入りで500円(キラカード入り)となっている。

このおじさんトレカを考案したのは、採銅所地域コミュニティ協議会の宮原絵里さん(45)。「元々、子供たちとの関係が地域の中で希薄だったので、こんな素晴らしい経験を持った人達が町にいるのに、誰も知らないのが勿体ない」と思い、子供達にも知ってもらいたいとカードゲームにして発売したところ、まさかの“大当たり”となったという。

協議会のメンバーが、業務の合間を縫って1枚1枚、手作りで作っているおじさんトレカ。1日に50枚ほど手掛けるメンバーの西宇洋恵さん(36)は、「最近は、カードが売れ過ぎて毎日作っています」とあまりの忙しさに嬉しい悲鳴をあげていた。

子供たちの間で特に人気なのカードは、「オールラウンダー」。帽子を被った優しそうなメガネのおじさんがニッコリ微笑んでいる。能力は天才肌の人気カードだ。

正体は、町内に住む藤井大充さん(68)。元刑務官の藤井さんは、受刑者と40年間向き合い、8年前に退職。

退職後は、車を持たない人達を乗せて病院やスーパーへの送迎を行うなど、ボランティアであらゆるお助け活動をしていることから「オールラウンダー」の愛称を持っているのだ。

リアルな世界にいる“ヒーロー”
最初、自分がカードになった時には「まさか私が?」と驚いた藤井さん。見知らぬ女の子に「サインしてほしい」と自分のカードを出された時には、更にびっくりしたと話す。藤井さんにサインをもらった女の子は、「嬉しかった」と当時のことを鮮明に覚えていた。

カードになった人物が、自分の暮らすリアルな世界でも会えるのが、楽しいと話す子供達。今やトレカに登場するおじさん達は、地域の子供達にとってヒーロ的存在なのだ。実際に道で会ったりすると「挨拶して、ちょっと話します」という中学生や「おじさんに会ったらバナナもらっています」とすっかり仲良しになっている小学生もいるほどだ。

「おじさんトレカ」を考案した宮原さんは、子供達が、毎月のコミュニティセンターの掃除にも、「『カードのおじさんに会える』という理由で、参加してくれると、地域のコミュ二ティに確実にプラスの効果をもたらしていると話す。

何とも不思議なおじさんトレカ。ヒーローは意外とすぐそこにいるのかも。
(テレビ西日本)