猛スピードで突っ込んだ軽自動車。走り去る車の後ろで、一人の若者が命を落とした。
2022年6月29日、大分県別府市で起きたひき逃げ事件から3年が経った今も、容疑者の姿は見つかっていない。

■愛する息子の命を突然奪われた母親の願い
亡くなったAさんの母親:息子がこの世からいなくなって、あっという間に3年が過ぎようとしています。未だに信じられません。もっと幸せな時間をこれからは過ごすはずでした。笑って息子の成長を喜ぶはずでした。こんなにも捕まらないなんて….。
大学生だった息子Aさん(当時19歳)を失った母親は、事件から3年がたとうとする2025年6月26日、そう思いをつづった。
愛する息子の命を突然奪われた悲しみを抱える母親。
そして今なお行方が分からない容疑者―。
その人物こそ、重要指名手配犯・八田與一容疑者(28歳)だ。全国に指名手配され、警察が血眼になって追う人物の足取りは、今もつかめていない。

■あの日、何が起きたのか
事件当日、大学生のAさんとBさん(当時20歳)が、信号待ちをしていた交差点。ここが悲劇の舞台となった。
1台の軽乗用車がAさんとBさんに向かって、時速100キロ近くで突っ込んだ。
Aさんは死亡、Bさんはけがを負った。現場に残された携帯電話や財布などから、捜査線上に浮上したのが八田容疑者だった。
警察は当初、時効が7年の道路交通法違反のひき逃げの疑いで捜査を進めていたが、2025年6月2日、「殺人」と「殺人未遂」の疑いも加え、時効がなくなった。

■事件の直前に何が?
被害者Bさん:今、生きていたら(Aさんは)どんな生活を送っていたのかな。あの時、八田容疑者と遭遇する場所にいかなければとか、そういったことを思ってしまうときは多々ある。
事件で怪我を負ったBさんは、そう語る。
あの時、2人が八田容疑者と遭遇したのは、事件の数分前、現場からおよそ400メートル離れた商業施設だった。
歩きながら大音量で音楽を流していた八田容疑者とAさんの目が合ったところ、言いがかりをつけてきたという。
被害者Bさん:1分もないぐらいだと思います。本当に短い時間です。
八田容疑者との接触時間についてそう振り返るBさん。Aさんは謝り、その場でのやり取りは終わったという。
しかしその数分後、交差点で信号待ちをしていると…。
被害者Bさん:バイクのミラーを見たら、すごい勢いで光が近づいてくるのが見えて、F1とかでしか聞かないような、『ブーン』みたいな、回転数がどんどん上がっていくような音が後ろから聞こえてきて、『やばい逃げろ』って言おうとしたんですけど、その頃には追突された。ものすごい八田容疑者の殺意を感じました。
Bさんはこう振り返ります。
被害者Bさん:命を奪っておいて、ずっと卑劣に逃げ続けているっていうのは、本当にいら立ちしか感じないですし、年月を重ねるにつれ怒りは増していくばかり。

■八田容疑者とはどんな人物だったのか
捜査の容疑に「殺人」と「殺人未遂」が加えられ、時効がなくなった今、情報提供は1万件以上に上る。逮捕につながる情報には、最大800万円の懸賞金がかけられている。
これまで1万件以上の情報が寄せられながら、いまだ逮捕に至っていない八田容疑者。一体どんな人物なのだろうか?
八田容疑者と約4カ月交際 元交際相手:2018年の5~9月までお付き合いをしていました。一緒に暮らせたらいいねみたいな話をしていて。
八田容疑者の元交際相手はそう語り、こう続ける。
元交際相手:どちらかというと、おとなしい方の人だった。何か悪いことをしたり、人の悪口を言ったりそういうことが一切なかった。
しかし、その一方で、事件の”凶器”となった車に乗った時には、”別の顔”を見たという。
元交際相手:車に乗っていると、口調が荒くなったり、暴言を吐くこともあったかな。相手に向かって舌打ちしたり。

また、八田容疑者と一緒に暮らしたことがある友人Yさんはこう証言する。
八田容疑者と暮らしたことがある 友人Yさん:無免許でバイクを買って、そのバイクで飲酒運転をしたことがあると聞いた。ルールを無視しても構わないタイプだった。

さらに、取材を進めるとある人物にたどり着いた。
八田容疑者と事件直前に会った “親友”Mさん:最後に(八田容疑者と)会ったのが、本当に事件の数日前に会って、親友ですね。すごい充実してそうだなっていうイメージはあった。
八田容疑者と事件直前に会ったというMさん。事件後、警察が数回訪れたと話す。
事件に使用された車は、Mさんが八田容疑者に売ったものだったのだ。
八田容疑者と事件直前に会った “親友”Mさん:2020年の11月末ぐらいに売った。スピードは速いです。軽自動車にしては、相当速い方だと思います。
事件前、Mさんと毎日のように会っていたという八田容疑者。その時、親友に語っていたのは…。
八田容疑者と事件直前に会った “親友”Mさん:一定ラインの基準を超えちゃうと、『もうなんでもいいや』と思っちゃうタイプ。本人(八田容疑者)と話していると、何度か警察に捕まったっていう話があったし、そういったところの状況を聞くと、そこまでやるんだっていうイメージはあった。
さらにMさんはこう証言する。
八田容疑者と事件直前に会った “親友”Mさん:ハンドル握ったら、車に乗っちゃうと、どうしても口調が荒くなったりとかはよくあった。(事件当時)カッとなったまんま車に乗っちゃったから、『もういいや』ってなっちゃったのか…。

■「メイクが好き」元交際相手が語る 八田容疑者の今
今なお行方をくらましている八田容疑者。一体、今どこにいるのだろうか。
取材班が入手した八田容疑者の写真を見ると、口紅を塗り、カラーコンタクトを入れているように見える。
「メイクが好きだったので、メイクとかをして、ふつうに暮らしているかな…」と、元交際相手は推測する。
さらに、これは元交際相手がメディアに初めて明かした八田容疑者とのLINEのやりとりだ。
元交際相手:すっぴんでいいからね!!
八田容疑者:やだよすっぴん笑笑
出かける際は、メイクを欠かさなかったという。

■「ポイントは声」「声は絶対変わらない」
指名手配犯の捜査の経験もある、元徳島県警捜査一課警部、秋山博康さんは”あらゆる特徴”をもとにした、情報提供が捜査に欠かせないと指摘する。
元徳島県警捜査一課警部 秋山博康さん:(容疑が)殺人になって時効が無い。これがまたニュースになる。こうなってきたら絶対、八田容疑者にとってプレッシャーになります。あわよくば、観念して出頭してくれれば一番いい。ポイントは声。指名手配された容疑者は、変装したり、整形したりしますけど、声は絶対変わらない。

■遺族の切なる願い
事件から3年。亡くなったAさんの家族は、1日も早い”解決”を望んでいる。
亡くなったAさんの母親:本当にやっとです。時効は撤廃されました。でも八田を捜すことに費やす時間は減ることがありません。せめて私たちの生活から八田を捜す時間をなくしたい。八田の顔を見る時間、八田のことを考える時間をなくしたい。そんなことを願う日々からどうか早く解放してください。

自身の将来について語る映像に映る八田與一容疑者。「私にとって人生のプランなんですけど、そんなものありませんね。ないですね。」
八田與一容疑者、28歳。
わたしたちのそばに潜んでいるかもしれない。
(関西テレビ「newsランナー」2025月7月3日放送)
