11月に行われた技能五輪全国大会で、山形県の家具メーカーに勤める家具職人が大会史上初の4連覇を成し遂げた。年齢制限で2024年が最後の挑戦、共に技術を磨いてきた仲間も揃って入賞するうれしい快挙となった。
若手職人が日本一を競い合う
輝く金メダルを首に掛け笑顔を見せるのは、山形・天童市の家具メーカー「天童木工」に勤める入社5年目の石橋葵さん(23)。
この記事の画像(14枚)11月下旬、愛知県で行われた「技能五輪全国大会」。石橋さんは、原則23歳以下の若手が技能レベルの日本一を競う大会で「家具職種」部門の最高賞・金賞を獲得し、大会史上初の4連覇を成し遂げた。
初めて金メダルを獲得してから4年間、“日本一の職人”という立場を守り切った石橋さんは「初めて4連覇・史上初という記録も立てられたのですごく幸せだなと思う」と語った。
しかし、自身が作った3連覇の大会記録を塗り替える快挙によって周りから注目を浴び、プレッシャーも感じていた。
2023年は結果にこだわるあまり、本番でうまくいかない、普段気付くことに気付けないところもあったといい、「ことしは金メダルも取りたいけど、結果より中身を特に重視するようにと思っていたので、4連覇の金メダルを取った時はすごくほっとした」と振り返った。
0.1mm単位の繊細な作業
石橋さんが目指したのは「誰が見てもきれいな家具」。
大会では事前に配布された図面に基づき、2日間・合計11時間でキャビネットを完成させる。それに加え、大会前日に仕様の一部変更というハードルがある。
石橋さんは図面が発表された8月から1日も休まず、練習に励んだ。
まずカタチにした後、効率的な手順を何パターンも考えながら製作、それから自身が苦手な扉の調整やどれだけ上手に作れるかを練習した。そして実際に11時間を計り、その中でどれだけの精度を出せるのかをひたすら試行錯誤していたという。
図面の変更も様々なパターンを想定して製作した試作品は全部で18個に上った。
大事な道具も念入りに手入れしたといい、「かんなの刃をどれだけきれいに作れるか、きれいに研げるかというのもそうだし、現地に行った時の湿度などでまた変わってくる。それを考えて、本番で自分が削りたい具合に削れるように調整した」と話す。
0.1mm単位の繊細な作業によって、隙間のない美しいキャビネットが完成した。
会社で議場や執務室の机など大型の特注家具を手掛けている石橋さんは「仕事をする上で仕上がりはすごく重要なことで、細かくできるようになった」と話し、普段の仕事で求められる技術が大会にも生きていた。
3人全員入賞の念願叶い“涙”
今回、天童木工として初となる出場した3人全員入賞という大きな快挙を成し遂げた。
石橋さんの金賞に加え、大滝陽平さん(23)が銅賞、庄司将史さん(22)が敢闘賞を受賞。3人は同じ入社5年目の同期で、今回念願の3人揃っての入賞がかなった。
石橋葵さん:
初めてだったので、1人で取るよりうれしかった。
大滝陽平さん:
盛り上がって感極まっていた。涙が出るくらいうれしかった。
庄司将史さん:
それ俺な。
石橋葵さん:
実際、庄司泣いてたもんな。
「出会えてよかった」3人で切磋琢磨
庄司さんは2人と一緒に頑張りたいと、2024年から部署を異動した。
仲間であり、ライバルでもある3人で並び、休みの日も集まって、時には石橋さんが2人にアドバイスしながら技術を磨いてきた。
石橋さんが製作したキャビネットに対し、庄司さんは「引き出しを入れた時の、最初はスーッと入るが途中から同じ力を掛けているのにゆっくり入っていくのが本当にすごいなと。それをしようと思ってもやっぱりできないので、すごい」と絶賛する。
このような引き出しの動きにするには、全体のバランスを見ながら後ろは入りやすいよう少し大きめに削って前の方は少しきつめに作る必要があり、かんなを1回掛けるだけで変わってしまうため、微調整をしながら何回も確認して最後に仕上げるという。
石橋さんは同期2人について「一緒に頑張れるというのはすごく大きい。同期として競い合うこともできたので、その分いままでより自分にもすごく厳しくなれた」と話す。
また、大滝さんや庄司さんも「切磋琢磨(せっさたくま)して頑張ってきたのがやっと実った」「同期だからこそ相談しやすい・話しやすいので、この同期3人でこの会社で出会えてよかった」と話し、3人は刺激し合えるいい関係を築いている。
次なる挑戦は「技能グランプリ」
ことし23歳の3人は今回が最後の技能五輪。
2023年に3連覇したあと、石橋さんは「技能五輪」にもう一度挑戦するか引退するか悩んだという。そこで「一緒に頑張ろう」と背中を押してくれたのが同期2人だった。
石橋さんは今後、選ばれたベテランの職人しか参加できない「技能グランプリ」に挑戦したいと意気込む。
「挑戦する楽しさ、みんなに楽しさを知ってもらいたい。職人として、人に笑顔になってもらえるような家具を作れるようになりたい」と話す石橋さんは、後輩に経験を伝えながら、これからも挑戦を続ける。
(さくらんぼテレビ)