鹿児島の木工職人のもとで技術を学ぶフランス人の家具職人がいる。きっかけはSNSに掲載された動画で、翻訳ソフトを駆使して弟子入りを志願。フランスにはない“スライディングドア”を広めたいと、技術を習得しようと頑張っている。

フランスの若者が魅せられた鹿児島の木工職人の技

若いフランス人の家具職人が、その技に魅せられ弟子入りしたのは、鹿児島県・大隅半島の東側、大崎町にある木工所・清水木工だ。建具や家具など注文を受けてから手作りしていて、清水慎也さんと妻の麻希さんが2人で切り盛りしている。

清水木工の清水慎也さん
清水木工の清水慎也さん
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白く瀟洒(しょうしゃ)な工房は天井が高く、開放的な空間。大きな作業台を囲むように、様々な工具、木やガラスなどの材料が置かれている。

工房の壁には、清水さんが製作したオーダーメイドのドアが立てかけてあった。格子や彫りにこだわったものや客船の丸窓のような小窓があるものなど、目を奪われるほどの存在感だ。どれも重厚なのに、木の表情がとても優しく、くぎを一切使わずに作られているのが特徴だ。

清水さんが作った障子をSNSで見て日本で学びたいと

2024年7月、清水さんのもとに「一緒に働かせてほしい」と翻訳ソフトを使った日本語の文章と履歴書が添えられたメールが届いた。メールの送り主はフランス人の家具職人、ケイモン・セバスチャンさん(27)だった。清水さんは「日本人も雇用したことがないのに、うまく雇えるかな。ちょっと待ってくれと思った」と戸惑ったという。

弟子入りのきっかけとなったインスタの動画
弟子入りのきっかけとなったインスタの動画

セバスチャンさんが日本で家具の勉強をしたいと思ったのは、清水さんが投稿したインスタグラムの動画がきっかけだった。清水さんが隣町の志布志市にある宿泊施設に障子を納品するとき撮影したもので、「曲げ格子」という技法で志布志の波を曲線でデザインした障子を設置する様子が掲載されている。4枚の障子の中に現れた大きな波。動画は逆光で撮影されており、窓の光を通して見る清水さんの障子は息をのむほど美しい。

この障子にすっかり心を奪われたセバスチャンさんは、「日本のドア、スライディングドア(ふすまや障子)の作り方を学びたい」と切望し、メールと履歴書を送ったというわけだ。その後2カ月におよぶやりとりを経て、セバスチャンさんは清水木工初の従業員として迎えられることになった。ワーキングホリデーの制度を使って、2025年1月から3カ月間、午前9時から午後5時まで勤務している。

スライディングドア製作の技術をフランスでも

フランスではあまり使われない、スライディングドア製作の様子を見せてもらった。3メートル四方の大きな引き戸になるという。

真剣な表情のセバスチャンさんが、木材の寸法を丁寧に測り、木を切っている。この工房から生まれる建具はくぎを使わない。ほぞを作る作業だろう。角材の両サイドを60度くらいの角度で斜めに切り、真ん中の部分は2本の長方形になっている。正面から見ると足を閉じ手を広げて立っている人のような形だ。

それを、あらかじめ形が合うように穴を開けておいた木材に差し込む。接合具合を確認した清水さんが「これはちょっと、裏と表で違うね」と、寸法が合っていないことを指摘する。

ずれは1mmにも満たないようなわずかなもの。しかし、くっつけては外す作業を何度も繰り返し、微調整しながら組み立てていく。根気のいる繊細な作業だ。しかし、清水さんはセバスチャンさんの仕事ぶりを「とってもGreatwork!スキルが高いので、頼りになります」と、自身のSNSで高く評価している。

フランスに帰ったら、自分の工房を作るのが夢だというセバスチャンさん。「スライディングドアをフランスに持ち帰って作りたい」と、意気込んでいる。若い家具職人が日本で学んだスライディングドアは、海の向こう、フランスの人たちの生活を、どんな風に豊かにしてくれるのだろうか。

(鹿児島テレビ)

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