ホタテによく似た「月日貝」という二枚貝がある。鹿児島では正月の贈答品としても人気だ。その月日貝に魅せられ東京から移住、鹿児島を代表する特産品にしようと奮闘する漁師がいる。
コリコリとした食感で美味! 名の由来は「赤い太陽と白い月」
「焼いたのがおいしい」「コリコリしていた」と話してくれたのは、バーベキューで月日貝を味わった客だ。

鮮やかな赤と白の2色の面を持ち、丸い貝殻が特徴的な月日貝。ホタテの仲間の二枚貝で、赤い面を太陽、白い面を月に見たててこの名が付けられた鹿児島の隠れた特産品だ。
経営コンサルタントから憧れの漁師に転身、月日貝と出会う
月日貝の魅力を広めようと奮闘する漁師を訪ねた。鹿児島県薩摩半島のほぼ中央に位置する日置市。東シナ海に面した江口漁港は、月日貝の水揚げ量が日本一だ。

漁は、海底に沈めた網を引きずる「底引き網漁」。貝の中でも泳ぎが得意な特性を逆手にとり、驚いた月日貝を網に追い込む手法で行われる。
日の出前の午前6時に出港し、沈めた網を船で引く時間は、2時間。根気のいる作業だ。

「網を引いている間は何を考えているか」という質問に、「人生とか恋について」と冗談で返すのは、漁師の佐々祐一さん(48)。9年前、縁もゆかりもない日置市に、家族と移住してきた。それまでは、東京で経営コンサルタントとして企業の課題解決などに従事していた。

「元々、魚だとか海が大好きで、それを一番近いところで仕事にして生きていきたいっていう思いがあった」と、決断の理由を語る。
憧れの漁師になるため、水産庁のデータから稼げる可能性を分析し、新規参入の漁師の受け入れ体制が整っていた日置市を選んだのだという。そして、出会ったのが月日貝だった。
月日貝は特別優秀。味も、見た目も、名前も、食味も、全部
多い時は、1回の漁で500kg近く揚がることもあるという月日貝。この日もまずまずのとれ高だ。「とれたての時は、貝殻がきれいな円を描いている」と佐々さん。

特別に、船の上で、とれたてを試食させてもらった。シャキシャキして食感が面白い。おいしいというのが取材した記者の率直な感想。ペロリとたいらげてしまった。
「月日貝が特別優秀。味も、見た目も、名前も、食味も、全部良い」と、佐々さんは月日貝の魅力を語る。
生態を研究。さらに、世界初の月日貝養殖技術の確立を目指す
ところで、月日貝はその生態がほとんど明らかになっていない。そこで、佐々さんは月日貝について研究しようと、漁協の若手漁師たちと会社を立ち上げた。

研究施設は、地元の水産会社の建物を借り、道具は自前でそろえた。
研究所の水槽をのぞいてみると、小さな点が浮かんでいる。漁でとった貝を一部持ち帰り、人工的に授精してふ化させた、月日貝の赤ちゃんだ。

佐々さんは、顕微鏡の画像を見せながら、「生まれて半月経たないぐらい。やっと貝っぽい形になってきた。」と説明してくれた。
透き通っていて、未成熟ではあるが、形がまん丸で真ん中がぷっくりと膨らんだ様子は、確かに貝の姿だ。
この施設で佐々さんは、月日貝の生態解明と、世界初となる養殖技術の確立を目指している。
月日貝のおいしさを発信する場をプロデュース 評判は上々
さらに、佐々さんは、月日貝のおいしさを発信する拠点として、「浜焼きBBQツキヒテラス」をプロデュースした。

海のきれいな景色を眺めながら、月日貝の浜焼きなどが楽しめる。
子ども連れで訪れた女性は「ホタテともまた違って、コリコリ具合がしっかりしていて、子どもも食べやすかったと思う」と話した。
また、別の女性は、「本当においしい。遠くから来たかいがあった。やっぱり味が違う」と喜んでいた。客からの評判は上々のようだ。
自分たちが見つけた技術で月日貝を日本の国民食に育てたい
鹿児島の月日貝は、ここ数年、徐々に全国にも出荷されるようになっている。

佐々さんは「鹿児島の月日貝をブランド認知してもらって、自分たちが見つけた養殖や種苗生産の技術を展開して、日本の国民食に育てていきたい」と、意気込んでいる。
月日貝が鹿児島を代表する特産品になる日は、そう遠くないのかもしれない。
(鹿児島テレビ)