鹿児島県総合体育センター体育館が老朽化のため、県は新たな総合体育館の整備計画を進めてきた。10年以上にわたり決まらなかった候補地がようやく決定したが、今度は工事業者が決まらず、整備計画は再び暗礁に乗り上げている。

候補地決定も事業者辞退で入札不調に

「こうした結果になって残念に思う」と、苦渋の表情をにじませたのは鹿児島県の塩田康一知事だ。2024年9月、新たな総合体育館の工事業者が決まらず、入札が不調に終わったのだ。

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現在の鹿児島県総合体育センター体育館は1960年に建設された。築60年以上の建物は老朽化していて狭いことなどから、鹿児島県では2009年から、全国大会や国際大会の基準を満たす新しい施設の整備を進めてきた。しかし、候補地選びは歴代知事のもとで二転三転した。

そして、鹿児島県の所有する鹿児島市のドルフィンポート跡地に決定し、基本構想を策定したのは2022年3月だ。計画が始まってから10年以上の時間が経過していた。長い迷走を経て、ようやく新しい体育館建設へと大きく動き出した、かと思われた。

体育館の建設に関して、鹿児島県は「PFI」と呼ばれる手法を選んだ。PFIとは公共事業で使われる方法の1つで、より効率的で効果的に公共サービスを提供するため、民間経営能力や技術的能力を活用するものだ。

鹿児島県の総合体育館整備計画でも、設計から運営まで民間事業者のノウハウを生かし、コストを削減しようと採用された。しかし、入札に参加予定だった2つの事業者グループは、辞退の意向を示してきた。

見積もりに“100億円以上”の差か

業者が辞退した理由は、鹿児島県が提示した整備費では「請け負えない」というもの。
鹿児島県は、当初245億円で計上していた体育館の整備費を、この時点で313億円に引き上げていた。

しかし、近年の物価高に加え、台湾の半導体メーカー「TSMC」の熊本進出に伴う工場建設により、工事費などが高騰した。313億円という額は、事業者にとっては「割に合わない」ものだったようだ。事業者側の見積もりとの差について、関係者は「100億円以上離れているのでは」と漏らす。

事業者選びという、新たな課題をつきつけられた体育館計画だが、鹿児島県に限った事例ではないようだ。全国でも、公共施設の入札不調が相次いでいる。
そこで、鹿児島県と同じPFI手法で公共施設の建設を進める、長崎市を訪ねた。

長崎市は、施設の老朽化などを理由に、市内60の給食施設を集約し、北部、中部、南部に3つの給食センターの整備を進めてきた。しかし、2023年4月に行われた入札で、南部給食センターの工事に関し、事業者からの応募はなかった。

入札不調を受け長崎市は「増額」へ

長崎市の学校給食センター整備室・松尾光憲室長は「建築資材や労務単価が高騰していることから、市が提示をしていた提案の上限額に収まらなかったのが理由」と当時を振り返る。

入札が不調になり、長崎市では規模や機能の縮小、整備手法の見直し、そして、整備費の増額という、3つの見直し対策を立てた。
しかし、必要な調理能力を小さくすることはできない。コスト削減のため、PFI手法を変えるという選択もない。結果的に、整備費を増額するしかなかった。

当初、59億円あまりだった整備費を、2023年7月に約67億円に増やした。価格の見直しについて、松尾室長は「直近の建築費指数に置き換えた。さらに、募集を開始してから提案書を締め切るまでの、地価の伸び率も勘案した」と説明する。

その結果、入札には2つの事業者グループが参加し、ようやく事業者が決定した。
松尾室長は「当時は、なかなか物価上昇まで見込んで上限額を設定するというのは、難しかった」と打ち明けた。

見直しで解決の糸口はつかめるか

入札不調という想定外ともいえる事態で、再び暗礁に乗り上げることになった鹿児島県の総合体育館整備計画。解決の糸口は見つかるのか。長崎市の例を参考に、検証してみた。

長崎市が見直しをした事項のうち、まず、規模や機能の縮小について。塩田知事は、新体育館の規模や機能は、全国大会を開催するのに必要最小限のもので、見直すのは難しいとしている。

続いて、整備手法について。PFIでは資金調達も民間事業者が行うが、塩田知事は「金利が上昇した影響で、事業者の負担が増えていると聞いている」と明かした。そこで、鹿児島県は自ら資金調達を行い、事業者の負担を減らす可能性を探っているという。

最後に、整備費の増額について。塩田知事は、12月3日の鹿児島県議会で「今般の建設コストの高騰などを踏まえると、事業費が増加する可能性があると考えている」と、増額の可能性を示唆した。

「8月上旬までは入札可能と考えていたが、設備工事費が高騰して難しくなった」と、民間事業者でさえ、そのスピードに追いつけないほどの物価の急上昇が招いた、今回の事態。

しかし、そもそも候補地選びを巡る長い迷走期間がなければ、急激な建設コストの上昇に直面することは無かったのではないか。

「県民に一流アスリートの競技を観戦できる機会を提供する」のが、新体育館建設の目的だが、観戦チケット代は払っても、鹿児島県が招いた混乱のツケは払いたくないものだ。
結局、負担を強いられるのが鹿児島県民ということにならぬよう、どんな方法で計画が進められるのか、注目しておく必要がありそうだ。

(鹿児島テレビ)

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