11月21日に「ロシアに対する西側諸国の長距離兵器の使用への報復として」ウクライナ攻撃に使用された、ロシアのオレシュニク・ミサイル。ウクライナに残るミサイルの残骸は、その性能を伺わせるだけでなく、残されたパーツはミサイルの背後関係を見せることがある。
オレシュニク、KN-23ミサイルの残骸からわかること
プーチン大統領は12月6日、ベラルーシのルカシェンコ大統領と安全保障条約に署名した際、ルカシェンコ大統領の要請に応じるかたちで「ロシアは2025年にベラルーシにオレシュニク・ミサイルを配備する準備ができている」(12月6日タス通信)と述べて、バルト3国やポーランドに隣接するベラルーシに2025年後半にもオレシュニクを配備する意向を示した。

11月21日の発射で、約800kmという飛距離を実現したオレシュニク。ウクライナ軍が使用した射程約300kmの米国製ATACMSミサイル、射程約250㎞の英仏製ストームシャドウ/SCALP-EGより遥かに長い飛距離だ。
この性能でベラルーシに配備すれば、フィンランドの南端やドイツの東端、チェコ、スロバキア、ハンガリー北東部、ルーマニア北部が計算上は射程となりうる。さらに、プーチン大統領は、オレシュニクを準中距離弾道ミサイル(射程1000~3000km)と定義し、米国防省は中距離弾道ミサイル(射程3000~5500km)と見なしているので、オレシュニクの射程内には、もっと多くの西側諸国が入るかもしれない。
(参考:天空を切り裂く「オレシュニク」 ロシア・北朝鮮のミサイルが迎撃困難ならば、どんな手段があるか)
つまり、プーチン大統領が「世界に類似するものはない」(12月6日タス通信)とするオレシュニク・ミサイル配備で、ウクライナを支援し続ける西側諸国へ“警告”を与えたいということなのだろう。だが、“警告”に値するかどうかは、オレシュニクの性能いかんという側面もある。

ウクライナ当局は、オレシュニクのウクライナ国内に残った残骸を集め、その映像を公開した。
オレシュニクは複数の弾頭を搭載し、1発のミサイルが複数の箇所を攻撃できるミサイルだが、その弾頭はMIRV(複数個別誘導再突入体)と言い、「バス」という特別な装置の上にセットされる。ウクライナ当局が公開した映像のひとつは、この「バス」の残骸だった。バスには複数の弾頭がセットされ、ロケット・ブースターで大気圏上空に打ち出される。オレシュニクの場合、セットできるMIRVは6個で、宇宙空間でバスは小さなスラスターを噴射して回転。向きを変えて、標的に向かって個々のMIRVを放ち、大気圏に再突入させ、標的に向かわせ、6カ所を攻撃する、ということが残骸から浮かび上がったオレシュニクの能力だ。
さらに、プーチン大統領はオレシュニクは極超音速なので迎撃できないと述べたが、対応策はないのだろうか。
アメリカ・カリフォルニア州のミドルベリー国際研究所のジェームズ・マーティン不拡散研究センター・東アジア不拡散プログラムのディレクター、ジェフリー・ルイス氏は、IRBMは「すべて極超音速であり、イスラエルのアロー3や米国のSM-3ブロック2Aなどのミサイル迎撃ミサイルはそれらを破壊するように設計されている」と指摘した。(11月28日ロイター通信)
バスから投下されたMIRVは、重力で加速され、マッハ10を超える極超音速になるかもしれないが、大気圏外をバスとともに飛んでいる段階の速度はそこまでには達していない。だから、イージス艦から発射するSM-3ブロック2A迎撃ミサイルでも破壊できるかもしれない、ということなのだろう。
このように、ウクライナに残されたロシア軍ミサイルの残骸は、ロシア軍のミサイルについてさまざまな事を浮かび上がらせる。
ウクライナ攻撃に使用されたミサイルに日本製パーツのコピー品?
ウクライナ国防省情報総局は、ウクライナ攻撃に使用されたロシアのミサイル、ドローンの残骸を丹念に調べ、性能だけでなく、西側諸国で作られたどんな部品が使用されていたかを示す専門のHP(Іноземні компоненти у зброї)を立ち上げ、輸出管理の強化を促している。

