フランス映画に出てくるような…
「拳銃を持った男の人の方にEポート北側の方から別の男が近寄ってきましたが、すぐにUターンして走って行ったような気がします。
すると拳銃を持った男はEポートの北側方向に向けてパーン、パーンと2回拳銃を撃ちました。拳銃からは白煙が上がっていたんです。
私のところからでは死角となったEポート北側にいた誰かを撃っていました。
アクロシティ内ではよくドラマの撮影をしているので、この時も初めは撮影かなと思ったので、まさか警察庁長官が撃たれたなんて夢にも思いませんでした。
男は拳銃を撃った後、速足でFポートの南側にあります白い壁の前に行き、停めてあった黒っぽい自転車に乗ったのです。
私のところからは植木などで視界が途切れながらも男は普通のスピードで走っているように見えましたが、そのうち視界から見えなくなってしまいました。
私の両目は多少の老眼はありますが、両目とも1.0で眼は良いほうだと思います。私のところからは見下ろす状況でしたので、当時雨が降っていましたが、男の行動はよくわかりました。
男の人着は、黒っぽい服装で、黒っぽい帽子をかぶり白いマスク姿でした」

実行犯の男は、黒っぽい帽子、白いマスク、黒っぽい服装で、黒っぽい前カゴつきの自転車に乗り、自転車を走らせマンション敷地内を横切っていったという。
この光景に驚いた篠田が、大声でキッチンにいた大学生の娘を呼んだ。慌ててベランダに来た篠田の娘も、自転車に乗って走り去る男を目撃している。
篠田は実行犯ばかりでなく、現場をうろつく別の男も見ていた。
共犯者だったのではないかという見立てもあり、実行犯らをその目で見た篠田証言は、その後も尾を引くことになる。
ひな壇の理事官は篠田から聴き取りを行った高島刑事を追及した。
「男の年齢、身長はどのくらいだ?」
「年齢や身長が何センチだったのかは一見して分からなかった様ですが、銃撃の様子を目撃した篠田さんはフランス映画に出てくるような光景だったと証言していました」
「フランス映画?外国人の可能性はあるのか?」
「外国人かはわかりませんが、男がスマートな体形で、華麗な動きをしていたためその様に思ったとのことです」
「外国人だったのか、そうではないのか徹底的に詰めてこい!!」

理事官が吠えた。
目撃情報は、言わずもがな犯罪を立証するうえで重要な証拠になり得る。
初動での証言に勘違い、間違いはないか、しっかり詰めることはもとより、事件が早期に解決しない場合は、発生から1カ月後、半年後、1年後に目撃者が新たに思い出したことはないかを追っていくことで新情報を得ることもある。
目撃者への聴き取りを重ねていくことが大事だった。
目撃者の中には夫婦がいて、事件が起きたという認識がないにも関わらず、夫に「あれって犯人じゃない?」と聞いた妻もいたという。
見る者に何かの事件の犯人と思わせる強烈な印象を与えた自転車の男について、目撃者は実に住民13人にも及んだ。