“世界で最も安全”と自称する中国で、無差別殺傷事件が相次いでいます。

11月11日には、広東省で車が暴走。35人が死亡し、43人がけがをしました。
16日には江蘇省の専門学校で、21歳の男が刃物で学生らを切りつけ、8人が死亡17人が負傷。さらに、19日にも湖南省で、39歳の男が運転する車に複数の児童がはねられました。

専門学校の切りつけ事件では、犯人とものとみられる遺書がネットには出回っており、そこには「毎日工場で16時間働いているのに給料がもらえず、学校は試験に合格しなかったことを理由に卒業証書を出さない」などと学校への不満とともに、「死をもって労働法の改正を促す」とつづられていたといいます。

なぜこのような凄惨な事件が相次ぐのか?専門家に犯行に至る“背景”を聞きました。
超格差社会が生み出した“絶望感”
慶応大学の小嶋華津子教授によると、今の中国社会は「超格差社会」で、競争が激しく成功ルートが限られており、誰もが官僚や外資系企業、大手銀行や大手民間企業などを目指す社会となっているといいます。

仕事や試験で失敗すると、「もう自分は成功ルートから外れてしまった」「もうやり直しがきかない」という絶望感に取りつかれてしまう社会の構図があるというのです。
さらに、歴代の政権にも増して、習近平政権は未成年者のオンラインゲームの時間を制限したり、「家庭教育促進法」を制定して、各家庭に対しプライベートにまで立ち入る政策を進めてきました。
「過干渉社会」「過管理社会」によって“個の自立”が育たず、「何かあったら社会のせい」という思想を生み出してしまったのです。

また、静岡県立大学の諏訪一幸客員研究員は、中国では人々が抱える不満を解決、解消する機会が少ないと指摘。
地域に「トラブル相談所」のような物は設けられていますが、職員に訓練を受けた専門家やカウンセラーはいないことが多く、十分な対応ができているか疑わしいそうです。
中国ではNGO(非政府組織)やNPO(民間非営利組織)などの活動も厳しく制限されているため、良心ある人々による懇切丁寧な対応も期待できないそうです。
国民を追い詰める“徹底監視”と“点数システム”
中国情勢に詳しい、キヤノングローバル戦略研究所の峯村健司 主任研究員は、一連の事件は「社会報復事件」だと話します。

――なぜこのような事件が相次いでいるのでしょうか?
峯村健司氏:
これはまさに、「社会報復事件」と呼ばれていまして、社会に対して今の制度や貧富の格差などをなんとか復讐してやりたいという意味で、市民を巻き込んだ形で派手にやると。
類似のケースが止まらない状況になっていますね。
――そのようなメッセージは、情報として発信されている?
本当に数秒で事件の関係の画像などは削除されているんですが、中国の人たちは削除慣れしているので、いろんな隠語を使ったりして、検閲逃れをしているんです。そういう人たちから広がっていって、かなり知られているようになっています。
それが結局止まらない。「私も復讐したい」という人が連なっていると…。

峯村さんによると、このような事件が頻発する背景のひとつとして、「徹底監視システム」があるといいます。

中国には、「天網システム」という、AI顔認証付きの監視カメラが2億台設置されており、約1秒あれば中国全土のどこに、誰がいるかが分かるといいます。この監視社会が「閉塞感」につながっているのです。

さらに、国民1人1人に点数が付けられる「国民の点数システム」が存在しています。
減点方式で、犯罪や借金を返済しない、路上駐車やスピード違反、飛行機でシートベルト着用サインが点灯している時に席を立つ、どの問題行動があると点数が減り、点数が低い人は飛行機や新幹線(中国版)に乗れない、出国できないなどのペナルティーが科されます。
ある程度点数が下がると「失信」という状態になり、ローンが組めなくなったり、仕事にも就けなくなります。自治体によっては身分証番号や顔写真を街頭のモニターで公開、電車のつり革広告に出すなど、日本の指名手配犯のような扱いを受けるところも。
国民は自分の点数を調べることができ、「自分はダメなんだ」と分かるようになっているそうです。
峯村健司氏:
一度「失信」になってしまうと、はい上がれないというか、ダメな人間のレッテルを貼られてしまうんです。となると、追い詰められて、仕事も探せないとなって、このような形で事件を犯すと。追い詰められた末に残虐な事件を起こしてしまうと。「信用システム」の弊害とみていいと思います。

カズレーザー氏:
僕は常にこの格好なので、常に監視されているようなものなんですけど、こういう誰からも監視されているような生活は意外とメリットもあって、プライバシーをどれだけ重要視するかなんですけど、例えば監視カメラが多くて防犯を高める地域と、プライバシーを守る地域がちゃんと区分けされているならば、有効性はあると思うんです。
ただ、そうなってはいないし、信用が減ってから取り返すというのが本当に難しいのが、セカンドチャンスがマジでない社会というのは、やっぱり絶望はするだろうなと思います。
元々生まれが良かったり、中国共産党の有力者の子とかが点数が上がりがちなどということも聞きますし、不平等をめちゃめちゃ感じると思います。
「想像したくないほどのインパクトが起こる」
相次ぐ無差別事件発生を受け、習近平国家主席は、 「各地方と関係部門は教訓をくみ取り、社会矛盾を解消し過激な事件の発生を防ぎ、国民の生命・安全と社会の安定を全力で保障しなければならない」と、“異例の重要指示”を公表しました。

しかし、この公表後も事件は続いているのが現状です。
峯村健司氏:
習近平氏というのは神様みたいなものなんです。超一強体制のトップの人がひとつの事件について、わざわざこの発言をするのは驚きでした。これが出てきたということは、これ以上事件を止めなくてはいけないという指示を末端まで出したはずです。
それで止まるはずが、まだ起きていると。いうなればこれは、最後の砦が崩れているという状況で、相当中国政府は動揺していると思います。

台湾メディアによると、この事態を受け、広東省政府は「四無五失(よんむごしつ)」という、以下の「9つの条件」に1つでも該当する人は管理を強化するとしました。

▼「四無」
①配偶者無し ②子ども無し ③家が無い ④無職
▼「五失」
①投資に失敗 ②人生で失意に陥った ③人間関係で不和を抱える ④精神状態が正常でない ⑤子どもの頃不遇だった人

峯村健司氏:
これもまさに、信用システムと同じ話なんですけども、登録して一度この条件に該当してしまうと、中国のどこにいようがずっと監視されている状況になるので、ますます追い込まれて暴発のリスクが高まる。非常に危険な措置だと思います。
(この先は)もう想像ができないです。締め上げている、暴発もできないシステムになっているんだけども、市民の人たちの不満だけがたまっていくとなると、これまでのいろんな国のシステムを見ても、例がないんですね。なので、本当に正直想像したくないほどの何かインパクトがあるのではないかと危惧しています。
(これに世界は待ったをかけることは)できないですし、日本は極めて近いですから、相当影響が出てくるというのは懸念しています。
(めざまし8 11月22日放送)