ロングヒット中の映画『なぜ君は総理大臣になれないのか』。

この映画では、主人公である衆議院議員の小川淳也氏(49)が、自身の「真っ当さ」故に党内で出世できない中、家族に支えられ奮闘している姿が、多くの観客の心を捉えている。

項垂れる小川議員(映画『なぜ君は総理大臣になれないのか』より)
項垂れる小川議員(映画『なぜ君は総理大臣になれないのか』より)
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9月10日、立憲民主党と国民民主党などが合流した新党の代表選が行われ、立憲民主党の枝野幸男代表が初代代表に選出された。衆参あわせて149人が参加する新党の名は、「立憲民主党」に決定。

小川議員はこの新党に何を思い、どう行動するのか?話を聞いた。

(関連記事:「真っ当な政治家」が、なぜ不甲斐ない野党でさえ出世できないのか。 映画『なぜ君は総理大臣になれないのか』の小川議員と大島監督に聞く

「立憲民主党」への投票は枝野氏への“恩返し”

――昨日の代表選で枝野氏は107票でしたが、党名は「立憲民主党」が94票でした。枝野支持者のうち13人が「民主党」を選んだわけですが、小川さんは「立憲民主党」に投票したのですね?

小川議員:
正直に言って「民主党」という名前には、自分を育ててもらった政党だし、郷愁がありました。しかし、率直に申し上げて、枝野さんが「どうしても立憲民主党にしたい」と言っていたことに応えるという気持ちが、ギリギリ優先しました。

私は前回の衆院選で、希望の党で公認を受けたものの選挙区で敗れて。その後半年間、1人無所属だったので何も出来なかったのですが、立憲の会派に入り「統計」質疑などの機会をもらいました。こういう歴史を振り返った時に、やはり恩義があると思ったのです。

代表選会場に入る小川氏と迎える枝野氏
代表選会場に入る小川氏と迎える枝野氏

――枝野氏の推薦人にも名前を連ねましたが、小川さんから見た枝野氏とは?

小川議員:

今回、枝野さん本人から直接「推薦人になってくれ」と言われました。この1年、枝野さんを側で見てきましたが、3年前の結党の功績が大きかっただけに、これまで立憲民主党はある意味、枝野さんのオーナー政党的な性格がありました。しかし、これからは少なくともマザーズ市場には上場した企業くらいになりますから、枝野さんはこれまでの姿勢を大切にしつつも、さらに幅を広げて、懐を深くすることが求められるだろうなと思っています。

党内外から出馬打診があり、正直驚いた

――この代表選で、小川さんが「出馬を検討」という報道がありましたが、なぜ辞めたのですか?

小川議員:
私は選挙区当選もしていないし、ずっと無所属で党務に携わっていないし、前原体制の執行部にいた責任もある立場でしたから、最初は自分が新党で代表に手を上げるなんて考えもしなかったです。

しかし、映画の影響もあったのかもしれませんが、党内の若手や中堅議員からの意欲の打診、時には先輩議員からも出馬を推す声が上がっているという噂が耳に入ったり、党外の有識者やネット上の声とか、とにかく党内外から「出馬しないか」という声があって、正直驚いたんですよ。

映画の影響もあったのか、党内から出馬意欲の打診が(映画『なぜ君は総理大臣になれないのか』より)
映画の影響もあったのか、党内から出馬意欲の打診が(映画『なぜ君は総理大臣になれないのか』より)

――小川さんが手を挙げるというより、周りが押してきたのですね。

小川議員:
打診が来た時、「選挙区当選が先決だと思っていますし、ここで名乗りを上げられるような立場ではない」と率直に申し上げました。

ただ一方で、もし万が一「20人の推薦人を集めるから一肌脱いでくれ」と血判状が届くまでの状況があるなら、それでも逃げ隠れするのだろうかとも思いました。ですから周囲にも相談し、「その時は人柱になるつもりで真剣に受け止めるべきじゃないか」と悩んでいました。

――しかし、枝野氏から推薦状の依頼が来てしまったと。

小川議員:
枝野さんから直接、推薦状の依頼を頂いたのは告示日の数日前でしたが、その際に有志の方からも「人数を揃えてお願いする状況ではない」と連絡があって、自分としては「ほっとしました」とご慰労申し上げたんです。

ただ、その時、若手には「自分も若い時からあらゆる政局に積極的に関わってきた。政局に関われば恨みも買うし大変だが、第三者風情で大人しくしていても得るものは何もない。少々やんちゃなことをやれるのが若い時なので、若手が政局に本気で関わり、議論したり行動するのは眩しいし、評価されるべきことだ」と励ましたんです。

「統計王子」がなぜスキャンダル追及?

