ラーメンもギョーザもペロリ 人気の「大食い動画」が削除?

ラーメン18杯を一気にかきこんだと思えば、笑顔でギョーザ21人前をペロリ。お次はテーブル一面に並んだ食材を、見るからに辛そうな火鍋の中に…。15キロもの茹でザリガニを平らげ、大量の殻が皿に積みあがった光景は圧巻という他ない。

これらは中国のSNSに投稿された動画の数々。その食べっぷりに驚く周りの人たちの様子もコミカルに編集され、こうした「大胃王」=大食い自慢たちの動画は人気コンテンツの一つになっている。ところが…

取材に応じてくれた「大胃王」ブーブーさん
この記事の画像(5枚)

「本当に突然でした。今はお腹いっぱい食べるのが罪みたい」。

オンラインでの取材にそうぼやくのは、中国企業が運営する動画アプリTikTokの国内版「ドウイン」でフォロワー30万人を誇る“女性大胃王”の一人、「ブーブー」さんだ。彼女が困惑するわけは、運営会社が突如発表した「大食い動画の禁止」だ。食べ物を無駄にしていると判断された動画は削除され、アカウントの停止などペナルティが科せられる。試しにドウインで「大胃王」と検索してみると、大食い動画はいっさい現れず、「食糧を大切に、浪費を拒絶しよう」といった食物の浪費を戒める呼びかけが表示された。

「作品を投稿してもアクセスがあまりないから、大食い動画の投稿はもうできません」。飲食店での大食い動画を投稿して、店から宣伝費を受け取っていた「ブーブー」さんだが、収入の大幅ダウンは免れないという。

習近平主席の「食べ物浪費禁止令」そのワケは?

習主席の指示を伝える人民日報

この大食い動画禁止のきっかけとなったのが、8月11日に発表された習近平国家主席の「重要指示」だ。中国共産党の機関紙・人民日報はこの指示を1面に掲載し、大々的に伝えた。習主席は「飲食の浪費現象は深刻で、心を痛めることだ」として、法整備を含め「食べ物の浪費」を断固阻止するよう対策を命じた。さらに、「食糧安全保障について危機意識を持たなければならない。特に今年、新型コロナウイルス感染症の世界的流行がもたらした影響は、われわれに警鐘を鳴らしている」と食糧危機にまで言及してみせた。

やや唐突にも感じるが、長江流域での洪水被害や、日に日に激化するアメリカとの対立なども踏まえ、国内の引き締めを狙ったとみられている。特に長江流域の豪雨では農地約600万ヘクタールが被災したとされ、穀物生産への影響が懸念されている。

国を挙げ「浪費反対キャンペーン」スタート

店頭に体重計を設置した湖南省のレストラン(ウェイボより)

もともと中国では、客に食べきれないほどの料理を出すのがもてなす側のマナーと考える風潮がある。現地報道によれば、飲食店での食べ残しは年間1700~1800万トン(2015年)に上る。習主席の指示を受けて、各メディアは一斉に「節約励行、浪費反対」のキャンペーンを展開。小盛りの料理を勧めたり、残さず食べると割引クーポンを出したりする各飲食店の取り組みの紹介を始めた。湖南省長沙市では、店頭に体重計を置いて、体重に応じた適正カロリーの範囲内での注文を求める店まで登場。これにはさすがに「やりすぎ」という声も上がったが、鶴の一声ですべてが過剰なまでに動き出す中国スタイルにはいつも驚かされる。

大食いで急死も?国営メディアが「大胃王」を非難

SNSで人気の「大胃王」もこのキャンペーンのやり玉に挙げられた。中国国営テレビは、映像を編集して食べたように見せかけ、実は食べたものを吐き出したりする人も多いと報じ、アクセス数欲しさに食べ物を無駄にする動画投稿者を厳しく非難。さらに、大食い動画を始めてわずか半年で体重が100キロから140キロに増え、配信の準備中に急死したという30歳男性のケースを紹介して、健康面でも警鐘を鳴らしている。日本でも時に一部のユーチューバーによる過激な行為が問題とされるが、このあたりの事情は同じらしい。

「ブーブー」さん 大食い動画の投稿は止めるという

トップの大号令は、果たして中国の食やネットの文化を変えるのだろうか。

「自分は本当に大食いだから、普通の量を食べているだけ。食べ物の浪費とは言えない」。ちょっと苦しい反論をしていた「ブーブー」さんだが、国の政策は支持すると言い、これからはダンス動画に挑戦するそうだ。

【執筆:FNN北京支局 岩佐雄人】