「林さん、実は5人の課長のうちの1人が、こちらの期待したパフォーマンスをしてくれなくて困っているんです」
お話を詳しく伺っていくと、その課長さんは半年前に人事異動で他の部署から来た方で、課長職をやるのは今回が初めてだそうです。ただ、意気込みだけはあるものの、チームメンバーに仕事を任せるコミュニケーションがあまり上手くいかず、メンバーから部長に直接苦情や相談が寄せられているとのこと。
実際の業務遂行も滞りがちで、指摘すると「すみません、すぐに改善します」とだけボソッと言ったまま、あとは口ごもってしまうので困っている、というご相談でした。

「私は期待しすぎなんですかね?ちょっと課長に求めているレベルには達していないし、メンバーからも苦情が出ているので、早めに降格させたほうがいいかなと思い始めています」
そこで私から、「そんなふうに感じているんですね。ちなみに、何の制約もなかったとしたら、どうしたいですか?」と問いかけてみると、その方、間髪入れずにこう答えてくれました。
「そりゃ、せっかく仕事をする仲間になったんだから、一緒に何か一つのことを達成して、その喜びを分かち合いたいですよね」
理想的な関係について考えている部長さんの表情は、固く厳しいものから、徐々に優しい眼差しに変化していったのが印象的でした。
そして、コーチングの最後ではこんなことも話されていました。
「私、効率優先で物事を考えていましたが、話をしている中で、この課長さんも薄々上手くいっていないことはわかっているだろうし、いろいろ不安に感じているかもしれないと気づきました。きっとこの仕事に精一杯取り組んでいるだろうし、一緒に成功したいという気持ちを持ってやってくれていることは日々のやり取りから伝わってきますしね」
これは、期待の根底には相手と共存したいという「願い」がある、という一例です。
このように、私たちは期待と持つとき、その心の奥底で、「つながりたい」という願いや、「協力して何かを実現したい」といった感情、あるいは「共にハッピーになりたい」という夢を描いていたりするのではないでしょうか。

林健太郎
コーチ、リーダー育成家。合同会社ナンバーツー エグゼクティブ・コーチ。一般社団法人国際コーチ連盟(現・国際コーチング連盟)日本支部創設者。『否定しない習慣』『子どもを否定しない習慣』(ともにフォレスト出版)など著書多数。