保育が必要なものの保育施設に入れない子供、いわゆる「待機児童」の数で異変が起きている。静岡県内では減少が続いていた待機児童数が2024年、7年ぶりに増加に転じた。背景には保育士不足がある。静岡市の担当者は市内で200人以上不足していると推測する。
県内の待機児童が7年ぶりに増加
この記事の画像(13枚)保育施設に入りたくても入れない「待機児童」は、静岡県内では2015年4月に780人だったのが2017年には456人に減り、その後2023年の5人まで6年連続で減少した。
しかし、2024年は16人と前年に比べ増加。増加は7年ぶりだ。
保育施設の現状は?
静岡市駿河区の東豊田中央こども園。
0歳児から5歳児まで112人の園児が通っている。
このうち1歳児クラスは園児16人で、4人の保育士が担当。
保育士1人で何人の子供を見るか定めた国の配置基準では「1歳児は保育士1人につき6人」となっている。
それに対し静岡市は手厚い保育を目指し「保育士1人につき4人」と独自の基準を設けているが、現場の保育士はそれでも人手が足りない場面があるという。
1歳児クラス担任・相川萌さん:
生活リズムやその日の子供の体調を見ていると、保育士1人に乳児4人はなかなか大変。食事や衣服の着脱など丁寧に見てあげたい反面、集団で生活しているので時間で動かなければいけないところもあって、ゆったり見てあげられなくて大変
保育士どうしで助け合い
また、隣りの0歳児クラスでは国の配置基準と同じ、保育士1人が園児3人を担当している。
1人の園児が眠くなってしまったのでおんぶをしようとするが、もう1人の園児も抱っこしてほしいと泣いていた。そこで、他の保育士が泣いている園児をすかさず抱っこしてサポートに入る。
0歳児クラス担任・丸山香里さん:
おんぶも(私)1人でできないので、お手伝いしてもらってこんな感じになります。(他の保育士の)助けがないと本当に1人ではやっていけないのでありがたい
丸山さんは園児1人を背中におんぶ、もう1人を抱っこしていた。
午前の遊びが終わると給食の時間。テーブルごとに保育士がついて食事の世話をする。
1歳児クラス担任・相川萌さん:
だんだん自分で食べられるようにスプーンの持ち方やお皿をおさえて(食べ物を)取ることなどを丁寧に教えてあげたい反面、(乳児)4人を見ていると手一杯でゆっくり見てあげられない時もあって大変。食べるペースも全然ちがうので
食べている途中でウトウト、眠くなってしまう子も。
子供たちのお昼寝の時間も体温測定や食事の片付けなど保育士たちの作業は続いた。
静岡市の保育士不足は200人以上か
静岡県内の待機児童が増加した背景はこの保育士の不足がある。
静岡市では2024年度に入り7年ぶりに待機児童が発生。入園の申し込みが増えたのに対し、保育士が足りないことが要因とみられている。
静岡市子ども未来課・杉本竜哉 係長:
低年齢児のほうが1人の保育士で見られる子供の数が少なくなってくるので、そういったところで(低年齢児保育の希望が増えると)保育士の確保がより必要になってくる実情がある。静岡市全体で公立も私立の園も、どちらもそれぞれ100人以上の保育士が不足しているのではないか
静岡市は業務をデジタル化したり保育補助員を増やしたりして、仕事の負担の軽減に取り組んでいる。
仕事は多いけど給料は…
一方、現場の保育士たちは働く環境についてどう思っているのだろうか。
東豊田中央こども園・相川萌さん:
仕事も多く園で終わらなかったり、休憩時間も仕事をしたりすることが多い。時間外で働いた分がお金になるわけでもないので、もう少し給料が上がるなり手当がしっかりすればいいと思う
仕事量の多さや子供を預かる業務内容が給与と見合っていない点は、保育士の退職理由の上位にあがっている大きな課題だ。
東京都の調査によると、退職した理由として「給料が安い」をあげた人が29.2%、「仕事量が多い」が27.7%、「労働時間が長い」が24.9%だった。退職理由の2~4位だ。
保育士の待遇改善のために
専門家は、保育士の待遇改善には「保育士の専門性を多くの人が理解する必要がある」と話す。
常葉大学 保育学部・石田淳也 助教:
保育というのは「託児・預かる」だけではなく、より良く子供たちが育っていけるようにと先生たちが考えながら子供たちと関わっている。保育士は預かるだけではなくて、専門的な知識を持って子供がより良く育つためにやっている職業だということを、まわりの人も、保育士自身も持ちながら、みんなの意識が変わっていくといい
保育士は「子どもが好き」だけでは務まらない専門的な知識や経験が必要とされる仕事だ。
そんな中、保育士たちは多くのやりがいも感じているようだ。
東豊田中央こども園・相川萌さん:
子供の成長や子供と関わって元気をもらうのが一番。保護者と一緒に成長を共有しあってというのも好きなので、そういうところに元気をもらって頑張れていると思う
人間の土台を作る幼少期を支える保育士。
その大切さを社会全体で理解することが保育士の待遇改善、そして待機児童を減らし、住みやすい社会にすることにつながっていくはずだ。
(テレビ静岡)