今、全国で半数以上の企業が、後継者不在となっています。経営者は高齢化し、ビジネスモデルの変化で苦境に立たされている中小企業も少なくありません。こうした中、ITを駆使して新しいビジネスを始めた老舗酒店の3代目の挑戦を取材しました。

(登壇者は…)
「後継ぎとして、捨てさせない印刷物の質と効果に向きあっています」

1月21日、岡山市で開かれた「アトツギ甲子園」の中四国予選。中小企業の後継ぎが現在の経営資源を生かした新しい事業のアイディアを披露し熱量や持続可能性などを競う大会で、2025年で5回目です。

実はこの大会、出場者の年齢制限が39歳以下。全国の社長の平均年齢が60.5歳と33年連続で過去最高を更新し高齢化が深刻となる中、若者の事業承継に対するモチベーションを高めることが目的です

(経産省中小企業庁 薮内亮我さん)
「経営者が高齢化することで赤字企業が増えている。地域経済に大きな影響があるので改善策として、早期の事業承継が大事」

岡山県代表の藤田圭一郎さん(39)。約半世紀にわたり業務用の酒の販売を行う藤田酒店の後継ぎです。

(藤田酒店の後継ぎ 3代目・藤田圭一郎さん)
「家業を継続するために付加価値の高いビジネスを始めなければならない。そこで私は「スナップギフト」を立ち上げました」

圭一郎さんがアピールした新規事業「スナップギフト」とは。

岡山市の中心部、賑やかな繁華街にある藤田酒店です。

(藤田圭一郎さん)
「このシールは一番最初に注文を受けたラベル」

10年前に始めた酒のギフト用ラベルの事業「スナップギフト」。客はスマートフォン上で、ラベルにしたい写真やメッセージを入力し酒を注文します。狙うのは、国内の市場規模が10兆円を超えるギフト業界(※矢野経済研究所調べ)。コロナ禍には感謝を伝える手段としてギフトの需要が高まり、今も市場規模は拡大を続けています。藤田酒店のギフトは注文を受けたその日の発送も可能で、父の日などハイシーズンには全国から1日約200件の注文が入るといいます。

(藤田圭一郎さん)
「クオリティの高いラベルを目指していて、耐水・耐光で色あせない。何年も飾る人もいる」

京都の大学を卒業後、大阪で働いていた圭一郎さん。14年前、岡山に戻り父親が営む藤田酒店に入社しました。

しかし、その働き方を見て衝撃を受けたといいます。

(藤田圭一郎さん)
「365日、父や叔父が働いていた。信号が赤点滅とか、動いていない時間の方が街なかは動きやすいので、日が昇る前に配達して昼に終わって、夕方に開き始める居酒屋に納品する。(働きすぎて)恐ろしいと思った」

1000円の酒を1本売って利益は100円程度。業務用の酒販売は付加価値をつけて利益率を高めることが難しく、身体を酷使しながら経営を続ける状況が何十年も続いていたのです。

(藤田酒店2代目社長 父・浩己さん(65))
「利益率が低く付加価値がない商売で、ほとんど休みがなかった」

藤田酒店の創業者は圭一郎さんの祖父、良一さん。経営が傾き、一度は他の経営者に買い取られましたが、2代目となる父の浩己さんが家業を守りたいと買い戻しました。

(藤田圭一郎さん)
「小さい頃、店が上手くいっていない時に両親が新聞を解約しようとか、保険を解約しようとか、車を売ろうとか話すのを聞いていた。家業が良くなれば家族も明るくなるのが商売している家。自分が頑張ることで家族が幸せになるのはモチベーション」

現在の社員は4人。しかし画面の向こうには多くの仲間が。彼らは全国各地の学生でそれぞれ報酬をもらい圭一郎さんの指揮のもと販売サイトの運営などに携わっています。地方の中小企業が抱える人材確保の問題も柔軟な発想で前進させた圭一郎さん。

(藤田酒店2代目 父・浩己社長)
「息子が帰ってきてから売上も環境も変わった。かなり楽になった」

オリジナルラベル事業を立ち上げて10年。利益率は4倍で、累計の注文数は3万件を超えています。アトツギ甲子園では事業の実績と将来性が評価され、登壇した15人の中でベスト3に選出。2月に東京で開かれる全国大会への切符を手にしました。

(藤田圭一郎さん)
「小さな零細企業でも可能性がある。同じ境遇で苦しむ企業に勇気を与えるプレゼンが(全国大会で)できたら」

後継ぎとして会社の利益率を高めて家族を守りたい。圭一郎さんの思いは今、同じ境遇の中小企業にも向けられています。

岡山放送
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