――ところで、8月19日の厚労委では、橋本岳厚労副大臣と自見はなこ厚労政務官の不倫疑惑を追求しました。「統計王子がなぜ?」とファンや支援者から批判を受けたそうですね。

小川議員:
私は厚労委の筆頭理事でして、いわば政権批判の先頭に立たなければいけない立場でした。週刊紙報道については、「これはちょっと不謹慎だな。職員が寝ずに頑張っている中、副大臣と政務官が人目を憚っていたかわからないが、これは看過できないな」と思っていました。閉会中審査では、自分で立つべきだろうと30分質疑の時間をもらい、どうせ立つなら先頭打者で立つと。

政権批判の先頭に立たなければいけないこともある(映画『なぜ君は総理大臣になれないのか』より)
政権批判の先頭に立たなければいけないこともある(映画『なぜ君は総理大臣になれないのか』より)

――では、自ら疑惑を追及する気だったのですね。

小川議員:
これを不問に付すと野党もなめられるといけませんので、一言聞きますよと、事前通告もしていました。ただ、本当は厳しく申し上げた上で、さらっといくつもりだったのですが、当日、幹部からも「ここは厳しくやって欲しい」とリクエストがあって。結局、一言叱責を申し上げるつもりが、事実関係を2~3往復聞かざるを得なくなったので、自分としても「くどかったな」と。

くどくなったのはそういう事情なのですが、地元の支援者からは「大事な国会の時間なのに」と批判されて。ただ全体を見て頂ければ、質疑の中で取り上げたのはほんの数分で、大半は検査の議論だったのですが、そこが悩ましいところです。

新党は私の「ラストチャンス」

――新党について、ツイッターで「ラストチャンス」と投稿されていましたが、その意図は何でしたか?

小川議員:

新党は、かたちの上では1998年の民主党結党時に似ています。しかし、国民の信任、期待という政党のエネルギーが満タンになっているかというと、決してそうではないという厳しい自覚を持っています。

安倍総理の歴史に残る長期政権の最大の応援団は、我々不甲斐ない野党でした。水面下から海抜ゼロメートルに戻るのに、7~8年もかかったことに、国民に申し訳ない想いがあります。しかし、ようやく戻ったので、ここからプラスを積んでいけるように頑張らないと。

私は初当選の時から50歳を意識してきましたし、最後の貢献は潔く身を引くことだと思っています。自分の残り時間との関係を含めて、新党は私の「ラストチャンス」だと。政治家としての原点に立ち返って、決意を込めて「ラストチャンス」という言葉を使いました。

50歳を意識してきた小川氏。新党は「ラストチャンス」(映画『なぜ君は総理大臣になれないのか』より)
50歳を意識してきた小川氏。新党は「ラストチャンス」(映画『なぜ君は総理大臣になれないのか』より)

――菅自民にどう対峙しますか?

小川議員:
こちらは海抜ゼロですが、自民党は例えは悪いかもしれませんが、高潮、高波ですね。菅さんは手強いですよね、多分。安倍総理はどこかで隙のある人でしたが。官房長官人事に注目したいですね。

新しい展開には新世代が台頭しないと

――小川さんご自身の人事はどうなりますか?

小川議員:
私は枝野さんに、この半年間、諫言を厭わずの姿勢でやって参りましたので。やはり前原さんの時もそうでしたが、本人が見えていると思うことは周りがとやかく言う必要はなくて、見えていないと思えることを敢えて言わせてもらったから、ちょっとかわいくない奴だと思われているのかな(苦笑)。

――立憲民主党はなかなか世代交代がありませんね。小川さんのような次世代が前面に立つことが期待されているのではないですか?

小川議員:
私たちの世代は先輩を支えるのが半分、自分たちが精進を図るのが半分。ただ、本格的に新しい局面・展開を図るには、近い将来、新世代が台頭しなければいけないという思いはあります。先輩方には煙たいかも知れませんが。

今回頂いた出馬の打診には驚きましたが、近い将来、そういう声をまた頂けるような存在であるためには、政策や人付き合い、そして何といっても選挙区当選をして、その条件を整えていく努力をしなければいけません。もちろん、声がかかるかどうかは結果論ですが、自覚と備えをしっかりやっていく責任があると思います。 

――ありがとうございました。

9月11日、衆議院議員会館にてインタビュー
9月11日、衆議院議員会館にてインタビュー

インタビューを終えて

「なぜ君は総理大臣になれないのか」の前に、まずは「なぜ君は野党の代表になれないのか」がハードルだ。

国民は与野党の切磋琢磨、緊張ある政策議論を望んでいる。そのためには、野党第1党がいつまでも不甲斐ないままではいけないのだ。次世代が台頭し、党が一層活性化することを望む。

映画写真:(c)ネツゲン

【聞き手・執筆:フジテレビ 解説委員 鈴木款】

鈴木款
鈴木款

政治経済を中心に教育問題などを担当。「現場第一」を信条に、取材に赴き、地上波で伝えきれない解説報道を目指します。著書「日本のパラリンピックを創った男 中村裕」「小泉進次郎 日本の未来をつくる言葉」、「日経電子版の読みかた」、編著「2020教育改革のキモ」。趣味はマラソン、ウインドサーフィン。2017年サハラ砂漠マラソン(全長250キロ)走破。2020年早稲田大学院スポーツ科学研究科卒業。
フジテレビ報道局解説委員。1961年北海道生まれ、早稲田大学卒業後、農林中央金庫に入庫しニューヨーク支店などを経て1992年フジテレビ入社。営業局、政治部、ニューヨーク支局長、経済部長を経て現職。iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授。映画倫理機構(映倫)年少者映画審議会委員。はこだて観光大使。映画配給会社アドバイザー。