こうした中、興味深い「お知らせ」が、日本の電子部品メーカー、ルビコン株式会社から11月26日付で出されていた。
その「お知らせ」には、「北朝鮮の短距離弾道ミサイル『KN23』と『KN24』に弊社製アルミ電解コンデンサが搭載されていたとの一部報道がありました」と、まず書かれていた。

2024年1月2日、ロシアは、ウクライナ第二の都市ハルキウに弾道ミサイルを打ち込んだが、ホワイトハウスは、飛距離が900kmであったことを示し、名指しこそしなかったものの二種類のミサイルの画像を提示し、そのうちのひとつがKN-23短距離弾道ミサイルだった。KN-23は、迎撃システムをかわすようにして飛行する変則軌道で飛ぶミサイルとしても知られている。
900kmも飛ぶのであれば、計算上は北朝鮮から九州北部や山陰地方に届く可能性も否定できない。

そんなミサイルに日本の電子部品メーカーの製品が使われているのだろうか。
ルビコン社の「お知らせ」は、「弊社製コンデンサではないことをお知らせ致します。弊社製品にはブランド名『Rubycon』を表示していますが、報道で公開された弊社品とされるコンデンサには『Rnboycan』と表示されており、弊社品ではありません」という内容であった。

探してみると、前述のウクライナ国防省情報総局が発表した画像には「Rnboycan」と書かれた部品が映っていて、「ルビコンコンデンサのコピー」との説明が明記されていた。ウクライナ国防省情報総局も偽物と認めたことになるのだろう。

他にも、KN-23ミサイル関連で、ウクライナの「ウクライナ国防省情報総局」のHPで指摘された日本企業2社の部品があった。
東芝の部品2種類が画像込みで紹介されていたが、東芝では模造品と判断しているとのことだった。その理由については「北朝鮮製ミサイルから見つかった半導体チップ上に印字してあった型番と同じ型番の製品があります」が、「製品上に印刷してある弊社のロゴの体裁や製品型番等のフォントに正規品とは異なる点が見られたためです」とのことだった。

次に、ウクライナ国防省情報総局が指名したのは、「NSK」と刻印されたベアリング(軸受け)だ。ベアリングは、大きさにもよるが、ミサイルに必要なジャイロや噴射の向きを変えるベーン、それに方向舵などで使用される可能性がある。
横行するコピー品の対応は企業だけでできるのか
NSKの略称で知られる日本精工株式会社は、「2月にウクライナで使用された北朝鮮製ミサイルから見つかった軸受は、当社製品とは異なる内容の刻印がされた贋物となります。社外秘である真贋判定のノウハウが社外流出した場合、悪意あるものによって真贋判定が困難な贋物が流出してしまうリスクが高まるので回答は控えさせてください」とのことだった。
つまり、どうやってニセモノと見破ったかのノウハウを明らかにすると、ホンモノ・ニセモノの判定が、さらに難しいニセモノを作られかねないと危惧しているということなのだろう。その上で「偽造品への対策につきましては、業界全体で取り組んでおり、税関などの法的機関と協働し、定期的な会合やセミナーで、偽造品の撲滅活動を進めています。NSKとしては、外国為替及び外国貿易法(外為法)に則り、厳格な輸出管理を行っているほか、販売代理店との間では“取引調査票”を取交し、需要者と用途に懸念がないかを確認、定期的に監査も実施している。また、WBA(世界ベアリング協会)を通じて、各国の関税当局及び業界と継続的な情報共有と法的措置を講じている。」と、専門用語の理解が必要な回答も寄せられた。
筆者には、これらの製品の真贋を見分ける術はないが、日本を射程とするかもしれないミサイルの部品に日本製品が使われている等と指摘されては、その企業にとってはたまったものではないだろう。
いくら自社製品の輸出に細心の注意を払っていても、企業レベルではニセモノの流通を発見し、それを停止させるまで責任を負うのは困難ではないだろうか。
その上、日本企業のブランドを刻印されたニセモノが、ある種の政治的意図をもって多種・多数、生産・流通される可能性はないのか。そうであるなら、個々の企業というより「悪意ある者にとって標的は日本」ということにならないか。
こうした事態への対策は、巻き込まれた個々の企業の問題と片付けられるものなのだろうか。
(フジテレビ特別解説委員 能勢伸之)