ピアスと編んだ髪がトレードマークの56歳。「変態な店」と自称する個性派社長が率いる、鹿児島・さつま町の地元密着型スーパーが話題を呼んでいる。全国から取り寄せた珍しい商品や、山間部とは思えない充実の鮮魚コーナーが、地域の枠を超えた人気を集めているのだ。

祖父母の思い受け継ぐ3代目の挑戦

鹿児島市から車で約1時間。周囲を山々に囲まれた盆地、さつま町に、そのスーパーはあった。「フレッシュ☆くまだ」は、30年以上の歴史を持つ地域の名物スーパーだ。

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社長の熊田卓三さん(56)は、50歳になって開けたというピアスに、編んだ髪がトレードマークだ。一見、やんちゃそうに見える社長だが、会話を楽しみにしているお客さんも少なくない。

この日もお客さんから「愛してるよ」と声をかけられていた。

熊田社長は、約80年前に創業した祖父母の酒店を受け継ぎ、23歳の時に現在のスーパーを開業した。「地域に根差した大きいお店にしたい」という父親の思いを胸に、熊田さんは独自の経営スタイルを確立してきた。

全国から集まる珍しい商品たち

一見すると普通のスーパーに見えるが、店内を歩けば驚きの連続だ。果物売り場には北海道の赤肉メロンや栃木の梨など、各地の特産品が並ぶ。

これらは「全日食チェーン」という、地域のミニスーパーや個人商店の経営者が共同仕入れを目的に設立した団体を通じて仕入れている。全日食チェーンには全国約1600店が加盟していて、その加盟店から産地のおすすめフルーツが届いている。

作り手の思いを大切にした品ぞろえ

熊田さんは「お店はエンターテインメントパークでないといけないので、ここに(ディズニーの)シンデレラ城を作った」と語る。その言葉通り、商品のラインナップや名付けには遊び心が満載だ。

例えば、さつま町産の本格焼酎を使ったカレーや、「こんなおいしいリンゴジャム味のサンドは食べたことない」と自信を込めて紹介するサンドなど、地元の味を生かした独自商品が目白押しだ。

“生産者の思いをお客さんにつなぐ” “物語のある商品を並べる” 社長がこのお店に託す役割が、商品のラインナップに込められていた。

20種類の刺身が並ぶ鮮魚コーナー

「フレッシュ☆くまだ」の最大の魅力は、充実した鮮魚コーナーにある。山間部にありながら、約20種類もの刺身が毎日並ぶという品ぞろえは圧巻だ。

約20種類もの刺身が毎日並ぶ鮮魚コーナー
約20種類もの刺身が毎日並ぶ鮮魚コーナー

ホッケやキンキ、ニシンの刺身など、鹿児島県内のスーパーではめったに見かけない魚も並ぶ。値札には刺身への自信をのぞかせる「これはうまい」といった、メッセージもちらほら。巻き寿司(ずし)はネギトロをたくさん入れすぎて、「ネギトロだらけ巻き寿司」というネーミングに!?

来店客からは、「さつま町は海がないから新鮮な魚が手に入りにくいが、ここはおいしいお魚が手に入る」と、内陸部という土地柄からも好評だ。鮮魚コーナー担当の脇真一さん(62)は、「(社長が)変な物ばっかりもってくる」と苦笑いするが、こんなことが気軽に話せるのも、社長との信頼関係の表れだ。

熊田社長は、「市場にいる魚は全部売れるようにしろ」という師匠(近所のお店の鮮魚主任)の教えを守り、磨いた技を生かした売り場づくりに励んでいる。

中でも人気なのが、こだわりの“しめさば”。午前中でなくなることも多いという。

社長自ら市場へ こだわりの仕入れ

この充実ぶりの秘密は、熊田さん自身の仕入れにある。毎朝、鹿児島市や阿久根市の魚類市場まで1時間かけて足を運び、自ら品定めをしているのだ。市場に並んだ商品を購入した後、熊田社長はさらに、ある仲卸店へ。

「菜奈ちゃんおはよう」熊田社長が声をかけたのは、福山水産・勇元菜奈さん(31)。菜奈さんが手にしているのは、北海道の“蝦夷アワビ”だ。

「自家引き(個人で取り引き)しています」という菜奈さんの原動力は、食べることが好きなこと。熊田さんは、菜奈さんからから直接仕入れることで、他店にはない品ぞろえを実現している。

菜奈さんのところで魚を仕入れる理由を聞くと、「今からの未来がある人たちじゃん。21世紀のこれからの未来を背負っていく若者なので応援もしたいし、育ててあげたい」と熊田社長。その日のうちに、北海道から直送されたアワビが店頭に並んだ。

地域に根差し、愛されるスーパーへ

「僕ら個人スーパーだから、自分で好きなもの持ってきて好きなのを好きなように切って売ってるだけの話。だから“変態な店”って言われるんです。でもそれを面白がってきてくれるお客さんなんです」と熊田社長は笑う。

地域に根差したさつま町のご当地スーパー。そこには社長の愛情と、それに応えるお客さんの笑顔が満開だ。熊田社長のこだわりは店頭だけでなく、SNSでも発信されている。その日仕入れた魚などおすすめ商品を投稿する熊田社長のインスタグラムは、地域の人々の日常に欠かせない情報源となっていることだろう。

斬新なアイデアと行動力で、地域の枠を超えた人気を集める「フレッシュ☆くまだ」。その独自の経営スタイルからは、地方の個人商店の新たな可能性が見えてくる。

(鹿児島テレビ)

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