トヨタグループで働いていた頃、当時の室長にかみつくことがありました。

例えば、残業を減らしつつ、成果を出そうという部署方針に対して、実務担当者としては、「そんなこと言われたって、できません」と本音を意見していたのです。

人は話を聴いてくれると冷静になる

そんなとき、その室長は「いいから黙ってやれ!」とは決して言わずに、「そうか、森くんはそう思うのか」と、ヒラ社員の私の意見を必ず受け止めてくれました。

ただし、振り返ってみると、私の意見を「受け入れてくれた」ことはほとんどありません。

話をしっかり聴いたうえで、「いずれ君も係長、課長と立場が上がると思うけど、もし君が課長ならどうする?」と「2つ上の目線」での発想を問いかけ、最終的に私は「キャリア(入社年数)とともに生産性を上げるべきだし、じゃあ、やってみます」と自分から言って終わっていました。

人間は相手が自分の話を聴いてくれていると思うと、冷静さを取り戻し、自分も相手の話を聴こうという気分になります。これを「返報性の法則」と呼びます。

当時の室長はこうした巧みな対応で、私のような部下を上手にマネジメントしていたのだと、あとでわかりました。

『トヨタで学んだハイブリッド仕事術』(青春出版社)

森琢也
株式会社クック・ビジネスラボ代表取締役。中小企業診断士。2007年明治大学商学部卒後、トヨタグループの大手自動車部品会社(デンソー)に入社。約10年の勤務後、リクルートマネジメントソリューションズに転職し、研修講師の採用・育成を担当し、2020年に独立

森琢也
森琢也

株式会社クック・ビジネスラボ代表取締役。中小企業診断士。2007年明治大学商学部卒後、トヨタグループの大手自動車部品会社(デンソー)に入社。配属された経営企画部署では、製造現場でのトヨタ生産方式の浸透、グループ会社支援など、数千億円ビジネスの全体像を学ぶ。事業企画に異動後は、採算改善プロジェクトのリーダーとして、世界5拠点で生産する新製品の採算V字回復などに携わる。約10年の勤務後、リクルートマネジメントソリューションズに転職し、研修講師の採用・育成を担当。トヨタグループでの経験を活かして、コストと工数を大幅に削減しつつ、3年間で延べ8千人を超える40代以上ハイクラス人材の選考を行う。2020年に独立後は、経営コンサル事業にて、中小企業向け事業計画作成・実行支援を行い、補助金獲得総額5億円超、採択率90%以上を達成。また、研修事業では、大企業からの直接受注を中心に累計100社以上、参加者数6000人以上に研修を実施。複数の仕事(事業)を同時に取り組んできた経験も踏まえ、組織や個人の仕事の生産性向上を支援している。