トヨタグループで働いていた頃、当時の室長にかみつくことがありました。
例えば、残業を減らしつつ、成果を出そうという部署方針に対して、実務担当者としては、「そんなこと言われたって、できません」と本音を意見していたのです。
人は話を聴いてくれると冷静になる
そんなとき、その室長は「いいから黙ってやれ!」とは決して言わずに、「そうか、森くんはそう思うのか」と、ヒラ社員の私の意見を必ず受け止めてくれました。
ただし、振り返ってみると、私の意見を「受け入れてくれた」ことはほとんどありません。
話をしっかり聴いたうえで、「いずれ君も係長、課長と立場が上がると思うけど、もし君が課長ならどうする?」と「2つ上の目線」での発想を問いかけ、最終的に私は「キャリア(入社年数)とともに生産性を上げるべきだし、じゃあ、やってみます」と自分から言って終わっていました。
人間は相手が自分の話を聴いてくれていると思うと、冷静さを取り戻し、自分も相手の話を聴こうという気分になります。これを「返報性の法則」と呼びます。
当時の室長はこうした巧みな対応で、私のような部下を上手にマネジメントしていたのだと、あとでわかりました。

森琢也
株式会社クック・ビジネスラボ代表取締役。中小企業診断士。2007年明治大学商学部卒後、トヨタグループの大手自動車部品会社(デンソー)に入社。約10年の勤務後、リクルートマネジメントソリューションズに転職し、研修講師の採用・育成を担当し、2020年に独立