本を取り巻く環境が変化している。文化庁の調査によると1カ月に本を1冊も読まないと回答した人が、初めて6割を超えた。また、電子書籍の普及などの影響で、全国的に書店の数は減少を続け、この10年で約5000店舗がなくなったという。鹿児島でも町から書店が消えている。
人口減少や後継者不足で書店の数が減少
鹿児島県の北部に位置する、人口約2万3000人の伊佐市。2023年、この町から書店がなくなった。地元の女性は「手に取ってみて買いたいっていう時は、霧島市とか(熊本県の)人吉とかに行って買っています」と教えてくれた。
この記事の画像(12枚)鹿児島県書店商業組合によると、人口減少や後継者不足を理由に、2014年に約120店舗あった書店が、2024年には58店舗にまで減少した。
書店がなくなった伊佐市に隣接する人口約8400人の湧水町に唯一の書店「西書店」。
西書店は大正時代に創業した老舗書店だが、店主の西征宏さんによると「(お客さんが)思っていた商品がないと買わずに帰ることが多い」という。
個人経営のため販売できる冊数が限られ、希望の本を全て取りそろえるのが難しい。売り上げの支えになってきた地元の学校からの教科書の注文も、児童生徒数の減少に伴い減っているという。
そんな中、10月11日、鹿児島の地元紙・南日本新聞の読者投稿欄「ひろば」に、「趣味や実益満たす書店に感謝」という投稿が掲載された。
「私の町では、物心ついた小学校時代から同じ書店が約80年間続いている」という書き出しで始まる文面には、西書店への感謝の気持ちが綴られていた。
投稿した安藤薫さん(84)は、約80年間西書店に通い続けている。県内で中学校の国語教師をしていた安藤さんは「長野県の先生たちが、本屋さんに月給の何倍も借金をして本を買うことを自慢していると聞いて、それが刺激になった」と当時のエピソードを話してくれた。
現在も書店に通う習慣は変わらず、「見ている間に夢が湧いてくる。郷土に関係がある、こんな新しい本がある。なくなってほしくないですね」と安藤さんは好奇心いっぱいに店内を歩き、本を手に取っていた。
「米永書店」の新たな取り組み
厳しい現状の中、薩摩半島の最南端にある人口約3.8万人の指宿市で、新たなスタートを切ったのは、「米永書店」だ。
かつては地元の学校の近くで営業していたが、区画整理で移転し2024年9月に再びオープンした。店内に入ると大きな書棚が並び、スタイリッシュで開放感あふれる空間が広がっていた。
そして、米永書店・米永貞嗣さんが案内してくれたのは、小さな本棚。「貸し棚なんです。雑貨屋さんがいればコーヒー屋さんがいたり、木工屋さん、写真屋さんがいたり」と話す米永さんの視線の先には、小さな本棚に並ぶ商品が、まるで小さなお店が集まっているかのように並べられていた。この小さな本棚は、月2000円を支払うと誰でも棚主になることができ、書店に商品を委託して販売することができる。
さらに米永さんは、棚主になると書店奥のワーキングスペースで月に1度イベントを開く権利を持てるという、地域の人を繋ぐ仕掛けを施した。
2024年9月から棚を借りている、グラフィックデザイナー・ことうのぞみさんが始めたのは、指宿をPRするフリーペーパー作りのワークショップ。
初対面の参加者たちがおしゃべりしながら、指宿の好きなところを書いていく。和気あいあいとした雰囲気の中で、フリーペーパーを作成していた。
地域の人と人をつなぐ新たな書店作りに挑む米永書店だが、当初はそんな計画はなかったそうだ。区画整理による移転が決まり、倉庫にする予定だった米永さんの気持ちを変えたのは、福岡・朝倉市のカフェ兼書店「cuwano.Books Cafe Space」との出会いだった。
米永貞嗣さんは「福岡の朝倉という、うち(指宿)と同じ位の人口のところでカフェ兼書店をしていて。そこでお話をいくつか聞かせてもらった時に、頑張っている人がいっぱいいるんだなと思って」、「まだまだ書店にできることがある」と書店の可能性にかけている。
米永書店・米永貞嗣さん:
自分の中で「これ読みたい」という本を買ってマッチングしたときに、大きな喜びがあるし深みがあると思う。きっかけだけでもつくるれる本屋さんになれたらと思う。
2023年度に全国で閉店した書店は614店。これは1日に1.5店舗以上がなくなる計算だ。きょうもどこかで、街の書店がなくなっているかもしれない。
「地域になくてはならない存在」という声に応えるために、書店の試行錯誤は続いている。
(鹿児島テレビ)