11月17日は『世界早産児デー』。日本の出生数は年々減少し少子化が進む一方、早産などで小さく生まれる赤ちゃんの数は増加している。「低出生体重児」と呼ばれる2500グラム未満の赤ちゃんは、いまや約10人に1人の割合だ。早産などで小さく生まれた赤ちゃんの同窓会を取材した。
福岡市にある国立の九州医療センター。福岡県の地域周産期センターとして妊婦の救急対応やハイリスク妊娠に対する診療や高度な新生児医療を担っている。予定より早く生まれた赤ちゃんの治療を行うNICU(新生児集中治療室)では、28週以上の赤ちゃんを年間約260人受け入れ、専門的でより高度な周産期医療で小さな赤ちゃんの呼吸や心拍の管理、補助などを24時間体制で見守っている。
この記事の画像(7枚)子育ての悩みを共有 NICU同窓会
「よかったね。本当、大きくなったね」。会場で喜び合う親子や病院スタッフ。この日、九州医療センターで開かれたのは『NICU同窓会』だ。20年以上続いている。かつて1500グラム未満で生まれ、NICUで命を繋いだ子どもとその家族7組が参加した。このうち一卵性の双子の母親は「生まれたときは1205グラムと879グラムで、2人で2キロくらいだったんですけど、いまでは普通よりも大きいねと言われるくらい」と笑顔を見せた。
参加者たちは子育ての悩みや不安を共有したり、レクリエーションを楽しんだりして交流を深める。
九州医療センター小児科の松下悠紀医師は「小さく生まれることは通常のお産と違う。自問自答しながらお母さんになりきれなかったり、子供も発達がアンバランスだったりすることがあるので、同じ場所で同じような状況で生まれた親子同士が関わり合う、互いに労うのは、大きな力になる」と同窓会の意義を語った。
「とにかく生き延びてほしい」
「私の名前は原田楓です。好きな遊びは滑り台です」と自己紹介した原田楓ちゃん、4歳。母親の恵美子さん(37)は「娘の成長スピードが遅いことなどを共有できるし、病院のスタッフさんにも会ってこの子の成長を見せたい」と同窓会に参加した理由を話した。
後遺症や合併症もなく成長し元気に過ごしている楓ちゃん。原因不明の胎児発育不全で入院中に母親の恵美子さんの血圧が上がり、予定日より2カ月早い出産だった。「命に関わる状態になるのではないか、本当に無事に退院できるのか心配で…。とにかく生き延びてほしい、ただそれだけだった」と語る母親の恵美子さん。
わずか853グラムで生まれた楓ちゃんだったが、強い生命力を見せた。「早産だと肺が未熟なので、産声は聞けないと思っていた。でも1回だけ小さい産声をあげてくれた。それを伝えたらみんながすごいね!楓ちゃんの生命力すごいよと褒めてくれたので、この子の強さを認めてもらえたのが一番嬉しかった」と恵美子さんは当時を振り返り、改めて喜びを嚙みしめていた。
思い新たに 子どもと訪れるNICU
ゆっくりと、そして着実に成長する子供たち。毎年、同窓会では、かつて子供たちも生後に過ごしたNICUを訪れ、見学することが恒例となっている。「これ何?」ガラス越しに赤ちゃんに繋がれたチューブに興味を示す子供たち。「おっぱい。チューブ、管から」と看護師が答えると松下医師も「お母さんのおっぱいを入れてもらっていますよ」と丁寧に説明する。「がんばれ!」と子供たちから小さな命を応援する声もあがる。同窓会の会場からオンライン画面でNICUを見学した楓ちゃん親子は「頑張ってる、注射!」とモニターを見ながら懸命に生きようとする小さな赤ちゃんたちを見つめていた。
「自分を責めないで」と伝えたい
小さく生まれる赤ちゃんや37週未満の早産が増えている背景について松下医師は、妊娠出産の高齢化などによる合併症や母体への負担、不妊治療の影響などによる双子、3つ子などの多胎を挙げている。しかし、母親は子供を小さく産んでしまったことを自分のせいだと思い悩むケースが多いという。楓ちゃんの母親の恵美子さんも出産当時、自分自身を責めていたと話す。恵美子さんは自分の経験を踏まえ、同じ境遇の母親たちに伝えたいと言う。「出産する日が、もう少し遅かったら、無事に生まれてこなかった可能性もあるので、早く生まれてハンデは背負うかもしれないが、早い出産はその子にとってのベストなタイミングだと思うので、自分を責めないでほしい」。
医療の発展と共に救える命も確実に増えている。すべての子供と母親が自分を責めることなく出産や子育てができる環境づくりが求めらている。
(テレビ西日本)